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もののけの嫁として売り飛ばされました!  作者: 元々猫舌
もののけの彼女になりました!
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第一話

 「ねぇ~。美子みこちゃん、いいでしょ~♪」

「……ん。駄目……」

「いいじゃん!チュ~♪しようよ~!エッチしたいよ~!」

「だぁ~~~!!うっさいわ!!」



ガバッ!とベッドから起き上がって、宙に浮く颯太そうたを睨みつける。


「あぁ、起きちゃった。夢の中でしか触れられないのに……」

「毎晩毎晩、夢の中に入ってくるな!!」

「そんな事言っても……」


颯太は宙に浮いたまま、分かりやすく背中を丸めてイジイジし始めた。

このうるうるとした小動物のような瞳を持った幽霊、近所の神社に養子に来ていた幼馴染みの颯太だ。


………………


 初めての出会いは、颯太が養子に来た小学校2年生の時だ。ちなみに私はその時小学校4年生。野良犬に絡まれていた颯太を助けたのがそもそもの始まりで、その時、キラキラと純粋無垢な目を輝かせて言われた一言が「僕と結婚して♪」だった。


 可愛い弟が出来た気分で、何かある度に助けに駆け付けて、その度に『結婚して♪』とせがまれた。その度に『はいはい。私より背が高くなったらね。』と軽くあしらっていたのだ。


………………


深いため息をつきながら、幽霊の颯太へ話し掛ける。


「大体さぁ、いつになったら成仏するの?」

「そんなの分かんないよ~!美子ちゃんとチュ~♪出来たら成仏出来るかも!」

「幽霊とキスする趣味なんて無い!早く天国へ行って来い!」


駄目だ……話にならない……


再び布団の中に潜り込んで、目を閉じた。


「だって、せっかく彼氏になれたのに、三日間でさよならなんて、寂しいじゃん……」


それはわかってるけど……


………………


 中学一年生になった颯太は急成長して、成長期が終わった私の背をぐんぐん抜いていってしまった。


「美子ちゃん!僕の方が背が高くなったよ♪だから結婚して!」

「あのさぁ、私は頼りがいのある年上が好きなんだよね~。だから諦めてよ。」

「頼りがいのある年上?だったらぴったりじゃん♪まずはお試しでいいから付き合ってみてよ!」

「はいはい、まずはお試しで付き合ってからね。でも、結婚するとは限らないからね!」

「でも、もうちょっとで美子ちゃんは十六歳だし、結婚できる歳だよね♪」

「いやいや……年上って意味分かってる?」


 こんなやり取りの後、お試しで付き合うようになったのだけど、そもそも毎日学校から一緒に帰っていたし、何が変わった訳でも無く、付き合って三日目にして車に轢かれそうになった仔犬を助けて、自分が死んでしまったアホなのだ。


………………


「ねぇねぇ、美子ちゃん……」


颯太の声がすぐ近くに聞こえ、そっと片目を開けてみた。


って、目の前に唇を尖がらせて迫ってきてるじゃん!何やってんの!


だけど、幽霊の颯太の顔は、そのまま私の顔を通り抜けていった。


「やっぱ無理だし……」

「あのね、颯太のおかげで、すんごく寝不足なの!こっちは受験生なの!明日テストなの!いい加減にしないと怒るよ!」

「大丈夫だって!僕が解答覗いてきて、こっそり教えて上げるからさ♪」

「だ~か~ら!それじゃぁ、意味無いんだって!」

「そうそう!受験なんて意味ないよ♪」

「それは絶対に受からないってことかぁ~~!!」

「違う違う!違う意味だけどさっ♪」


………………


 あっ!私の名前は、雪沢美子ゆきざわみこ。市内の公立中学校に通う三年生。明日、高校受験を控えた立派な受験生だ。身長と体重は平均値、いわゆる中肉中背、スリーサイズは……こちらも標準としておこう。とりあえずお腹より胸が出ているからいいかな。


一応目は二重だけど、美人と言われた事は無い。モテた事も無い。

クラスの裏サイトでは、"貧乏神"や"昭和枯れススキ"と呼ばれている事も知っている。貧乏が滲み出ていたらしいし……

颯太だけが可愛いと言ってくれるけど、本当にそう思ってるんだか疑問だ。


………………


「あのね!ウチは颯太の家の神社と違って貧乏なの!借金抱えた親父と二人でやっと暮らしてんの!公立落ちたらどうしてくれんのよ!」

「だから、大丈夫だって♪」

「絶対に試験中は現れないでよ!」


再び、ガバッ!と布団を被って目を閉じた。




 翌日、寝不足気味の頭をフル回転させて、何とか試験を終えた。そして結果は合格だった!

わなわなと震える手に合格通知書を握り締め、親父に報告する。


「やったぁ~♪親父!合格したよ!」

「おお!おめでとう!制服はどうするんだ?お父ちゃんがどっかから拾ってきてやろうか?」


い、嫌な予感……


「……親父、それは盗むっていう意味じゃぁ無いよな。」

「何、言ってんだ!そこまではしないさ!……たぶん。」

「たぶん、じゃぁね~よ!私を犯罪者の娘にするな!っていうか親父が女子高生の制服盗んだら、ただの変態だろ!」

「いやいや、ただの冗談だよ♪美子ってばすぐ本気にするんだから!」

「親父が言うと、冗談に聞こえないってば……」


こんな事もあろうかと思って、制服代は自分で稼いだ。颯太の家の神社を早朝掃除に行って、こつこつ貯めたこづかいがある。


こんな時の為に早起き頑張って働いていて良かったぁ~♪


自分の部屋に戻って、ニヤニヤしながら貯金箱を開けた。小銭ばっかりだけど、四万円はありそうだ。


「ふふ!これで私も憧れの女子高校生かぁ……」


乙女ゲー『素敵な王子様』に出てくるアンドリュー王子みたいな優しくてイケメンで頼りがいのある先輩の彼女になって、初めてのキス……


きゃぁ~~~♪


「美子ちゃん、また妄想膨らましてるでしょ!」

「ぎゃぁ~~~!」


いきなり耳元で聞こえた抗議の声に、学習机の椅子からひっくり返った。


「って、何だ、颯太か。毎回いきなり出て来て驚かさないでよ。」

「何だじゃぁないよ!僕って男がいながら、浮気の妄想なんて……」


イジイジ……


って、またいじけてる……昔からこの仔犬みたくうるうるした目に弱いんだよな……


「だ、だってさぁ、女子高生だよ!JKだよ!憧れるじゃん♪」

「え?美子ちゃん、パンツ売っちゃうの?」

「馬鹿やろ~~~!!そんな高校生はごく一部の少数だ!いっぺん死んでこい!」

「大丈夫!もう死んでるし♪」


はぁ……頭痛がしてきた……幽霊と普通に会話してる私って、頭おかしいかも……


「ところで、美子ちゃん!もうちょっとで誕生日だね♪」

「よく覚えてたね。」

「そりゃ、記念すべき16歳の誕生日だもん!やっと結婚できる歳だしっ♪」

「いやいや、颯太は永遠に13歳じゃん!一生無理だよ。」

「それはどうかな~♪」


何だか意味深な笑いだな……まぁいいや。幽霊と結婚するなんて有り得ないしね!




 って事で、迎えた4月1日、制服を購入するために入学予定の高校へ行った。そこで、衝撃の事実を知ることとなる。


「え~~~?!キャンセルされてる?!」


受付のお姉さんに、詰め寄って確認する。


「はい。入学を辞退となっております。」

「そ、そんな馬鹿な!何かの間違いです!」

「いいえ。お父様からそのように連絡を頂いています。」


あの、くそ親父ぃ~~~!!!


親父に愛想をつかせたママが、家を出て行く時に残していった唯一の品、自転車を必死に漕いで、ダッシュで家に戻った。


「おやじぃ~~~!!どういう事か、説明してもらおうか!!」


帰ったと同時にリビングのドアを、バンッ!と勢いよく開ける。


って、あれ?颯太ん家の神社の宮司さんの、右京さんと左京さんがいるじゃん……


何で?って思う間もなく、親父の呑気な声が聞こえてきた。


「おお、美子お帰り!お父さんは嬉しいよ。」

「……はぁ?」

「お前もついに嫁入りか……元気でな。」

「親父、何言ってんだ?」

「颯太くんなら大丈夫だ。しっかりと支えていきなさい。」


ふと、貧乏家に相応しくないブツが目に入った。


「……親父、そこにある札束は何だ?」


親父は焦ったように手を広げて、背中に札束を隠している。


「え?いや……これは、ただの嫁入り支度金だ。あはは!」

「まさか娘を幽霊に売り飛ばして借金を返そうって魂胆じゃぁ無いだろうな!!」

「大丈夫だ!借金返しても余るから車も買えそうだ♪」

「それは、輿入れという名の人身売買じゃぁないか!!今すぐその金、返上しろ!!」


怒り心頭の私とクソ親父の言い争いを黙って聞いていた右京さんと左京さんが、話を遮るよう、にこやかに立ち上がった。


「美子様、お迎えに上がりました。」


……へ?今、間違い無ければ"美子サマ"とおっしゃいましたか?普段は"美子ちゃん"って呼んでますよね……?


「明日がお誕生日とのことで、やっと婚姻となりますな。」

「えっと……誰と?」

「もちろん颯様にございます。」

「颯様って颯太の事?だって、死んじゃってますよね?」

「大丈夫です。こちらの世界での器は一旦無くなってしまったので、只今作り替えているところです。ですが、我々の世界では本来のお姿ですよ。」


えっと……こちらの世界と我々の世界……?


頭の中が疑問符で埋め尽くされる。


「まったくもって、おっしゃっている意味が不明ですが……」

「我々も美子様を全力でお護りいたしますので、何のご心配もありません。」

「いや、全然説明になってないし……」

「では、早速参りましょう。失礼いたします。」


私の言葉に被せるようにそう言ったかと思うと、右京さんと左京さんが、ガシッ!と私の両脇を抱えた。


「ちょ、ちょっと!ど~ゆ~事?!」

「早速参りましょう。」

「え?え?え~~?!って親父!見てないで助けろ~!」

「暴れないで下さい。」


必死に抵抗して、親父に助けを求める。


「美子、幸せになるんだよ。グスッ……」


当の親父は札束で涙を拭く振りをして、こちらを見向きもしない。


「ふざけんな!くそ親父ぃ~!!」




 そうして、颯太の神社の裏手にある、古い祠の前に連れて行かれた。右京さんと左京さんは、抵抗する私の腕を掴みながら、器用に祠の扉を開ける。


「こちらから我々の世界に繋がっています。」

「ちょっ!ま、待って~~!!」

「いってらっしゃいませ。」


ドン!祠の中に押し込まれてしまった。


暗っ!!駄目だ!!怖いよ~!!


「誰か!暗いよ!助けて~~!!!」


思わずしゃがんで頭を抱えた時、急にぱぁ~!っと真っ白な光に包まれた。


え……?な、何……?


戸惑う間に光は段々と弱まっていき、視界がクリアになってきた。


「……へ?城下町?」


目の前には、歴史の教科書で見たような城下町の光景が、広がっていた。


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