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第26章:仲直りの秘策


すべてのネタが分かるあなたとは親友になれそうです






 「ぼー」


 と声に出すぐらい退屈を感じる高校生、神代和輝は何をするでもなくベッドに寝転がっていた。


 日付は五月五日。世間では子供の日と呼ばれファミレスには子供が大量発生する日だが、騒がしい姉と横暴な姉しかいない和輝にとっては、弟や妹と戯れる微笑ましい一日のイベントが発生するはずもなく、むしろ「遊園地に行こうよカズちゃん!」とガキの発想オンパレードの姉を黙らせるのに辟易する一日だった。


 でも、今日ばかりは加代姉の我侭に付き合っても良かったかもしれない。


 そんなことを思うぐらい、今の和輝は暇を持て余していた。


「というわけで、なんかおもしろい芸でもしてくれ」


「いやいやいや! あまりに唐突過ぎて訳分かんないから!」


 そう答えるのは『雷神の巫女』という異名を持つ少女、雷雨である。彼女はさも当然のように宙にぷかぷか浮きながら読んでいた少女マンガ(加代の私物)を仕方なく閉じた。


「もー。そんなに暇ならどこかに出かければいいじゃないのよ」


「そんな元気があればとっくにひまひま星人モードから脱出してるっての」


 ちなみに和輝のこの状態、何も今日に始まったものではない。連休に入ってからというもの、和輝は家事や鍛錬をいつも通りにこなす以外は大抵今のような状態で過ごしていた。つまりはものすごいだらけていた。


「はあ。ちょっと和輝ー。いくらなんでも怠けすぎじゃない? 雷雨ちょっと失望しちゃうわ」


「うるせー。今は何に関してもやる気が起きねーんだよ。必要最低限のこと以外何もしたくねー」


「だらしないなぁ。まったく、せっかく武器だって手に入ったんだから、それ持って素振りとか型の練習とかすればいいじゃない」


 和輝は部屋の片隅に立てかけられた木刀に目を向ける。最近の鍛錬は雷雨に教えてもらった剣術を中心に行っているので、謎の老婆より貰い受けたときより少しばかり傷が増えている。


 不意に、あの日に紅美夏と交わした談笑の節々を和輝は思い出した。


 思えば、あれからまだ2週間も経っていない。


 たったの2週間で、詰めたはずの距離は元へと戻っていた。



 “あれ”以来、和輝の携帯に紅美夏からの連絡は一切ない。

 こちらから連絡すれば対応はしてくれるだろうが、一体何を話せばいいのか、まるで分からなかった。


 彼女と電話口を通して会話するときは、いつもすらすらと話したいことが口から出てきていたはずなのに。



「ええい! なんでうじうじしてんだ俺! こんなの俺のキャラじゃねーだろ!

あれか? あまりにだらけ過ぎたから脳みそが溶けてきたのか? ようし分かった、脳に刺激を与えると同時に暇を潰す画期的な遊びを披露してやる」


「え、なにするの?」


「ふふふ、まあ見ておけ」


 そういうと和輝はおもむろに携帯を取り出した。そして乱雑とも言える動きでボタンをプッシュする。いずこかへ電話をかけるらしい。


『はぃ、もしもし?』


 しわがれたお婆さんの声が電話口から聞こえてきた。その声を雷雨は知らなかった。和輝のお祖母ちゃんかな、と妥当なことを考えるが、和輝は息を殺すほどに沈黙しピクリとも動かない。「?」と首を傾げる雷雨だが、向こうが反応に困っておろおろし始めた雰囲気を察知したとき、和輝は高らかに叫んだ。







「貴様はすでに死んでいるっ!」







 速攻で通話を切った。


「だっははははははははははははははははははははっっ!」


 和輝、大爆笑。


 ………


 ……


 …


「性格悪っ!」


「ふ、イタ電マスターの名をほしいままにしていた時期もあったものさ」


「あんたは子供か」


「くくっ、なんとでも言いやがれ。さてさてどんどん行くぜー!」




『もしもし?』


「パロディに挑む男、俺!」



『はいどちらさま?』


「らんらんるー」



『へいらっしゃい!』


「ふんもっふっ!」



『もしもs』


「でもそんなの関係ねえ!」



『はいこちら』


「オカザキ最高ぉおおおおおおおおおおおっ!」




 ………


 ……


 …



「ふう、良い仕事したぜ」


「………」


 雷雨はとても冷やかな目で和輝を見ていた。


「……もう勝手にして」


「あ、おいっ」


 止める和輝を尻目に雷雨は漫画を持って部屋から出て行った。どうやら和輝に愛想を尽かしたらしい。


「……ちっ」


 一気にモチベーションが下がった和輝は再びベッドに寝転がった。意味もなく首を廻らせて目についた鏡に映った自分は、ひどくちっぽけな存在に見えた。本当にこれが俺なのだろうかと、和輝は少し驚いた。


 今日の俺は、らしくない。

 いつもの俺は、どこに行ってしまったのだろう。


 携帯に着信があったのはそんな時だった。


「………」


 面倒くさげに携帯を掴んだ和輝は、相手によっては即切りしてやろうと思いながらディスプレイを見て、相手の名前に驚いた。


『よう和輝。元気してるかー?』


「お前が俺に電話してくるなんて、珍しいな、アキ」


 電話の向こうで陽気な声を出すのは、今や悪友と言っても過言ではない少女、春風明良だった。


『いやなに、あんたのことだからふてくされてだらけまくってんじゃないかなー思ってな』


 すごい図星だった。


「……なんでそう思うんだよ?」


『そりゃ思うさ。あんた、新城兄弟とケンカしてんだろ?』


「だから、なんだよ……」


『あんたのことだから、どう謝っていいか分からずに悩んでんだろ』


「アホか、お前」


『なんだって?』


 和輝は冷えていく自分の心を客観的に見詰めながら、言葉を紡ぐ。


「あいつらとは、会ってまだ一ヶ月ほどしか経ってないし、べつに親友ってほどの間柄じゃなかったんだぜ? さすがに学校で一人ってのも嫌だったから、孤独にならないようにあいつらとつるんでたのに過ぎない。要は、学校だけでの友達って奴だな。

 このまま俺達が疎遠になっちまっても、特に問題はないさ。学校だけでの友達なら、作ろうと思えばいくらでも作れるからな」


『それ、本気で言ってるのか、和輝?』


 和輝は驚いた。明良の性格から鑑みて、これを聞いたら怒りを乗せた言葉を送ってくると思っていた。しかし、明良の声は対極とも言える、哀れみすら感じされる悲しい声だった。


 まるで、非行に走る親友を嘆くかのように。


『和輝、分かってるか? あんたが言ってることは、矛盾だらけだ。確かにあんたの言うとおり、新城兄弟との付き合いなんてたかだか一ヶ月程度だったけど、それでも、あいつらといるときのあんたはいつもより楽しそうな顔をしてた。孤独になりたくないから仕方なくつるんでたんなら、あんな顔できないっしょ。

 それに、学校だけの付き合いなら、なんで放課後あいつらの誘いを受けてんだ? なんで肩並べて歩いてんだ?』


「………」


 和輝は沈黙した。明良の言うとおりだった。返す言葉がなかった。


『それに……』と、明良はさらに言葉を続けた。


『あんた、美夏とも仲直りしてないっしょ』


 言葉が、胸に突き刺さった。


『このまま何もかも先延ばしにしちまったら、本当に取り返しがつかなくなっちまうかもしれないぞ』


「……んなこと、言ったって」


 電話の奥で、明良は驚愕した。和輝の声が、今まで聴いたことがないほど弱く、もろく、儚く聞こえたから。


「俺、どうしたらいいんだよ……」


 それは、失態をおかした子供が罪の償い方を親に請う情景に似ていた。


『……和輝、今から駅前のファミレスまで来い。飯でも食おうじゃない』


「はは、なんだよ。デートのお誘いか?」


『アタシは、真剣だよ』


 和輝の軽口に対して、明良は至って真面目だった。


『あんたに、話がある』







◇◇◇







「あれ? やっっっと何かする気になったの?」


「雷雨か……今から駅前に出てアキに会うんだけど、お前も来るか?」


「行く行くっ!」


 今まで和輝に付き合って外に出られなかったからだろう、雷雨は和輝の申し出にあっさり了承した。和輝は雷雨を連れ立って、家を出る。


(話、ねえ…)


 興奮して飛び回る雷雨を嗜めながら、和輝は何故呼び出されたのかを考えていた。



 まさか、まだあのお風呂突入事件を根に持っているのだろうか。いや、でもあれは事故で、アキの裸なんて見てないし見たいとも思ってなかったって言ったらしこたま殴られて、これで帳消しにしてやるって言ってたしなぁ。他に何かあったかなぁ。

 ……なんて、とぼけるだけ無駄か。



 和輝は半ば話の内容を予測していた。さっきの会話を振り返れば、どんな話があるのかは大体分かる。ただ、“そういう”内容だと思いたくないだけ。つまり、逃げているのだ。今は心がぐちゃぐちゃしていて、もう少し時間が欲しかったから。


 なんで、こんなことになっちまったんだろう。


 和輝は思う。


 さっきアキに言った言葉。明らかに矛盾のある内容。そんなのは言った自分が一番良く分かっている。学校だけでの友達? そんなわけあるか。俺はあいつらといるのが一番楽しかった。紅だってそうだ。あいつといると妙に心が落ち着いた。心を許している俺がいた。そこにアキが加わって、うるさく騒ぎながらも、気分が高揚していく俺が確かにいた。だから、あいつら四人と一緒に回った京都は、とても楽しかった。


 さっきの言葉は、本当に矛盾している。


 あれじゃ、あいつらとの仲が壊れようがどうでもいいみたいじゃないか。


 そんなわけ、ない。



 俺は、あいつらと過ごす日常が続くことを、誰よりも願っているのだから……。







◇◇◇







「五分の遅刻だな。つーわけで奢れ」


 久しぶりに面を合わせた悪友は相変わらず好き勝手なことを言って和輝を迎えた。


「遅刻って、そもそも特に時間なんて決めてねーだろ」


「バーカ。こういうのは男が女より早くついとくもんでしょが」


「お前、自分が女だっていう自覚あったんだな」


 ゴッ!


「ぶち殺しますよ?」


「既にぶち殺されてます!」


 少しでも自分が女だと思うんならそういうのを控えろよな、と和輝は殴られた腹を押さえながら思い、明良の向かいに腰を下ろした。すぐさま店員が駆け寄ってきたので、和輝は適当に昼飯の注文を済ませた。


『あははー。相変わらず二人はおもしろいねー』


『傍目から見てりゃそりゃおもしろいだろよ。でも殴られるこっちはたまったもんじゃねえ。結構真剣に痛いんだぜこれ?』


『そう思うならもっと言葉を選べばいいのに』


『自分に正直にならなきゃ負けかなと思ってる』


 雷雨は和輝と明良の中間ぐらいの位置でぷかぷか浮いている。だが、明良はそんなことは気にも留めずジュースをすすっている。というより、そもそも雷雨がいることに“気づいていない”。

 最初はこの『自分は見えているのに相手には見えない』というややこしい状況に戸惑い、つい声に出して雷雨の言葉に返答して周囲から冷たい目で見られていたが、今では慣れたもので心の中で会話をするのも当然のこととなっている。


「にしても、今日は暑いねえ」


「ん? あ、ああ、そうだな」


「なんでも今日の日中は六月上旬並みらしいよ」


「ふーん…」


「そういや、あんた宿題やった?」


「数学と英語か? とりあえず英語だけは終わらせたけど、数学は今頭抱えてる最中だよ」


「教師もさあ、ふざけてるよな。ゴールデンウィークっつったら遊ぶためにあるようなもんでしょ。なのにあんな大量に宿題出しやがって…今頃自分は家でごろごろしてるか家族旅行に出かけてるくせによ」


「しゃーねーだろ。勉強すんのが学生の本分なんだしよ」


「うっわ、クソ真面目な意見腹立つわー。あんた何様?」


「それはこっちの台詞だバカたれ。大体、俺のはほとんど諦めの境地から出てくる言葉だ。お前もいつまでも中坊みたいなことほざくな」


「うっさいなー。アタシらぐらいの年齢なら一度ぐらいは思うもんでしょが。

 あ、そうそう。あんたこの前上映した映画見に行った? あれさあ、初めはつまんなさそうだと思ったんだけど実際見てみると意外と…」


「いつまで世間話する気なんだ?」


 和輝は唐突に会話の流れを打ち切った。


「俺は、こんないつも通りの会話をするためにここまで来たわけじゃねえんだぜ?」


 暗に『さっさと本題に入ろうぜ』と促す和輝。明良はこれまでとは打って変わって口を閉ざした。微妙な沈黙が場を支配する。和輝の料理を運んできた店員も、二人の間にある重圧に気圧されてそそくさと去って行った。


「……あんたさあ」


 明良が再び口を開いたのは、和輝が運ばれてきたハンバーグを半分ほど平らげたときだった。


「美夏と、仲直りする気あるか?」


「……仲直りもなにも、」


「“俺達はそもそもケンカなんかしてない”ってか? それ、言ったらマジでキレるぞ」


 本気の瞳に射すくめられて、和輝は溜息をついた。


「そうだな、お前は俺と紅の共通の友達だったな。誤魔化しが効くわけねえか」


 和輝はフォークとナイフを置いて本格的に話をする体制に入る。


「で、仲直りする気、あるのかないのか?」


「……まあ、前みたいな関係に戻りたいとは思ってる」


「あれから美夏と会ったり電話したりとかは……してなかったか」


「なんで知ってんだよ」


「聞かなくともなんとなく分かるっしょ」


 本当は美夏に聞いたからなんだけど、と内心思いつつ明良は話を進める。


「ていうかさ、なんでそんな気まずいんだ? そりゃああの風呂での事件はいただけなかったけどさ、あれだけなら謝れば済む問題じゃないの?」


「いや、たぶん…あれは原因の一つであって、大本の理由じゃないと思う」


「じゃあなにが理由なのか検討ついてんの?」


「ああ」


 和輝は京都の茶店で不良達に絡まれたときのことを思い出す。今思えば、和輝と美夏の間にぎくしゃくした空気が漂い始めたのは間違いなくあの時だ。


「なるほどねえ……なんとなく分かった」


「ホントか?」


「もち。まあ要するに、美夏はあの時あんたが力づくで訴えたことが気に入らなかったんだろうな」


「………は?」


 和輝の思考が一瞬停止する。


「いやいやいや待て待て待てっ。力づくってお前、あれは向こうからふっかけてきたことで俺達に非はねえんだぞ!?」


「あんたの言いたいことも分かるけどね。でもな、例え向こうが悪かったとしても、それを力でねじ伏せるってことが、美夏は死ぬほど嫌いなんだよ。簡単に言えば、極端に暴力を嫌うんだ」


「暴力を嫌うって……でもお前はしょっちゅう暴力まがいのことしてるけど紅に怒られたことねえじゃねえか」


「それはアタシが本気じゃないって美夏も分かってるからだ。あんただって知ってるだろ? アタシが学校でしてるのはいわゆるスキンシップみたいなもんだよ。

 けど、怒られたことがないわけじゃないんだよなぁ。ついこの前まで、アタシも不良達をボコったからしばらく美夏の奴口も利いてくれなかったんだぞ」


「……なんで紅はそこまで暴力ごとを嫌うんだ? なにかトラウマでもあるのかよ?」


「さあね」


「さあねって……」


「少なくともアタシの記憶通りなら、美夏は初めて会ったときからあんなんだったぞ」


「紅と初めて会ったっつーと、中学か?」


「いんや、小坊のころ。といっても美夏は五年のときに転校してきたから、実質付き合いは4、5年ってとこだな」


「ってことは、アキと出会う前の幼少期に何かあったってことか……」


「そうかもな」


「それについて何か聞いたことってないのかよ?」


「もちろんあるさ。でもその度にはぐらかされた」


「言いたくないほどつらいことでもあったのか……?」


「いや、そんな感じじゃなかった。どっちかっていうと照れてたかな」


「はぁ…」


 ますます紅美夏という人物がよく分からなくなってきて和輝は気の抜けた溜息をつく。でもまあ、これで紅が怒っている理由がはっきりとした。


「はっきりはしたけど、だからどうするってんだよ。これからはもうケンカなんてしないから仲直りしようとでも言えばいいのか? 冗談じゃないぞ。いくらなんでもそりゃ無理だ」


 正直和輝は美夏の気持ちが理解できなかった。美夏の言うことは言葉だけ見ればとても人道的なものだが、世の中はそんな甘い理想に浸っていられるほど平和ではない。強者がいるから弱者がいる。力がある者が上へとのし上がっていき、力がない者が汚い地面を這いつくばることになる。和輝はそのことを『経験』から悟っていた。


 紅が言っていることは、所詮偽善に過ぎない。


 偽善は、決して正義ではないのだ。


 決して―――







 ―――偽善から始まる正義も、あるんじゃないか?―――







「――――ッ!?」


 不意に頭に言葉が浮かんで和輝は軽い頭痛を覚えた。お、おい和輝どうした!? と慌てる明良に大丈夫だと返す。


(今のは、一体……?)


 和輝は頭を振る。今無理にこの違和感の正体を追求することはないだろう。


「それで、結局どうやって紅と関係の修復を図ったらいいんだよ。今の状態じゃ話し合うことすらできないかもしれねーぞ」


「心配すんな。きっかけはちゃんとある。和輝、今日は何日か知ってるか?」


「あん? 五月五日だけど……」


「そうだ。で、今日は一体どういう日だ? あ、子供の日じゃないぞ」


「どういうって、子供の日以外に何があるってんだよ」


「バーカ。こういうときの答えは一つしかないっしょ。誕生日だよ誕生日」


「は? 紅の誕生日って今日かよ?」


 あれ? としかし和輝は首を傾げる。以前雄哉が言っていた言葉が頭を過ぎる。


「紅の誕生日って、確か昨日じゃなかったっけ?」


「なんだ知ってたのか。まあそうなんだけどさ、ほら、ああ見えても美夏ってお嬢だろ? 昨日は昨日で盛大にパーティしたらしいんだけど、アタシらの間じゃ次の日にアタシん家で質素に誕生会すんのが通例になってんのよ」


「変わったことしてんなお前ら。で? 要するに俺もその誕生会に来いってか?」


「もちろん、プレゼント持ってな」


「んなこといきなり言われても……」


 一応、金に余裕はあるが、突然プレゼントと言われても困ってしまう。しかもこのプレゼントでスベると美夏との仲が決定的なものになる可能性もある。


 ……まあ、なんとかするしかないんだろうな。


「ま、話はそんだけ。誕生会は7時からで、住所はこのメモ見れば分かるから。んじゃな」


「はい? ちょ、待てっ。俺一人でプレゼント選ぶのかよ!?」


「あったりまえでしょーが。なんでアタシがわざわざあんたに付き合わにゃならんのよ」


「だって俺紅がどういうもの好きかとか俺未だによく分かんねえし!」


「だからアタシに頼ろうって? はん、寝言は寝てからいいなボケ」


 このアマ、殴っていいですか?


 ふっ、と、突然明良は穏やかな笑みになって言った。


「心配しなくても大丈夫っしょ。“美夏なら”どんなもんでも喜んで受け取るって」


「いや、仏じゃねえんだからいくらなんでも……」


「とにかく、アタシは今から家帰ってケーキとか作らにゃならんから無理。せいぜいがんばりなー」


 そう言うと明良は伝票を引っつかんですたすたと歩き出した。


「あ、待てよ。お金……」


「いいよ、アタシがもっとく。そん代わり、美夏とこれ以上仲悪くしたら絶交だからな」


 なんだかんだ言っても、春風明良はいい奴なのだと、和輝は改めて思った。





それは友人のとある一言から始まりました。


友「この小説さあ、メインヒロインって誰よ?」

作「は?」

友「加代? 雷雨? それともここは意外にも魅風?」

作「いや、美夏なんだけど」

友「え? 美夏? …でも美夏って、『地味』じゃね?」


しょうがないやん! 清純派キャラをベースにしてる上に周りのキャラが濃すぎるからこうなんねん!


皆さんも、本当のメインヒロインが誰であるかお忘れなきように。それではいつものあれ、行っときましょう。


〜次話予告〜

頭を抱える和輝を置いて家への帰路へとついていた明良は、ふと1ヵ月半ほど前の出来事を思い出していた。――それは、和輝と明良が初めて出会った時の物語。

第26,5話「悪友の始まり」乞うご期待。

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