第4章:結ばれる契約
更新遅くなってまことに申し訳ありません。なにぶん学生ってのは忙しいもんで(言い訳
肩を上下させながら、雷雨と名乗る少女は目の前の化け物と対峙していた。
「ハァ、ハァ……! 力が……足り、ない!」
弱気な声を遮るようにして鬼は一直線に向かってくる。
何の考えもないただの突進。
だがその速度は尋常ではない。
イメージとしては、大型トラックが猛スピードで迫ってくるものと思ってもらって差し支えない。
その威圧感たるや、並みの者では身動きすら適わないほどのものである。
「なめ、ないでっ!」
しかし雷雨は冷静に対処する。
眼前にまで来た巨爪の軌道を見極め必要最低限の動きでかわし、その動きを殺さずに飛び上がりさっきと同じく顔面に蹴りを入れる。
だが今回の鬼はそれに耐えた。空中で完全に動きの停止した雷雨を鬼はその大きな腕で鷲掴みにする。雷雨は苦悶の声を上げた。鬼はそれに追い討ちをかけるように雷雨を弾丸のごとく投げ飛ばす。
細身の体は何本もの樹木を貫通しながら林へと消え失せる。砂塵が吹き上がる。
それを引き裂くようにして何かが飛び出してくる。
「集え! すべてを薙ぎ倒す雷よ!」
体中をボロボロにしながら、雷雨が鬼にも勝る勢いで走る。距離は一瞬で詰まる。
彼女の白い腕には思わず目を背けてしまうほどの雷が収束し、それはバチバチと音を立てながらまるで手甲のように右腕を覆い、雷雨はその腕を大きく振り被る。
「<雷神拳>!!」
雷撃の拳は豆腐でも貫くかのように容易く鬼のわき腹を抉り取った。
噴き出る鮮血と共に、この世のものとは思えない絶叫が響き渡った。
「………っ!」
拳を振り切った雷雨は、そのままの勢いで倒れた。今にも死にそうな息遣い。顔は蒼白で左腕はまったく動いていなかった。
「……ま、だ……」
震える体を無理矢理立たせて雷雨は化け物と向かい合う。わき腹は見事に抉れているが致命傷にまでは至っていないらしく、むしろ殺気を倍増させて爪を構えていた。
心底、あの子を逃がしてよかったと、雷雨は思った。
雷雨は既に動かない左腕に巻かれた包帯を見る。
突然戦場に迷い込んできた少女の弟。化け物を目の前にして恐いと豪語しながらも逃げ出さず手当てをしてくれた不思議な男の子。
彼は将来、とんでもない大物になる。
あの少年に触れた時、雷雨は確信に近いものを感じた。
そして、そんな男の子を見て雷雨は思った。
この子を、守りたい。
雷雨はやけになったような笑みを浮かべた。
たぶん、今の雷雨じゃこいつには勝てない。
もう、力がほとんど出ない。
腕に、力が入らない。
でも、あの子を守りたい。
とっても大きくて、とっても暖かくて、とっても優しい魂を持ったあの子を、あの子の未来を、守ってやりたい。
そのためにも、こんな奴をここに野放しにしておくわけにはいかない。
「たぶん、雷雨は死んじゃうんだろうね」
元々覚悟の上であった。だがむざむざ死んでやる義理はない。
「あなただけは、せめてあなただけは、雷雨の道連れになってもらうから」
咆哮を上げる鬼を見上げて、雷雨は悲しそうな顔をした。
「一人で地獄に行くのは、辛いからね」
勝負は一撃。
次の一撃が、残された力でできる唯一の悪あがき。
化け物がのっそりと襲い掛かってくる。
「集え! すべてを薙ぎ倒す雷よ!」
既に雷雨に鬼との距離を詰めるだけの余力はない。カウンターで仕留める他に方法はない。
電撃に覆われた拳が形成される。
すらりとした体は優雅に鬼の拳を避け、アッパースイングで顎から顔を粉砕しようとする。
しかし、拳は顎にぽんと当たっただけ。
雷は、幻のように姿を消していた。
「そんな……。こんな時に、<セレス>が尽きるなんて……っ!」
悲壮な声を上げる雷雨の体を、もう一つの拳が軽々と吹き飛ばす。
「――――――ッ!!」
声すら上げられない激痛。飛びそうになる意識。呼吸が困難となるほどの衝撃を受けた雷雨の体は十数メートルはふっ飛ばされた。
仰向けに倒れた雷雨の体は、ピクリとも動かなかった。
そんな余力は、とっくに尽きていた。
霞みつつある意識の中で、雷雨ははっきりと化け物が迫る音を聞いた。いたぶっているのか、やけにゆっくりとした、地響きを体全体で感じられる歩み。
気づけば、空に見える聖壁を遮るようにして鬼の顔が現れていた。
その大きな口が涎を垂らしながら開き、サメのごとき牙が覗く。
「い、いや……」
雷雨の中にある、言葉で表しきれないほどの絶望が蘇る。
覚悟を決めたはずの心は、あっさりと打ち破られ、普通の少女のように雷雨は涙を流して怯えた。
「一人で地獄に行くのは、いやっ!」
その言葉を鬼は聞かない。鋭利な牙を剥きだし雷雨を一飲みにしようとしている。
雷雨は耐え切れず目を瞑った。
そこへ、聞こえるはずのない声が響いた。
「おい。間違えるなよ」
雷雨は驚愕のあまり恐れを忘れ目を開けた。
そこに、さっき自分がしたように、化け物の顔を蹴り飛ばす少年の姿があった。
大きくて、暖かくて、優しい魂を持つ男の子。
彼の瞳は、溢れんばかりの闘志で揺れていた。
「テメェの相手は、この俺だ」
◇◇◇
「大丈夫か?」
和輝は黄金のような少女を見下ろした。そのあまりの痛々しさに、思わず目を背けてしまいそうになる。
左腕はまったく動いておらず、全身は傷だらけ。内出血も目立つ。偶然通りかかった通行人が見れば死体だと勘違いしてしまうかもしれない。まさに満身創痍であった。
「ったく。何が望んだ運命だ。見栄張りやがって」
視線の先に、先程の勇猛な戦士の姿はなかった。いるのは死ぬことを恐れ涙するか弱い女の子だけである。
「一人で地獄に行くのが恐いだ? ふざけんな。そんなこと言う奴が一人で戦ってんじゃねえよ」
和輝はすべてを吹っ切った顔のまま手を差し出す。
「道連れなら、俺を選びやがれ」
キョトンとする雷雨の瞳から、一筋の涙が流れた。
しかし、次の瞬間には怒鳴り声が空気を震わせていた。
「な、なんでよ! なんでまた戻ってきちゃったのよ! なんで雷雨なんか助けてるのよっ!!」
「命を救ってやった人間に対する第一声がそれか」
呆れたような顔のまま和輝は雷雨を抱き起こそうとした。しかし弱々しい手が和輝の行為を拒絶した。
「やめてっ! 雷雨は助けてなんて言ってない! 逃げてって言ったの! ここは危険なの。君がいていいような場所じゃないの。君が戦って勝てるような相手じゃないの。だから雷雨のことなんて放って逃げてっ!」
「バカたれ」
和輝は遠慮なく雷雨の頭を叩いた。
抗議の言葉を吐き出そうとする雷雨を遮って、和輝は溜息でも出そうな顔で言う。
「あのな、何で俺がお前の言うことなんか聞かなきゃなんねえんだよ。俺の意思は俺のもんだ。あんたのもんじゃない。俺がどうしようと俺の勝手だ。それに俺は、正義の味方よろしくな具合で助けに来たわけじゃない。借りを返しに来たんだ。借りを作ったままにしとくのは癪なんでな」
驚きと困惑と呆れが混じり声を出せない雷雨。和輝はそんな彼女を抱き起こす。雷雨の頬に朱が差した。
「なっ。ちょ、ちょっと……」
「先に言っとくぜ。これ以上の文句は一切合切却下だ。俺は俺のやりたいことをする。俺が後悔しないと思った道を突き進む」
横倒しになった木が傍にあったので和輝はそこに雷雨を降ろした。
「心配すんな。むざむざやられたりしねえよ。今度はな」
柔らかく微笑みかけてから、和輝は化け物の元へと振り返った。
その足に、震えはない。
「っ!?」
その時、ようやく冷静さが戻ってきた雷雨の目に異常な光景が飛び込んできた。
和輝の姿が掻き消えたのである。
否。
よく見れば消えたわけではない。残像を残しかねない速度で不規則に直進しているためにそう見えただけだ。だがちょっと待て。それをやっているの十代半ばの高校生だぞ?
未だに和輝に蹴られた衝撃が抜けきらないのか、ふらふらと立ち上がった巨人の眼前に再び和輝が現れる。慌てて奇声を発し拳を振るう。だがその拳は虚空を貫き、気づけば己の体はまた吹き飛ばされていた。たった一本の拳によって。
「嘘……。こんなことって………」
呆然という表現がもっとも適当な顔で雷雨は和輝の背中姿を見ていた。有り得ない。その言葉が何度も頭の中でリフレインする。
幾度となく化け物と戦ってきた雷雨の経験が語っている。あの鬼の体はまさに筋肉の鎧と言ってもよく、普通の人間が拳を振るっても逆に手首が折れるのが関の山である。加えて言うならば鬼の放つ拳は人間世界の尺度に換算してプロボクサー並みの速さを持つ。いくら慌てていたとは言えそれだけの速度の拳を避けて一撃を加えるなど、並みの者に出来る所行ではない。
そうだ、さっきだってそうだった。彼は己の身長の二倍近い位置にある鬼の顔よりも高く飛翔し、渾身の蹴りを放った。冷静に考えてみてほしい。いくら助走を付けたと言っても3m以上もの高飛びである。世界は広いと言うが、そんな芸当ができる少年が果たしてそうそういるものなのだろうか。
分からなかった。彼が何者なのかも。何故彼が自分のためにここまでしてくれるのかも。何もかも分からない。
「君は、一体……」
一方和輝はそんな雷雨の困惑などいざ知らず、ようやく立ち上がった化け物を睨みつけていた。
思っていたより、体が軽い。震えもない。怯えもない。あるのは怒り。女の子を泣かせた野郎への爆発的な怒気。それは殺気となりて空気を張り詰めさせる。
不思議な感覚だった。さっきまではあんなに恐れていたはずなのに、少女が襲われているのを見て、その顔に涙が流れているのを発見して、そんなものは吹き飛んでいた。もうあんな顔をさせたくない。その思いが和輝の拳に力を込めさせる。
「覚悟しやがれ。化け物」
和輝は鬼が駆け出すのとほぼ同時に足を動かす。スピードはこちらの方が速い。単調に振るわれる拳と爪の乱舞を避け股下をくぐり後ろを取る。踏み込んだ足に力を込めて反転。破壊の拳を遠慮なく背中に叩きつける。悲痛な叫びを上げて鬼は前のめりに倒れた。
和輝の猛攻はまだ止まらない。
慌てて立ち上がろうとする鬼の頭上へと飛翔しかかと落しを放つ。圧倒的な威力を以ってして打ち込まれた蹴りは硬い体を持つ巨人にめり込んだ。常人なら頭蓋骨粉砕どころか顔面ごと粉砕しかねない殺人的な一撃。それだけに留まらず、拳の連打を躊躇なく背に打ち込む。速過ぎて腕が何十本もあるように見える。
「これで、どうだ……?」
一心不乱に拳を打ち続け、肩を上下させる和輝は巨体の背から飛び降りた。油断することなく構える。何年もの厳しい鍛錬を積んだ者にだけかもし出せる強者の威厳がそこにあった。
鬼はピクリとも動かなくなった。まるで朽ちた巨木のように地に伏したままである。それを見て和輝も気を緩めた。それがいけなかった。
「ダメ! そいつはまだ生きてるわっ!!」
勝ったと確信した和輝にその言葉が届くのには数秒のタイムラグが生じた。
その一瞬の隙を突いて、跳ね起きて鬼の爪が和輝の腹を抉った。
「がぁあああああああああああああっ!!」
熱した鉄板を押し付けられたような熱さを伴って激痛が走る。意識が一瞬で飛びそうになった。少女の声に反応して反射的に後ろに下がっていなければ今頃は胴から真っ二つになっていたに違いない。
「君! 大丈夫!?」
「………ぐっ! これ、が、大丈夫に……見えるかっ!」
痛みを全力で振り払い跳ね起きる。狙うは突っ立っている鬼の大きな瞳。拳一つが楽々入る目玉に拳を叩き込む。
和輝の手首から鈍い音がした。
「ぐあっ!」
リバウンドを受けた体は地面に背中から落ちた。肺から酸素が強制的に吐き出される。それに追い討ちをかけて化け物が巨大な足が降ってくる。転がることでなんとかかわす。
ぶらんとした右手を押さえて和輝は化け物から出来るだけ距離を取る。
「くそっ! なんだこいつ! なんで目玉があんなに硬いんだ!」という当然の疑問には遠巻きから見詰める雷雨が答えた。
「無駄よ。その化け物に人間の法則は通じない。あらゆる物理法則を無視して常識を覆す圧倒的な存在。それがその化け物。人の拳程度では、ひるませることは出来ても倒すことは出来ない」
言われて和輝は気づいた。目の前の化け物は拳の連打を受けた所為で未だにふらふらしているが、体力の低下およびダメージは見受けられない。その証拠に、雷雨によって抉られたわき腹からは今でも少しながら血が出ているのに対し、和輝の攻撃によって噴き出した血は一滴もない。
つまり、端的に言ってしまえば和輝の攻撃はまったく通じていなかった。
「そんな……そんなことって……」
勝てない、という言葉が和輝の心を支配する。
こんな化け物に、勝てるはずがない。
「その通りよ」
「なっ! お前!」
和輝が呆けている隙に雷雨は彼の隣に来ていた。
「バカ野郎! 死にたいのか!?」
「それはこっちの台詞。君の攻撃じゃあいつは決して倒せない。ただいたずらに体力を消費するだけよ。確かそういうのって、犬死にって言うんじゃなかったのかな」
「じゃあどうしろってんだよ! 拳も蹴りも目潰しも通じない! 一撃でも攻撃をくらえばはい終了! どうにもできない! どうすることもできない! そんな相手を、どうやって倒せばいいっていうんだ!」
「契約して」
和輝と雷雨の間に、一瞬の沈黙が舞い降りる。
「契約、して」
間をおいて、雷雨はもう一度囁きかける。
「契約、だと?」
「そう契約。『魂の契約』よ。あいつを倒して、なお且つ雷雨達二人が助かるには、もうこれしか残ってないわ」
和輝が口を開こうとすると雷雨がそれを遮った。
「手短に言うわね。もう薄々感づいてるかもしれないけど、雷雨は人間じゃない。ここを見下ろす世界からやってきた魂の使者。それが雷雨。奴らを倒せるのは『チカラ』を持つ雷雨達だけ。そして雷雨達のチカラをもっとも引き出せるのは、あなた達人間だけ」
雷雨は、憂いの表情で語る。
「本当なら、こんなことはしたくないの。ひとたび契約を交わしてしまえば、その制約は君の人生を大きく縛ってしまう。間違いなく世界が変わるわ。でも君は優しい上に我侭だから、雷雨達二人が助かる方法しか受け入れない。そうでしょ?」
「あたり……まえだ」
ぶり返してきた痛みに顔を歪めながらも、和輝ははっきりと告げる。
「どっちか片方しか助からないなら、どっちも死んだ方がマシだ。人の死を背負うのはイヤだからな」
「君なら、そう言うと思った」
雷雨は弱々しく手を差し出した。和輝は迷いも躊躇もなくその手を握る。
「後悔しない?」
「さあな。なるようになってからってとこか」
「うん、今はそれでいいよ。でも、覚悟だけはしてね」
「バカたれ。覚悟なんぞ、ここに飛び込んだ時点でとっくに出来てるさ」
二人の間に漂う何かを敏感に察したのか、平衡感覚を取り戻すことに専念していた鬼が目を血走らせて突進する。和輝達はそれに意識すら向けない。
目を瞑った雷雨は、神々しい姿で言葉を紡いだ。和輝にはそれが何語なのか理解できなかった。意味なんてもっと分からない。だがその歌うような声は、まるで子守唄のように和輝の体を優しく包み、恐怖や緊張、さらには痛みといった感覚まで失せさせた。
雷雨の声に合わせるように、和輝達を中心にした幾何学模様が地面に刻まれた。それはこの公園を包む壁のように淡く聖なる光を放ち、それを目にした化け物が二人を前にして動きを止め、目を覆った。
区切りよく口を閉じた雷雨は、ゆっくりと目を開けた。黄金の双眸が和輝を捉える。
「我、汝と契約する者。二つの魂を結ぶ者。汝、我がチカラを借りたくば、今この場にて真名を開示せよ」
和輝の口から、自然と声が紡がれる。
「神代、和輝」
優しく雷雨は微笑んだ。
「神代。いい姓ね。“神の依代”の和輝。ふふ。よろしくね、和輝」
刻まれた模様から噴き出る光が雷雨の体に収束し始める。その光はやがて彼女の体を丸ごと包んだ。模様はいつの間にか消えていた。
「私は雷雨。<雷神の巫女>雷雨。雷雨のチカラが必要なら、その名を呼んで」
人型の光は凝縮され、小さな球体になり和輝の右手に装着されたリストバンドに吸い込まれる。
「契約、完了」
光が完全に消え去る前に、雷雨の声が短く響いた。
「……さて。さっそく、そのチカラとやらが必要になりそうだぜ?」
和輝は振り返った。化け物の威圧感を含む目とかち合う。
けれど、和輝はまったくと言っていい程恐怖を感じなかった。
なんだろう、これ。力が溢れる。体が軽い。痛みもいつの間にか完全に消えている。気持ちが高ぶる。心が、魂が震える。
今なら、どんな奇跡だって起こせてしまえそうな気がする。
「チカラを……チカラを貸してくれ! 雷雨!」
リストバンドが黄金の光を放った。和輝の体に凄まじい力が流れ込んでくる。
「行くぜ、化け物」
返事は耳を劈く咆哮。戦車のように巨体が突撃してくる。
その巨体を、和輝は片手で止めた。
戸惑いの声を上げる鬼。
「はあっ!」
いつの間にやら治っていた右手で正拳付きを叩き込む。和輝と鬼の間に距離が生まれる。
『角よ! 頭の角を狙うのよ!』
和輝の頭に直接雷雨の言葉が届く。
「了解」
地を蹴り和輝は駆け出す。距離は一瞬で詰まる。
「覚悟しろよ化け物」
バチバチと静電気のような音が鳴る。和輝の右手が雷のガントレットに覆われる。それは破壊の拳を超えた奇跡の拳。
和輝の体は天に向かって生える角目掛けて飛び上がる。そこにはもはや“チカラ”のない少年の姿はなかった。
「今度の拳は、強烈だぜ」
この日、この場所、この瞬間に、一人の戦士が誕生した。
「<雷神拳>!!」
弾丸を打ち出すようにして振りぬかれた雷撃の拳は、容易く鬼の角を打ち砕く。
それを合図とするように、化け物の姿は霧散していった。
「討伐完了」
〜次話予告〜
孤独な少年。戦場でしか己の価値を見出せない少年。命令を聞くこと以外何をすればいいのか分からない少年。
もう一人の主人公の歯車が、今、回り始める。