第二十五話
お城に帰った私は疲れからか、三日三晩も死んだように眠り続け、何とか起きあがれるまでに体調が回復した。
みんなに心配をかけたから言えないけど、いいダイエットになったという密かな喜びは、心の中に隠しておこう……
「美子ちゃん、だいぶ元気になって良かった♪でもちょっと痩せちゃったね……」
「颯は元気だよね。流石はもののけだわ。」
「そりゃ、人間よりは体力あるもん!でも美子ちゃんが痩せちゃったら抱き心地が……」
ドカッ!
「抱き心地が何だって?」
「……いえ、何でもありません……」
そんなくだらない会話をして過ごしていると、左京さんが白蛇族の倭を連れて部屋へ入ってきた。
久しぶりに見る美少年……目の保養になるわ~♪でも残念ながら蛇……
「颯様、美子様、この度は無事のご生還、おめでとうございます。」
倭は私達の前に座って、深々と頭を下げた。
「ありがとう♪っていうか、みんなに伝わってるの?」
「もちろんです。特に人間である美子様の噂は凄いものがありますよ。」
「え?どんな噂?!」
「人間であるのに雪妖族や水妖族と対等に渡り歩き、底なし沼からも生還される素晴らしい力をお持ちだと。」
「そ、それは……ずいぶんと素晴らしい尾ひれがついた噂だね……」
雪妖族ってママの事だよね……んで、水妖族って蒼井くんの事……噂って怖いわ……75日で消えるかな……
「ところで、今日は何か用事があったんじゃぁないの?」
「はい。先日、私の成人の儀が行われまして、やっと大人になりました。」
「そうなんだ!100歳、おめでとう♪」
「ありがとうございます。それで、こちらを美子様に献上いたそうと……」
倭は大事そうに小脇に抱えていた箱を取り出して、パカッと蓋を開いた。
う、うわっ!!キモいっ~~!!蛇の抜け殻じゃん!!
な、何でこれを私に……?
私よりも先に、颯が抜け殻に反応した。
「凄いじゃん!完璧な形の抜け殻じゃん!しかも、成人になる時の抜け殻って家宝モノじゃぁないの?」
「はい。人間界では数千万の値が付くらしく、未来永劫繁栄が続くとされる幸運の印にございます。」
え?す、数千万の価値があるの?!そうとわかったとしても、気持ち悪過ぎなんですが……可能なら熨斗をつけてお返ししたい気分……
「美子様、受け取っていただけないでしょうか……」
「い、いや……こんな高価な物、受け取れないよ!大事に持って帰って家宝にしてよ!」
「お金の価値は関係ありません。ただ美子様に持って頂きたくて……」
何だか照れくさそうというか、はにかみながら話してますが……喜んで貰えると思って持ってきたんだろうな。私が引いてる事なんて想像もしてなさそうだ……
「じゃ、じゃぁ……大事にさせて貰うね……」
「はい!ありがとうございます♪」
「いや……こちらこそありがとう……あは……あはは……」
笑っているだろう、精一杯の引きつった笑顔を倭に返した。
これは部屋に置きたく無いかも……人間界の神社で祀ってもらおう……
「それで今度、主要族長に来て頂き、白蛇村で私の成人のお祝いをするのですが、是非美子様にもお越し頂きたいと思っています。ご都合はいかがでしょうか。」
颯を見ると、ちょっと難しそうな顔をしている。
「話しは聞いてる。僕と左京だけ行くって返事をしていた筈だけど……」
「はい。ご返信を拝見いたしましたが、是非美子様にも出席して頂きたく、お願いに上がりました。」
「だけど、美子ちゃんはまだ体力が完璧に戻って無いんだ。」
「やはり無理でしょうか……」
倭は懇願するような目を、私に向けてきた。
うっ……相変わらずの美少年っぷり……この顔でお願いって、ある意味卑怯でしょ……
「わかった……遊びに行くって約束してたし、行かせてもらうよ。」
「本当ですか?!ありがとうございます!姉上も喜びます♪」
「そういえばお姉さんがいるんだっけ?」
「115歳になる姉上がいます!美子様とお会いできるのを楽しみにしていました♪」
「そうなんだね!私も会えるのを楽しみにしているね♪」
倭は足取り軽く帰っていき、颯は深い溜め息をついた。
「はぁ……倭って絶対美子ちゃんを狙ってるって……それもあるから行かせたくなかったのに……」
はは……だから断ってたのか……
「どうせ倭も雪女の気配を感じ取ってるだけでしょ。」
「まぁ仕方ないか……各族と円滑に関わるのも、当主と奥さんの仕事だしね。」
「へぇ~。そうなんだ。」
「美子ちゃんが来てくれてから、何だか各族との交流がスムーズなんだよね!流石は僕の奥さん♪」
ドカッ!
本日二回目の鉄拳制裁を下す。
「だから……」
「……調子に乗ってすみませんでした……」
そして、白蛇族の村へ向かう日となった。村へ着いてお祝いの席へ案内されると、見知った顔が沢山いる。
「ママ~♪」
「美子!元気そうで何よりだわ♪」
ママは、山男のようなマッチョなイケメンと一緒に来たようだ。
「紹介しておくわね。このむさくるしい男は雪男の長で、涼って言うの。」
「は、はじめまして……美子といいます。」
むさくるしい男って……その紹介の仕方……
涼って人は、ママの言うことを気にも留めずに、私に微笑みかけてくる。
「あなたが美子さんですか。玲さんの娘さんだけあって、お綺麗ですね。」
「へ?い、いや……」
不意打ちの誉め言葉に照れていると、ママから冷たい空気が漂ってきた。
「あら、私の娘を口説かないでくれる?」
「口説いていないよ。挨拶をしただけだ。そっちこそヤキモチか?」
「ば、馬鹿言ってんじゃぁないわよ!何でヤキモチを焼く必要があるのよ!」
「ふん!こっちこそ迷惑なだけだ!」
あらら……もしかして同じ雪妖族なのに、仲悪いのかな……触らぬ神に祟りなしだな……
今度遊びに行く約束をし、そそくさとママ達と別れて倭のところへ行った。倭の後ろにはお人形さんみたいな美少女が立っている。私達の姿に気付いた倭が駆け寄ってきた。
「颯様、美子様!ようこそおいで下さいました!」
「倭、成人おめでとう♪」
「ありがとうございます!姉上を紹介しますね!」
倭が軽く後ろを見ると、美少女が一歩前へ出てきた。
ほぉ……流石は姉弟だわ……美形過ぎる……
「はじめまして美子様。私、鈴と申します。噂は色々とお聞きしております。」
「はは……誇大広告並みの噂だとは思うけど……鈴ちゃん、よろしくね♪」
「鈴ちゃん……」
「ご、ごめん!同じくらいの歳の女の子と知り合うのが初めてだったもんで……厚かましかったよね!」
「いえ……何だか親しみを持って頂いたみたいで、嬉しいです♪」
「良かったぁ♪」
鈴ちゃんと和やかに話をしていると、翔と瞬、蒼井くんが寄ってきた。
「よお!雪沢も来てたのか!」
「蒼井くん!元気そうだね♪」
「おかげさまで、水妖族のトップは俺が引き継ぐことになったよ。」
「へ?各種族に分けなかったの?」
「それは止めた。特に河童なんて野放しにしてたら悪さするだけだからな。」
「はは……成程ね……」
河童には会った事無いけど、何となく想像出来るのは気のせいだろうか……
「それで、水龍が別荘に使ってた豪華な屋敷があるんだけど、そこを他の種族に開放することにしたんだ。」
「へぇ~。誰かの別荘にするの?」
「いや、宿泊施設っていうか、人間界でいうリゾートホテルだな。それで今度泊まりに来ないか?」
「おお!リゾートホテルなんだ♪凄いじゃん!」
青い空!白い雲!エメラルドグリーンの海!あぁ……なんて最高級な贅沢なんでしょ♪こ~ゆ~のをセレブ生活って言うのかな♪
一人、感激に浸っていたら、颯がいじけ始めた。
「美子ちゃん……僕の目の前で逢い引きの約束なんて……」
それには蒼井くんも、思わず苦笑いだ。
「今回はお世話になった各族長をお招きしますので、颯様もどうぞ。」
「ほんと?」
速攻でご機嫌が治ったな……
蒼井くんは私達以外にも誘っているようだ。
「翔様と瞬様もご一緒にいかがですか?」
「私達も御世話になってよろしいのですか?」
「もちろんです。水龍から助けて頂きましたから。」
ママ達雪妖族も誘ったらしいけど、暑いところは苦手って事で断られたらしい。
そりゃそうだよ、メインは雪国だもんね……
「わ、私も行きたいです!」
急に飛び出た立候補に目を向けると、倭と鈴ちゃんだった。
「二人も一緒に行く?」
「あ……」
二人は顔を見合わせて、そっと俯いてしまった。
「もしかして、白蛇族の姉弟も一緒に外出は出来ないの?」
「はい……二人揃って命を落とすことがあってはいけませんので……」
鈴ちゃんがチラッと翔を見たかと思ったら、またすぐに俯いてしまった。それを見ていた倭が、ふう……と溜め息を零している。
「……今回は姉上に譲るよ。」
「ホント?嬉しい♪」
ふふ。鈴ちゃん、大喜びだな~♪同じくらいの女の子と一緒に出掛けるのは、私も初めてだし!
「ところで雪沢、お前水着持ってるか?」
「……え?あっ!」
蒼井くんに言われて思い出した!
そうだ!私って、スクール水着しか持ってないじゃん!しかも近所のお姉さんのお下がりだしっ!
「はは!その顔は、授業でも使ってた継ぎ接ぎのスク水しか無いって顔だな!」
「悪いかよ……」
「そのくらい買ってもらえよ。犬神なら水着くらいで破産しないだろ。」
「まだおこづかい残ってるから、自分で買えるもん!」
鈴ちゃんがキョトンとした顔をして私達の会話を聞いている。
「あの……水着って?」
「そうだ!鈴ちゃん!一緒に人間界へ買い物に行かない?」
「いいのですか?私、器はあるのですが、まだ一度も人間界へ行ったことが無いのです♪」
「そうなんだ!だったら私が案内するよ♪」
エロ狐の瞬がボソッと呟いた。
「人間界の水着かぁ……中々エロくて良いよな……」
「てめぇ……良からぬことを考えてるだろっ!」
「何を言っておるのだ!水着なら我が見積もってやるぞ!大船に乗ったつもりで安心せい!」
「いや、泥舟にしか思えないから……」
って事で、何故かぞろぞろと大人数で水着の買い出しへ行く事となった。




