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もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの彼女になりました!
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第十八話

 旅行の後から、時々ママと手紙のやり取りをするようになり、その仲介は翔が買って出てくれた。


まぁ実際に飛んでいるのは、伝書烏だろうけど……


そして今日も手紙を持って、城へ来ている。


「美子さん。今日のお手紙です。」

「翔、いつもありがとうね♪今日はパウンドケーキを焼いたから食べていってね!」

「ふふ。美子さんのお菓子を頂けるだけで、お手紙を運ぶ価値は充分にありますよ。」


翔と和やかに話をしていたら、颯がむくれながら間に入ってきた。


「ち、ちょっとぉ~!!美子ちゃんに近づき過ぎ!半径三メートル以内に入っちゃ駄目!」

「颯、ヤキモチですか。余裕が無い男は嫌われますよ。」


あ……翔のブラックオーラ放出スイッチを押したな……


「余裕ある訳無いじゃん!こんな可愛い美子ちゃんだよ!可能なら世界中の男の目に触れさせたくないもん!」


うわっ!中々破壊力のあるセリフじゃん!可能ならアンドリュー王子に囁いて欲しい♪今度、お面作って颯に被らせようかな~♪


……ん?あれ?大事な何かを忘れてるような……


「あぁ~~~!!!忘れてたっ!」

「ど、どうしたの?!何事?!」


颯が焦ったように尋ねてくる。


「見たかった映画、もう少しで終わりじゃん!」

「映画?」

「そそ!颯、人間界に戻ってきてもいい?」

「駄目!また家出するでしょ!」

「こっちにはママもいるし、大丈夫だよ♪ちゃんと戻るからさっ!」

「だったら僕も一緒に行くっ!」

「え?映画館はペット禁止だよ?」

「僕、ペットじゃぁないし……」


颯は後ろを向いて、畳にいじいじ始めた。


はは……颯のいじけた姿、久しぶりに見たなぁ……


「では私がお付き合いしましょうか?」

「本当?翔、助かるよ♪」


翔の申し出を、すかさず颯が却下する。


「駄目!二人だけだったらデートになっちゃうじゃん!」


またしてもむくれ始めた颯に、何かを思い出したように翔が尋ねた。


「颯、人間界の器は作り直していないのですか?」

「作り直したけど……」

「どのくらい前ですか?」

「……十ヶ月前くらい……」


それを聞いて翔は、ぷっ!と吹き出したかと思うと、身体を折り曲げてヒーヒーと笑い始めた。


「じ、十ヶ月ですか!」

「そんなに笑うなっ!」


え?え?まったく笑う意味が分からないんだけど……


キョトンとしていると、翔が三人で出掛けましょうと言い出した。


「それならデートにもならないし、颯もいいですよね?」

「それは……」

「颯、美子さんならどんな姿でも受け入れてくれますよ。」

「……わかったよ……」


話がまとまったみたいだけど、何でそんなに颯が渋るのかは当日わかるからって事で、教えて貰えなかった。




 迎えた映画を観に行く日、颯と翔と私の三人で祠の中へ入った。そして白い光に包まれて神社の境内に降り立ったのは……


「えぇ~~~?!赤ちゃんがいるっ?!」


私の足元に、まだよちよち歩きくらいの、目がくりくりっとした可愛い赤ちゃんが、ちょこんと座っていたのだ!

驚いて目を丸くしている私に、翔が説明してくれる。


「美子さん、颯の新しい器ですよ。人間界の器は人間と同じ成長速度なのです。」

「え?!じゃぁ、この赤ちゃんは颯なの?」


小さな赤ちゃんは、恥ずかしそうに頷いた。


「で、この器だと長い距離が歩けないんだ……」


うわっ!声まで可愛い~♪


思わず颯を抱っこする。


「大丈夫でちゅよ!ちゃんと連れて行ってあげまちゅからね♪」

「もう……こ~なる事が想像出来たから、美子ちゃんには見せたく無かったのに……」

「あら~、赤ちゃんがお喋りなんて可笑しいでちゅね♪ちょっとお口チャックちまちょうね♪」

「美子ちゃん……ちゃんと黙っておくから、その話し方止めて欲しいんだけど……」

「ふふっ!こんな可愛い姿見たら、無理だってば♪」


こうして颯を抱っこして、三人で映画館へ向かった。




 「はぁ……パトリック王子もカッコ良かったな~♪アンドリュー王子には敵わないけどね♪」

「今の人間界では、あのような人間が流行りですか?」


映画を見終わってもうっとりしている私に、翔が怪訝そうな目を向けてくる。


「流行りというか、人気がある乙女ゲームを実写化したもので、現実逃避的な憧れだね♪」

「なるほど……現実逃避ですか……」


映画の後、オープンカフェに来て、コーヒーとケーキを楽しんでいる。赤ちゃんにコーヒーは見た目に可笑しいって事で、颯は牛乳だ。

小さく切ったケーキをフォークに乗せて、颯の顔の前に持っていく。


「はい、颯ちゃん、あ~ん♪」


颯は渋々ながらも口を開けてパク!っと食べた。


「マジで可愛い過ぎっ!雛鳥に餌を与えてるみたい♪」

「美子ちゃん、僕らの世界ではやってくれないのに……」

「人間界ならいつでもあ~ん♪してあげまちゅからね♪」

「物凄く、複雑な気分……」


翔は私達のやり取りを、お腹を押さえながら笑って見ている。


「まるで美子さんの子供みたいですね。」

「ふふ。こんな可愛い赤ちゃんなら、いつでも歓迎だよ♪」


不満そうな颯が、ボソッと呟く。


「だから彼氏だってば……」

「あれ?空耳かなぁ~?赤ちゃんはお喋りちまちぇんよね~♪」

「……」


ここで、颯がそわそわし始めた。


「ん?颯、どうかした?」

「……厠へ行きたい。」


ぷっ!思わず吹き出した!


「颯ちゃん、おむつの交換でちゅか~♪」

「……子供用の小さい厠へ行けば、一人で用を足せるから……」

「ふふ!確か女性用トイレの近くに子供用があった筈だし、連れて行ってあげまちゅからね♪」

「……よろしく。」


若干不服そうな颯を抱っこし、翔を残して席を立つ。用を足した後、席へ戻ろうとすると、翔と同じテーブルに女の子が二人座っているのが見えた。


「あれ?あの二人……」


後ろ姿だけど、この前の家出の時に会った中学校時代の元同級生じゃぁない?うわぁ……関わりたく無いなぁ……


  『マジ、イケメン過ぎるんですけど~♪』

  『お兄さん!遊びに行こうよ!』

  『いえ……連れが居ますから……』

  『だったら連れも一緒にさ♪二人ずつで丁度いいじゃん!』


逆ナンか……ある意味、すげぇな……


隠れてやり過ごそうと思ってたら、ふっと目線を上げた翔に見つかってしまった。


「連れが戻って来ました。」


その声に、元同級生二人が私へ振り向いた。


「……え~~~?!美子じゃん!」


そりゃ驚くよね……


渋々ながら席に近づいていくと、翔が尋ねてくる。


「美子さん、お知り合いですか?」

「一応……中学校の元同級生……」


って、連れが戻ってもコイツら席から立つ気配無しって、ど~ゆ~厚かましさだよ!私と颯が座れないんだけどっ!


「もしかしてその赤ちゃん、美子の子供?だから高校に行けなかったんだ!」

「うわ~!昭和枯れススキの癖に、ヤリマンだったんだ~!」

「あっ!貧乏神だし、売春か!父親がわからないってか?」

「それ、マジヤバいじゃん♪」

「きゃはは♪」


くっ……コイツら、言いたい放題言いやがって……でも、いくら否定しても颯を抱っこしてる時点で言い訳にしかならないよな……


「美子ちゃんを馬鹿にするな!!」


……え?突然、颯が喋っちゃった!元同級生達が固まってる!!


「うそ…い、今、赤ちゃんが喋った?!」


ヤバいっ!


急いで颯の口を塞いだ!


「あはは……そんな訳無いじゃん!空耳だよ~♪」

「そ、そうだよね~!」

「あ~、びっくりした!」


あ、危なかった……


ひと安心したところで、今度は翔が口を開いた。


「そうそう、あなた達はいつまで席に座っているつもりですか?」


翔からブラックオーラが出始めたな……


「それに赤ちゃんは私の子供で、美子さんはベビーシッターですよ。」


元同級生達はまだ席から立とうとしない。


「あっ!そうなんだ!バイト中か。ってか、子持ちでもいいかも♪」

「なら赤ちゃんは美子に任せて、遊びに行こうよ♪」


コイツら食い付くなぁ……と思ってたら翔が立ち上がって、私の肩を抱き寄せてきた!


「美子さんには、この子の母親になって貰おうと口説いているところです。あなた達のように心魂が腐った下衆に用はありません。目障りなので、私の視界から消えて下さい。」


うわっ!し、翔……ブラックオーラ大放出!


元同級生達は口をポカ~ンと開けていたけど、ふと我に帰ったのか、毒づきながら立ち上がった。


「信じられないっ!趣味悪っ!」

「貧乏神の何処がいいの!絶対目が腐ってる!」


そんな二人にも、翔は余裕の笑みを浮かべている。


「いい趣味をしていると自負しています。そうそう、今日は突風が吹くようなので、気をつけてお帰り下さい。」

「言われなくても帰るわよ!」


元同級生達がプリプリ怒りながら店を出たところで、翔がパチン!と指を鳴らした。


「きゃ~!何?!この風!」

「助けて~!」


えっ?何?!


元同級生達の叫び声に目を向けると、風がスカートを巻き上げて、アンダーパンツ丸見えのまま走り去っていくところだった。


「ふふ。人間界ですし、あの程度の制裁で抑えておきますか。」


やっぱ、翔か……


「翔だけは敵に回したくないかも……」

「大丈夫です。私も玲さんのご息女を敵に回したくありませんから。」

「翔は最近、私の前では腹黒さを隠さないね……」

「ふふ。美子さんは素の私を見せても態度を変える事がありませんから、とても居心地がいいですよ。」


誉められてるのか貶されてるのか、微妙だな……




 帰り道、神社に向かって歩いていると、後ろから話し掛けられた。


「もしかして、雪沢?」


……え?誰?


颯を抱っこしたまま振り向くと、そこには中学校時代の元同級生の男の子、蒼井潤二あおいじゅんじくんが立っている。

蒼井くんはクラスの中でもスポーツが出来て頭が良くてカッコ良いと、絶大な人気を誇っていた。だけど私にとっては、特売のチラシを見てはからかってくる、嫌なヤツなのだ。


あちゃ……今日は同級生祭りかぁ。ツイて無いなぁ……


「やっぱり雪沢だ!何で高校に来なかったんだよ。俺、同じ高校へ行けるように勉強頑張ったんだぞ!」

「……は?」


同じ高校にって……ど~ゆ~事?!


「今は何をやってるんだよ。」

「え、えっとぉ……色々かな?あはは……」


ここは笑って誤魔化しておくか……


蒼井くんはチラッと颯と翔を見て、またすぐに私へ視線を戻した。


「ふ~ん……そういう事なら、またすぐに逢えそうだな。じゃ、お連れさん、お邪魔しました。」


そう言って、手を振りながらすぐに立ち去った。


「一体何だったんろう……」


つられるように手を振りながら不思議な感覚に捕らわれる。


「颯……今の人間、どう思いました?」

「妖しいね……」


颯と翔にとっても違和感があったらしい。


「二人も何か思ったの?」

「ええ……美子さんに抱っこされている颯を見て、お連れさんと言ったのも気になりますね。」

「そう言えば……」


何も聞かれなかったから、逆に不思議な感覚だったのかなぁ……


「人間の器の時は、はっきりとわかりませんが、もしかしたら我々の仲間かもしれませんね。」

「え?でも、中一からずっと同じクラスだったし、学校にもちゃんと通ってたよ!」

「成人した後、器を作れるようになってから、人間界で普通に暮らしているもののけもいますよ。」

「そうなんだ……」


そういやぁママも玲子って名前で普通に暮らしてたし、颯も颯太って名前で学校へ行ってたよな……

まぁでも、二度と会う事も無いよね!


その時は、そう考えていた。


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