エッセイ・「魔の農道」
「魔の農道」とよばれる通り、不思議と事故の多い場所がありました。
田んぼばかりでさえぎるものも何もありません。道幅だって、2台の車が楽にすれ違うほどあるのです。
わたしは車の免許を持っていないので、自転車でいつも農道を通るのですが、一年の間に、多いときでは三度ばかり事故処理を見ました。
それも、側溝に脱輪したり、曲がり角で車同士が接触したり、比較的軽いものばかり。
警察も、重大事故が起こっていないせいか、これといった対策もしていないようでした。
その日も、用事で農道を通りかかったら、またしても事故に出くわしました。
白の軽自動車が、田んぼの真ん中に落ちていたのです。こんな、なんでもないところで、いったいどうして? と自転車に乗りながら首をかしげたものです。
事故は起きた直後らしく、運転者らしいおじさんがあぜ道に立って、のんびりとパトカーの来るのを待っていました。
タイヤの半分まで田んぼに沈み、引き上げるのも手間だろうなぁと、つくづく気の毒なことでした。
その直後、ふいにペダルが軽くなり、あれっ? と思ったときには、田んぼの中でした。自転車もわたしも、ぬかるんだ泥にずっぽりはまり、どうしても抜けられないんです。
ほどなくしてパトカーが到着し、なぜか全然違う場所でそれぞれ田んぼにはまっている車と自転車を交互に不思議そうに眺めるのです。
とりあえず、警官に引っ張り上げてもらいました。
「あちらさんの車となにか関連があるの?」と警官。
「えっと――」わたしは口ごもり、「つい、気を取られていて落ちました」
2人の警官はあきれたように顔を見合わせ、
「ここは『魔の農道』とか言われているけど、おたくさんの場合、まぬけの『まの農道』だねぇ」
わたしは、恥ずかしさのあまり、耳までほてってしまいました。




