第二十三話
颯が睨んでいた岩陰に、ふっ!と動く影が……緊張が身体を走り抜けた時、毛むくじゃらのゴリラが出てきた!!
え?何でこんなところにゴリラ?!ってか、白いから新種のゴリラ?!ゴリラよりふさふさだし、しかも服を着てるじゃん!!
気付けば、四方から白いゴリラが這い出てきて、ぐるっ!と囲まれている。
「そ、颯……」
思わず颯の着物をキュッと握ると、抱き締める颯の腕に力が入った。
「大丈夫……もののけだけど、今のところ悪意はあまり感じないよ。」
あ、あまりって事は、多少は感じるんだよね!そうなんだよね!
颯が白いゴリラに向かって、声を張り上げた。
「あなたたちの領域に入ってしまい、申し訳ありません!すぐに出て行きたいのですが、帰り方がわからないのです!」
白いゴリラ達が顔を見合わせていると、岩の陰からもう一匹年老いた白いゴリラが出てきた。その年老いた白いゴリラはゆっくりと私達に近づいて、目の前でじぃ~っと私達を観察し始めた。
「そなた達も間欠泉から来たのかい?」
ゴリラが喋ったっ!!
「はい。沼に落ちて、気付いたらここへ来ていました。」
「そうか……しかし、その人間の娘から何故雪妖族の気配を感じるのだ?」
な、何でわかったんだろう?颯と顔を見合わせて、年老いた白いゴリラをもう一度見た。
「あの……私の母が雪妖族なのです。」
「……母の名は何と申すのだ?」
「玲です。」
白い年老いたゴリラは眉間に皺を寄せて何かを考えていたみたいだけど、急に明るい顔になった。
「おお!ワシの曾々々祖父の兄弟が、雪妖族へ婿に行ったと聞いたことがあるわい!玲という名前も聞いたことがあるぞ!」
「そ、そうなんですか?」
「そうじゃ。ところで我々の天敵である犬コロが何故おるのだ?事と次第によっては……」
ジリッ!と、白いゴリラ達が颯ににじり寄ったのがわかった。
「あ、あの!この人は犬神族の当主で……」
ここで関係無い人って言ったら、颯だけ確実に攻撃されるな……こんな所で一人なんて、冗談じゃぁないっ!
「こ、この人は、私の夫となる人です!大事な人なんです!」
「ほう、そうかそうか。玲の娘も嫁に行く歳になるのか……」
白い年老いたゴリラは、感慨深げに目尻を下げた。どうやら本当に私と遠い血縁関係のようだ。
っていうか、白いゴリラが親戚って、かなりショックなんですが……
そして、勘違いした颯は、目をうるうるさせている。
「美子ちゃん……僕の事を大事に思ってくれていたんだね……」
こそっと颯の足を踏みつけて、ニコッと笑った。
「そうだね。颯が勘違いしなければね……」
「美子ちゃん、笑顔が怖いよ……微妙に足が痛いし……」
とりあえず家に来いと言われ、一軒の山小屋へ連れていかれた。丁寧にお茶まで出してくれるし、歓迎してくれているのはわかるから、ひとまず安全そうだ。
「そなた、名前は何と言うのだ?」
「私は美子といいます。」
「そうか、そうか……美子と言うのか。良い名前じゃ。」
「あ、ありがとうございます……で、おじいさんの名前は?」
「ワシか?ワシはイエティ族の長をしておるハンヌじゃ。」
イエティって、確かヨーロッパの山奥の雪男だっけ?って事は、ヨーロッパまで飛ばされたって事?
「あの間欠泉は、水に困った先祖が掘ったもので、何故か時空を超えてそなた達の居住区へ繋がっておるのだ。」
「そうなんですね……」
はは……流石はもののけの世界……何でもアリだな……
「それで、実はもう一本時空を越えておるらしい歩ける道があるのだ。」
「本当ですか?!」
話しによると、水脈と同時に掘られた洞窟があって、そこを通り抜ければ落ちた沼の近くまで行けるという言い伝えがあるそうだ。今まで間欠泉から出てきた人達は、イエティの姿に驚いて逃げたり、せっかく教えても洞窟の中で力尽きて死んだりしたようだ。
「真っ暗な闇が続く洞窟じゃ。三日か十日か一ヶ月かかるのかもわからぬ。途中で引き返す者、暗闇の恐怖に囚われて命を落とす者、さまざまじゃ。危険が伴う事も承知してくれ。」
「……はい。」
「犬神がおるのであれば、灯りは必要無いじゃろう。とりあえず今夜はここで休むが良い。明日には水と食料を用意しよう。」
「ありがとうございます。」
ふと、ハンヌさんは、私と颯をじ~っと見始めた。
「ふむ……夫婦になるのであれば、同じ寝床でええじゃろう。」
「……はぁ?!そ、それは困ります!」
「何故じゃ?まだ手付けも行っておらぬようじゃな。」
「まだ結婚していませんから!!」
「ならば今夜でも構わぬじゃろう。ほほ!若いってええな~!」
「い、いや……」
ハンヌさんは、笑いながら部屋を出ていき、颯と二人で取り残されてしまった。
まさか遠縁の親戚にまでエッチを推奨されるとは……
「そ、颯……あのさ……」
「なぁに♪」
うわっ!めっちゃ上機嫌!!
「その……同じ寝床って……」
「うん!楽しみだね♪」
「楽しみにするな~~!!」
「え?だって、もう親戚まで公認だよ!それに美子ちゃんにとって、僕は大事な人だもんね♪」
「それはハンヌさんの手前っていうか、あの場の勢いだろ!!」
「そ、そうなの?ショック……」
はは……久しぶりにいじけた颯だ……何となく安心するのは気のせいかな♪
「まっ!大事な人って言っておかないと、颯だけ追い出されそうだったからであって、他意は無いからね♪」
そう言った瞬間、ピクン!と颯が嬉しそうに反応した。
「僕を助けようとしてくれたんだ!やっぱ美子ちゃんって優しい~♪」
いきなりガバッ!と抱き付いてきたかと思ったら、額に柔らかいものがチュッ!と音を立てて触れた。
え?え?え~~?!今、額にキスした~~?!
「えへ♪嬉しくってチュ~しちゃった♪」
駄目だ……身体の横でプルプル震える拳を握りしめる。
「……颯、腹に力入れろや……」
「え?何て言ったの?」
ドガッ!!
「う……みぞおちに打撃は……」
「煩い!黙って殴られてろ!」
「……はい……」
夜になって案内された部屋には、当然のようにベッドが一つ、ソファは無さそうだ。
まぁ、山小屋だもんね。ってか、ソファーがあって当然って思うなんて、私も贅沢な人間になってきたな……
「あの……美子ちゃん……」
「何?」
思わずギロッ!と颯を睨んだ。
「い、いえ……何でも無いです……明日から体力使うし、早目に寝ようね。」
「……だね。」
しかし、狭いベッドだな……シングルよりも狭そう……これは二人で寝る事自体無理があるだろ……
「じゃぁお休み……」
颯はポン!と白い煙を立てて、仔犬になった。
「え?何で仔犬ちゃん?」
「この姿だったら床で寝ても毛があるから平気なんだ。」
「そっか……」
か、可愛い~♪ふさふさの毛に触りたい!仔犬ちゃんを抱っこしたい!うずうずするっ♪
我慢できなくなって、颯に声をかけた。
「颯、その格好なら一緒に寝る?」
「え?いいの?って、また小動物を愛でるような目をしてるし……」
「気のせいだよ♪ほら、ベッド狭いから人が二人だと無理があるけど、仔犬なら大丈夫そうだしっ!」
気のせいか、仔犬からジト目で見られてる気が……
「わかったよ……」
「おいで♪」
諦めたようにベッドの下まで寄ってきた颯を腕の中へ閉じ込めて、ベッドへ潜り込んだ。
「ん~♪相変わらず気持ちいい毛並み♪」
顔をすりすりとして、ふさふさの毛を堪能♪
「美子ちゃん……ある意味、僕にとっては拷問って知っててやってんの?」
「ん?何で拷問なの?」
「……何でもない。おやすみ……」
「おやすみ♪」
変な事を言うな……まぁいっか!今夜は子犬ちゃんを抱き枕にして、いい夢が見られそう♪
……ん。寒っ!流石は高地だな。冷え込んできたかも……
あまりの寒さに、夜中眠りから覚めてしまった。
でも眠たい……でも寒い……
ウトウトしながらも思わずブルッ!と震えると、ふんわりとした温もりに包まれた。
あ……温かい……心なしか頭を優しく撫でられている気がする……
小さい頃、ママが添い寝してくれていたような安心感に包まれて、そのまま深い眠りに入った。
……ん。眩しい……
窓から漏れ入る光で目が覚め、ふわぁ~!と欠伸をして身体を起こした。横では仔犬ちゃんがすやすや眠ってる。
「颯、朝だよ。」
仔犬ちゃんの身体を揺すると、ポン!と白い煙が上がって、人間の颯になった。
「ん~、むにゃむにゃ……美子ちゃん……」
寝言を言いながら手をごそごそと動かして、さっきまで私が寝ていたところで私を探しているようだ。
はっ!ま、まさか!昨夜の温もりって!!
「颯!!起きろ!!」
颯はビクッ!として飛び起きた!!
「何?何?何があったの?」
「颯、昨夜さぁ……ずっと仔犬だった?」
「……え?も、もちろんだよ!人間なんてなってないから♪」
いや、物凄く目が泳いでるし……
「本当だろうな……」
「本当だって!美子ちゃんが起きた時も仔犬だったでしょ♪」
「……まぁ、確かにね。」
「ほら!気にしないで、顔を洗いに行こうよ♪」
めちゃめちゃ言動が怪しいんですが……確証が無いだけに、これ以上の追求は難しそうだな……
出発前、沢山のイエティ達が見送りに来てくれていた。
「この種は、よく噛んで水で流し込むと、一粒でお腹いっぱいになってくれます。これで一週間くらいは飢えをしのげるでしょう。」
「この樽の中に、間欠泉の水をたっぷり入れておきました。少しずつ飲んで下さい。」
イエティの長の親戚だとわかると、みんなが協力してくれたみたいだ。
「本当に、本当にありがとうございます♪無事に町へ辿り着いたら、必ずお礼をしに来ますね!」
「いやいや、また大変な目にあっても困るじゃろ。無事であれば樽を沼とやらに投げ込んでくれ。」
「わかりました!ハンヌさんもお世話になりました!帰ったら母に報告しておきます♪」
「ほほ!頼んだぞ!」
「さようなら~!お元気でね~!」
手を振ってイエティの村を後にした。




