表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの彼女になりました!
22/75

第二十二話

 「立て!」

「抵抗するなよ!」


そのまま連行され、水で出来た鳥かごのような所へ入れられた。側では、水龍が家臣に命令を下している。


「人魚に、向かってくる舟は全部沈めろと伝えろ。犬の同盟は烏と狐だけだ。烏と狐なんざ取るに足りぬ。犬神の当主さえ殺してしまえば、恐れるものは何も無い。」

「はっ!」


片膝をついた家臣が頭を下げて去っていくと、水龍は私に向き直った。


「万が一という事もある。犬神の当主の死を確認するまでは、お前も生かしてやる。その後仲良く天国へ行け。」


う、うそ……こいつ最初から従わせる気なんて無いんだ!殺す事だけが目的なんだ!

私が捕まったせいで……みんな殺されてしまう……


ギュッ!と目を瞑って、その場にしゃがみ込んだ。


眠れない夜を過ごして、翌朝、食事を持ってきたのは蒼井くんだった。


「蒼井くん!」

「しっ!小さな声で喋ろ!」

「わかった……」

「犬はちゃんと届けた。助けに来た舟を沈めるっていう計画も話してきた。何か策を考えて助けに来る筈だ。」


早口でそれだけ私に伝えると、蒼井くんはすぐに立ち去った。


怪しまれると蒼井くんの立場も危ないんだろうな……


はぁ……盛大な溜め息をつきながら食事を頂いた。




 次の日になっても颯達は助けに来なかった。助けに来て欲しい反面、来て欲しくないとも思う。


「はぁ……複雑な乙女心……出るのは溜め息ばっかりだな……」


もう何回目かわからない溜め息をつくと、急に寒さを感じ始めた。


「寒っ!ここって南国だったよね?!」


ありえない寒気を感じていると、蒼井くんがやって来た。手にはロープを持っている。


「雪沢、助けが来たらしいぞ。」

「ホント?みんな無事なの?」

「その目で確かめたらいい。連れ出すのに縛っておかないといけないけど、すぐ解けるようにゆるめておくから、キツい振りをしてくれ。」

「わかった。ありがとう。」


蒼井くんは約束どおりゆるめたロープで私を縛り、砂浜にいる水龍のところまで連れて行った。水龍は私には見向きもせず、ただ海を見つめているようだ。


「な、何故だ……何故雪妖族が……」


今、雪妖族って言った?もしかして助けに来たのはママ?!


水龍は想定外の助っ人に驚いているようだ。でも海を見渡しても何も見えないし、異常なくらいの寒さを感じるだけだ。

そのまま海を見ていると、水平線に何か動くものが見えてきた。


パキパキッ!う、海が凍ってきた!!


そして凍った海の上を歩く集団が現れた。先頭は白い着物を着た雪妖族の集団だ!ママだ!!そしてママの後ろに颯や左京さん、翔、瞬達が見える。

砂浜のちょっと手前で集団は歩みを止めて、水龍との睨み合いが続いた。


「雪妖族よ。我々との協定の申し出を断り、犬の家臣になり下がったか。」

「勘違いするな。私は自分の娘を助けに来ただけだ。」

「な、何?!」


水龍と私の隣にいる蒼井くんは目を見開いて、私を見た。


「雪沢!お前、雪妖族の娘だったのか?人間だよな?!」

「親父が人間なんだ。」

「だからか……」


水龍はチャンスとばかりにニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべて、ママへ向き直った。


「雪妖族よ!娘を返して欲しければ、私に従え!」

「その必要は無い。貴様の命は今日限りだ。地獄で命請いをするが良い!」


ママが叫ぶと、南国の島にしんしんと雪が降り始めた。


「翔!風を起こせ!」


ママの合図で翔が空へ飛び立ち、扇子を振って風を起こすと、一瞬で辺りは目も開けられない程の吹雪になっていく。


「うわっ!こ、凍る!」

「寒い!動けない……」


水妖族の家臣達が震え出し、動きが鈍くなっていく。


「小癪な!烏さえ殺せば、雪なんぞ大したことないわ!」


水龍は大きな水の龍に姿を変え、空高く飛び立った。


「そうはさせるか!」


颯は叫ぶと同時に、炎を纏った大きな犬に変化して空高く駆け上がった!


「え?そ、颯が空を飛んでる!」

「こ、これが千年戦争を終着させたという……神の化身と言われた犬神の姿……」


蒼井くんが空を見上げたまま、呟いた。


そうなんだ……これが颯の本来の姿なんだ……


「す、凄い……本物をこの目で見るとは……」

「蒼井くん、そんなに凄い姿なの?」

「あぁ……伝説にもなっている、戦場を駆け巡る炎の神だ……犬神の当主の血筋でも何代かに1人しか居ないと聞いている。」


空では、颯と大きな水の龍がもつれ合いながら戦い始めた。

水の龍が水の塊を颯に向かって打ち出す!炎を纏った颯は水の塊を気にも留めずに水の龍に襲いかかる!段々と、颯が優勢になってきた!


「どけっ!」

「くらえ!狐火!」


地上でも左京さんや瞬達が火を使って、水龍の家臣達を蹴散らし始めている。颯に見とれていた蒼井くんが、はっ!と我に返り、私のロープを解き始めた。


「雪沢!今のうちに逃げろ!」

「うん!」


ドカッ!ドカッ!


「うわっ!」


蒼井くんがロープを解いている時、水の塊が蒼井くんを襲ってきた!


「人魚よ!私を裏切るつもりか!」


大きな水の龍は、地上へ戻って水龍のおじいさんに変わった。不意打ちの攻撃をまともに受けた蒼井くんは、蹲ったまま動かない。そんな蒼井くんを水龍は思いっきり蹴りあげて足で踏みつけた!


「ぐわっ!うっ……」

「こざかしい人魚よ、この件が片付いたらお前も処分してやる。」


そして、私を見たかと思うと荷物のようにサッ!と担ぎあげて、島の森の奥深くへ逃げ込んだ。


「待て!美子ちゃんを離せ!」

「そ、颯!!」


人間の姿に戻った颯やママ達が、後ろから追いかけてきている。そのうち森が開けて、一つの沼の前で水龍は止まって私を降ろし、ロープを掴んでみんなに向き直った。


「動くな!!動くとこの娘を突き落とすぞ!この沼は罪人を落とす底なし沼である!」


追いかけてきたみんながピタッ!と動きを止めた。


う、嘘っ!後ろの池って、底なし沼なの?!


半歩でも足を動かしたら速攻で沼に落ちるくらいの淵に立たされている状態だ!


「くっ……もう少し近寄れば沼を凍らせる事が出来るのに……」


ママが悔しそうにしている。


「これで私に手出しできまい。大人しくこの水龍様に従うと誓え!」


水龍がロープを持ち直した時だ。


……え?

緩めてあったロープが勝手に解けた!ってか、落ちるっ!!


「きゃぁ~~!!」

「美子ちゃん!!」


颯が猛ダッシュで私に手を伸ばしてきた!その手を掴もうと必死で手を伸ばしたけど、ドボン!と、そのまま沼へ二人とも落ちてしまった!!


ゴボゴボ……もう!最近こんなのばっかしじゃん!


目を閉じてるけど、誰かが私を抱き締めてきたのがわかった。


颯だな……


プシュ~~!!


「うわっ!!」


ドサッ!!

一気に沼の流れが速くなったと思ったら、急に何処かの荒れ地に投げ落とされた!


「痛たた……って、痛くない?!」

「み、美子ちゃん、下りてくれると助かる……」

「ご、ごめん!!颯、大丈夫?!」


地面に投げ出される時、咄嗟に颯が下敷きになってくれたみたいだ。急いで颯の上から退く。


「って、私達は沼に落ちたよね?」

「多分あそこが出口かな?」


颯が指差した先を見てみると、間欠泉が時々噴き上がっている。


「あそこから出てきたってこと?」

「恐らくね。」


とりあえず二人とも立ちあがって、周りを見渡した。低い木々が所々あるだけで、ほとんどが岩肌だ。


ってことは何処かの高地か……


「颯……ここは……」


見た事も無い風景に、不安が押し寄せる。


「大丈夫!美子ちゃんさえいれば、何とかなるよ♪」

「いや、その自信、意味不明だけど……」

「何となくそんな気がするからさっ!必ずお城に帰ろうね♪」


こ~ゆ~時、颯の笑顔は落ち着くな……


何の根拠も無いのに、本当にお城へ帰れる気がするから不思議だ。


「とりあえずここが何処かを把握したいから、ちょっとだけ岩山に登ってみようか。」

「わかった。」


ひとまずゴツゴツとした岩山を登る事となった。初めは緩やかだった岩山なのに、段々と険しくなってくる。


「美子ちゃん、上がれる?」

「たぶん大丈夫……って、うわっ!」


言った傍から足を支えていた石が崩れた!!

ガシッ!と颯に腕を持たれて、ちょっとした平地まで何とか登り切る。


「ふう……ここ最近、毎日死にそうな気分を味わってる気がするよ。」

「ごめんね……危ない目に合わせないって約束したのに……」

「まぁ、今回は颯のせいじゃぁないし、許してあげるよ。」

「ホント?!美子ちゃん優しい♪」


そう言いながら颯が、ガバッ!と抱き締めてきた!


「ちょ、ちょっと!!颯!」

「しっ……このままで……囲まれたみたい……」

「……え?」


颯は岩の陰をじっと睨んでいる。


ってか、必死で登ってきたのに、ここじゃぁ逃げれないじゃん!ピンチじゃん!


「美子ちゃん……」


颯が小声で話し掛けてきた。


「合図したら僕の背中に掴まって……」

「な、何で?」

「相手が危険だと判断したら、妖犬に変化して岩山を駆け降りるよ。振り落とされないように、僕の毛をしっかりと掴んでね。」


相手は狭い平地で戦えないくらいの人数なのか、気配を悟る事が出来ない私にとってはわからない。それでも今は、颯の言う事を信じるだけだ。


「……わかった。」


震えそうな声を絞り出して、何とか返事をした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ