第21章:宿泊学習
ちょっとしたスランプに陥って更新が遅れました。
カチリ、と、トランクを閉める無機質な部屋が、生活感の薄い静かな部屋に響いた。
不意に、扉が開いた。
「あれ? 氷助、あんた出かけんの?」
「……お前、まだこの町にいたのか?」
「細かいことは言いっこなし。で、どこ行くの?」
「次の舞台が決まった」
話はそれで済んだとばかりに、氷助は魅風の脇を通り抜けてエレベーターに向かった。それに魅風は続いた。
「はーっ。そかそか、ついにあんたも神代和輝を殺る気になりましたか。いやいや、この焦らしプレイにはさすがに飽きてきたので、魅風ちゃん自ら出向こうとかも考えていましたよ」
氷助は上下移動する箱に滑り込む。当然のように魅風もついてくる。氷助は内心溜息をつきながら、しょうがなく魅風の相手をする。
「勘違いしているようだから言っておくが、俺に与えられた『指令』は“神代和輝を捕獲せよ”というものだ。殺すわけではない」
「対して変わんないじゃない。どうせ死ぬ一歩手前まで弱らせるんだから」
「そこまでいけるかどうかすら分からないがな」
数秒、沈黙が箱を包み込んだ。
「……あたしも、加勢したげよっか?」
「お前にはお前の『指令』があるだろう」
「そんなの関係ない。氷助が必要なら、あたしはいつだって力を貸す」
「お前とて知っているだろう。任務に私情を挟むことは、俺達の間では罰せられるべきことだ」
「べつに構わないわよ、罰せられたって。命の保障だけはちゃんとあるし、どれだけ苦しい拷問だって耐える自身がある。あんたのためだったらね」
氷助は額を押さえた。
「……以前から疑問に思っていたんだが、何故お前はそうやって俺に構う? お前が俺を気にかける理由などないだろう」
「あるわよ、すっごく」
「例えば」
「教えなーい。自分で考えなさいっ!」
場の湿った空気を払うかのように魅風は笑った。無邪気で純粋さを感じさせるその笑みを、何故か氷助は見続けられずに、
「お前の助けは必要ない」
「なんでよ」
「お前に借りは作りたくない」
「借りになんてならないわよ。ただのボランティアなんだから」
「それでも、必要ない」
むっすー、と魅風は頬を膨らませた。
「何よ、そんなにあたしが頼りないってわけ? それとも柄にもなくあたしの心配でもしてんの?」
「そうだ」
「………っ!」
胸が、一瞬で高鳴った。
「お前は組織の中でも上位にいる者だ。もし仮にお前に何かがあった場合、その痛手は俺達も背負うことになる。それは御免被りたい」
「……それって、どう考えてもジコチューじゃない?」
「なんだそれは? ねずみの仲間か?」
「……もういいわよ。『一応』あたしの身の心配をしてくれたから、許したげる。がんばりなさいよ」
箱はホテルのロビーに到着した。
魅風は付いていきたがる体を押さえつけて、氷助を見送る。
「あ、そうだ。念のため聞いとくけど、神代和輝が踊る次の舞台ってどこ?」
氷助は首だけ振り返って、相変わらずの無表情で告げた。
「京都だ」
◇◇◇
―――その頃の、和輝達一年四組の一行。
「イェ―――――イッ! ヒャッホ――――ッ!
今日はぶっ倒れるまで騒ぎまくるぜーっ!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
……………。
………。
…。
バカの集団がいる。
クラス一のバカである新城武谷を先頭にテンション上がりまくりの男子どもを見て、和輝は溜息をついた。子供かテメェらは。
「ぐぉらあっ! うっさいわ男子ども! そないにウチのスペシャル技をくらいたいんかーっ!」
業を煮やした担任・浅倉暦が関西人バージョンで騒ぐ男子達を静める声を聞きながら、和輝は『高速』で流れる景色に視線を移した。
新幹線の外には、見慣れぬ土地が広がっていた。
宿泊学習、なんて難しく言っても、要は小学校の遠足と大して変わらない。
少なくとも学生達にとっては、現地で様々なことを学ぶというのは建前に過ぎず、日頃勉強に勤しみ溜まった鬱憤を騒いで消化する行事みたいなものである。
なので多少ハメを外す程度なら構わないだろうが、とにかくお祭り好きな連中ばかりが集結しているこの一年四組はクレイジーと評してもいいぐらいに騒ぎまくっていた。男子はもちろん、女子達も叫びすらしないがお喋りに花を咲かせたりお菓子パーティなんぞを催している。
「……なんつーか、学生だよなー」
最近、ソウルマスターやらケガレやらという非常識極まりないものに関与しているためか、時々自分が高校生であることを忘れそうになる。あまりよろしくない症状だ。今だって自分が街を離れている間にケガレが出現しないかとかそんなことばかり考えている。
いかんいかん、と和輝は首を振った。今日と明日は非日常のことは全部忘れて楽しもうと決めたんだ。もっと騒がなければ!
……まあ、武谷ほど騒ぎたいとは思わないけど。
「しっかし、なんで宿泊学習の学習地がよりによって京都なんだよ。普通は修学旅行で行くもんだろ」
「あんたはまだマシさ。アタシと美夏なんて去年も京都に行ったぞ」
前の座席に座っている春風明良が、席を回転させて和輝の正面に現れた。隣には最近仲良くなった紅美夏もいる。
「楽しかったよね、修学旅行」
「楽しかったけどさ……楽しかったけどさっ! なんかこう悔しいというか理不尽というかそんな気持ちにならない美夏!?」
「そうかな? 楽しいところは何度行っても楽しいと思うわ」
にっこりと笑って言い切る美夏に明良はがっくりと肩を落とした。和輝は少し同情した。
「にしても、アタシらの学校って何かと変わってるよなぁ。今回の宿泊学習もそうだけど、部活もまともなもんもあるけど変なのもあるし」
「電柱登り部……とか?」
「いやいや、やっぱり一押しは世界征服部っしょ。スケールが違うって」
「俺らの学校ってそんなクラブあんのかよ…」
「他にもさあ、ありがちな学校の七不思議もどこか妙なところがあるらしいし、年間表見てみたらやたらと行事も多そうだったよな。
退屈だけはしそうにないけど、騒がしい学校だよなぁ」
「でも、校長先生は割と普通だったよね?」
「ああ、確かに。見た感じ、普通の初老のじいさんって感じだったな」
「それ教頭先生だよ」
『え゛』
三人が一斉に、和輝の隣に座る新城雄哉に目を向けた。雄哉は相変わらずパソコンをカタカタしながら『いまさら何驚いてるの?』という顔で見返してきた。
「もしかしてみんな知らなかったの? 今まで入学式とかで挨拶してたのはみんな教頭先生だよ。校長先生は今まで一度も公の場に姿を現したことがないんだ」
「はあ? なんだそりゃ。普通入学式ぐらい出て来るだろ」
「僕達の学校は世間一般で言う『普通』の学校じゃない。それが答えだよ」
「じゃあ、本当の校長先生って、一体どんな人なの?」
「それが……僕にも分からないんだ」
「.:.l-p@;.:al@yl@ha;@;/\alak!?」
「……なんでそっちの方が驚きが大きいわけ?」
「いや、だって、お前が情報を握れてない人物が俺らの学校にいたなんて…」
「確かに僕にとっても、これは今までにないほどの汚点だよ。でも、僕だって完璧じゃない。今回は相手が悪かったよ。情報操作がすごく厄介なんだ」
「………」
雄哉をここまで唸らせるなんてこーちょーすげー、と和輝はまだ見ぬ校長に尊敬の念を抱いた。
「まあ、そんな見たこともない校長の話なんて放っといてさ、ウノでもしようぜ。新城もやるか?」
「そうだね……新しいソフトウェアの開発も一応区切りがついたし、僕も混ぜてもらおうかな」
「神代くんも、します…よね?」
「ん? ああ、もちろん。あと紅、敬語敬語」
「あっ、ご、ごめんなさい…じゃなくて、ごめん…」
「いいって。今までずっと敬語だったんだ。少しずつ慣らしてきゃいいさ」
「……うん」
「おーおー、お暑いねーご両人。暑さに当てられて熱中症になっちまいそうだ」
『なっ!』
からかわれて一様に赤くなる二人を見てニシシと笑いながら、明良は順に札を配っていった。
◇◇◇
で、京都へご到着。
「……………うぷっ」
「先に言っておくが、エチケット袋なんてもん持ってないしこっち向いてゲロ吐きやがったらマジで絶交だからな」
「右に同じ」
「こ、この薄情者めが……うえっ」
結構真剣に青い顔をしている武谷を見て、和輝と雄哉は同時に呆れの溜息をついた。
「大して乗り物に強くないくせに、新幹線とバスの中でずっと騒ぎまくってたんだから当然の結果だろうが。自業自得だ」
「右に同じ」
「大体お前は常にテンションが高すぎんだよ。もちっと控えろ。なあ雄哉」
「右に同じ」
「……お前、しょーじき俺らと会話する気ないだろ?」
「右に同じ」
「………」
メガネ粉砕したろか。
まあ、キーを叩いてコミュニケーション態度ゼロなのは既に慣れたことなので、一度溜息をついただけに終わる。
「えーと、現地に着いたら後は勝手に動いてよかったんだよな。こんなとこでいつまでもくすぶってないで、さっさと回ろうぜ」
「待て、和輝」
「うおっ、お前回復早いな!」
「んなこたあどうでもいい。それよりも貴様、まさかこのいつものメンバーで行動するつもりか?」
「あ? 何か問題があるのかよ?」
「大有りだろ! いいか和輝、このグループには決定的に足りないものがある。それはなんだ?」
和輝は武谷と雄哉の顔を交互に見て、
「一般人」
「違うっ! てか俺と雄哉は一般人じゃないのかよっ!?」
「えっ、お前自分のこと一般人だと思ってたのか?」
「ブレインショックッ!」
脳への衝撃?
「くそぅっ! いいか! このメンバーに足りないもの、それは色気だ!」
「色気? なんだよ、ついに女装趣味に目覚めたのか?」
「なんでそうなるんだよっ!? てかついにってなんだついにってっ!」
「言葉のあやだ、気にするな。
で、結局お前が言いたいことは、せっかくの京都観光なんだからカワイイ女子と一緒に回ってひゃっほうしたいと、そういうことか」
「ふっ、分かってんじゃねえか。というわけで、目を惹く女子に声かけようぜ! なあに心配すんな、この爽やかスポーツ少年武谷様がいれば一声で女子が群がるぜ!」
「雄哉、誰か他の奴誘って回ろうぜ」
「そうだね」
「なんでそういうときだけ息ぴったりなんだよ―――っ!」
はあ、と和輝は三度溜息をついた。こいつといると溜息ばかりついている気がする。
「カワイイ女子っつったってな」
それは和輝とて健全な男子高校生であるからにして、野郎だけのグループより女子がいた方が花があっていい。しかし、頭をかいて和輝は周囲を見回すが、ほとんどのグループはもう出発してしまっているし、駐車場に残っている団体も男女混合のものが多い。いまさらそんなところへ滑り込んでも煙たがれるだけだろう。
やっぱここはモテない男子連中で行動するしかないっすか、と和輝が半ば諦めかけていると、視界の隅に男子の塊が見えた。
「なんだあれ?」
目を凝らすと、どうやら野郎どもが囲んでいるのは我が一年四組の美少女ペア、紅美夏と春風明良らしい。二人の噂は校内中に広まっているのか、他のクラスの男子もいる。
「……ダメもとだけど、行ってみるか」
和輝は二人の下に近づいた。
「ねえねえ、二人とも一緒に回る奴いないんでしょ? だったら俺らと回らない?」
「い、いえ、その……」
「俺っ、前に京都来たことあるから案内するよっ」
「アタシらも去年来たからいらねーよ」
「なあ、いいだろ? なんか奢るからさぁ」
「えっと、あの、う〜……」
群がる男子どもに辟易している様子の美夏と明良。あまりのしつこさに明良がキレる前に和輝は野郎の塊を引き裂いた。
「ごめんよごめんよー」
「あ、てめっ、何すんだよ!」
「割って入ってくんじゃねーよ!」
「うるせえ黙れ♪」
満面の笑みと有無を言わせぬ口調で言い放つ。野郎の波が少し引いた。それを見届けて、若干呆然としている二人に向けて言う。
「えー、ただいま我々モテない男三兄弟は一緒に回ってくれるかわいー女の子を大募集中なわけなのだけど、お情けとでも思って俺らと行かないか?」
「!?」
「んー。お前の他にいる奴って後ろのそれら?」
「ああ、それら」
俺達それ扱い!? という叫びが後ろから聞こえた。
「ま、それならいっか。
“もちろん”美夏もいいよな?」
「う、うん」
あっさり了承されて和輝は拍子抜けした。まさかこんなにうまくいくとは思ってなかった。
まあいっか。
「じゃ、そーゆーことだから、とっとと失せろテメェら」
唖然とする男子を無視して二人の手を引き波から退避する。
はて? なんだか掴んだ手が徐々に火照っているような気がするのだが、気のせいか?
「ほれ、お前の要望通りカワイイ女の子をゲットしてきてやったぞ」
「………」
こっちはこっちで唖然としていた。雄哉は雄哉で興味深そうに後ろの二人を見ていた。
「………和輝。お前、勇者だよ」
「?」
なんのこっちゃ。
「……おい和輝。いつまでアタシらの手を握ってるつもりだ?」
「あ?」
「あ? じゃねー! とっとと離せ!」
飛んできた拳を和輝は避けた。手が離れる。美夏と明良は揃って顔を赤くしていた。
「どったのお前ら。はっ、もしや武谷の社会の窓が全開とか!?」
「え、嘘マジで!?」
本気でチャックに手をかけているバカが一匹。ここまで来ると天然記念物と評してもいいのではなかろうか。
「君は、もうちょっと女心を学んだ方がいいと思うよ」
「???」
雄哉にまで訳の分からないことを言われる始末。和輝は本気で首をかしげた。
「と、とにかく! ほら、回るんならさっさと行こうぜ! 行くよ美夏っ」
「………(せっかく神代くんと手を繋げたのに)」
「ん? 何か言った?」
「なんでもないっ」
ぷんすかする紅美夏を先頭にしたパーティが、京都の町へ繰り出した。
◇◇◇
観光地その1・金閣寺
「おおっ、ここが噂に聞くあの銀閣寺かっ」
「……お前さ、それってボケてるんだよな?」
「え? 違うのか?」
「……………………………………えーと」
「和輝、やっぱりお前もうちょっと友達選べよ」
「……ところで武谷くん。チミはこの寺についてどのような知識を?」
「ふっふっふ、任せろ、事前に情報はチェックしてある。こいつは奈良時代の将軍徳川義満が建てたもので、見た目は金色のくせにフェイクで銀閣寺と言う名を持つ京都の名所で……」
「いや、分かった。もう充分だ」
「あれ? アキ、奈良時代に将軍さんなんていたっけ?」
「あんな人の言うこと聞いちゃいけません」
「次行こうよ」
観光地その2・銀閣寺
「おおっ、これが噂に聞くあの金閣」
「もういいって」
「次行こうよ」
観光地その3・哲学の道
「ここは哲学の道だね」
「なんだっけそれ?」
「西田幾多郎という哲学者がよく散歩した道だよ。『日本の道100選』にも選ばれてる有名な散歩道でもあるね。この程度のことも知らないんじゃ、君もあまり兄さんのことは言えないんじゃない?」
「………(涙)」
「哲学の道かあ。アタシらも去年ここ通ったよな?」
「そうね。でも、その時も思ったけど、ここには春に来たかったな。桜の名所で有名だもの、ここ」
「ほー、そうなんだ」
「うん。またいつかここに来たいなあ。もちろん春に」
「来ればいいじゃないか。一人が心細いんならアキを誘えばいいし、なんなら俺も付いてくぞ」
「そ、そうです、ね……」
「こら、また敬語になってるぞ」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「……もしかしてアタシらお邪魔?」
観光地その4・地主神社
「ここは、地主神社だね」
「みなさん、ぜひここに入りましょう!」
「お、いいね! 入ろうぜ入ろうぜ」
「そうだね、ここも名所のひとつだし」
「はしゃいでるなー美夏の奴。
ん? どうしたんだ和輝、ぼけっとして」
「あ、いや、なんでいきなり紅のテンションが上がったんだろうかと思って」
「あんたねえ……。年頃の女の子がここ来て気分高揚する理由なんて、アレしかないっしょ」
「アレ? ここってなんかあんの?」
「……あんたさ、恋愛ごとには疎いってよく言われない?」
「よく分かったな」
「………(ホント、なんで美夏はこんな奴を好きになっちまったんだ?)」
「なんか言ったか?」
「いっぺん死んでこいって言った」
「なにゆえ!?」
観光地その4・地主神社『パート2』
「へー。恋占いの石か。こんなのがあるんだな」
「よしっ、一番手は俺だ! 雄哉、ナビゲート頼むぜ!
―――っていねえっ!」
「雄哉ならトイレに行くって行ってたぞ」
「ちっ、軟弱者め! こうなったら和輝、お前だけが頼」
「ヤ」
「最後まで言わせろぉおおおおおおおおおおおっ!!」
「ま、一人でがんばってくれ」
「くっ! 舐めやがって……こうなったら、ついにあの封印を解くしかないか……」
「し、新城くんの後ろに真っ赤な炎が見えるよアキ!?」
「ま、まさかこれが選ばれし者だけが纏えるオーラの光という奴か……!」
「行くぜ! 新城流神技・『心眼』!」
「あ、石を通り過ぎちゃった」
「……所詮は新城兄ということか」
「あいつに期待なんてするだけ損だぞアキ」
「そうだな。
それはそうと、和輝はやんないのか?」
「え、俺か?」
「あんただって少しは興味あるだろ?」
「……………」
「? 和輝、どうした?」
「……いや、俺はよしとくよ。こういうのは、元々信じない方だし」
「ノリの悪い奴だな」
「そう言うならお前やれよ」
「アタシは今のとこ男に興味ないからパス」
「テメェ人のこと言えねえじゃねえか」
「男が細かいこと気にすんじゃないよ。
さて、残ったのはあんただけっぽいぞ、美夏」
「う、うん。がんばるよっ」
「やけに張り切ってるな。よーし、ここは俺がいっちょ的確なサポートを……」
「バカッ! あんたは何もすんな!」
「は? なんでだよ、べつに問題ないだろ?」
「大有りだアホンダラ!(あんたがアドバイスしたら恋のキューピットもあんたになっちまうだろうがっ!)
とにかく、美夏のサポートはアタシがするから、あんたは黙って見とけっ」
「わ、分かった分かった。分かったから胸倉掴むのやめろっ」
「ふん……。
じゃあ美夏、準備はいいなー?」
「うん。紅美夏、いっきまーす」
………。
「あ、美夏、違うっ、方向がずれてるっ」
「え、嘘っ」
「なあアキ、変わろうか?」
「うっさい黙れアホンダラ! そう! そのまままっすぐだ美夏っ、あとすこ…危ないっ!」
「っ!」
シュン
「っと。大丈夫か、紅?」
「……あ、れ……? 神代くん…? 私、躓いて……」
「ああ、俺が受け止めてやった。危なかったな」
「え? ええっ?(じゃあこの暖かいのは神代くんの腕っ!?)」
「残念だったな、もう少しで成功したのに」
「………」
「紅?」
「……いいの、もう」
「?」
「占いは失敗しちゃったけど、神様から贈り物がもらえたから……なんて、少しかっこつけてみたり」
「なんだそりゃ?」
「なんだろうね? ふふっ」
「なあ、アタシって邪魔? やっぱ邪魔かアタシ?」
ちょっと甘酸っぱい青春のアルバムが、こうして増やされていった。
〜次話予告〜
町に残してきた家族は大丈夫だろうか。たまに頭をよぎるその思いを胸に京都の町を楽しむ和輝達。しかし、組織の影は徐々に和輝を飲み込まんとする。彼はその影を振り払うことをできるのか。
前話より(小説内の)日数が結構進みました。本当はゴールデンウィーク前半でのギャグストーリーなんかも書きたかったのですが、この小説はあくまでアクションを基本とした感動物語なので自重しました。でも今後自重できるかどうかは定かではありません。作者も弾けたいときがあるのです。大目に見てやってください。
毎度ながら、感想&評価を楽しみに待っております。