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第17章:未熟な新人


今回は今までで一番ギャグに力入れてみました。






 月明かりだけが夜を照らす時間。


 それは異常の象徴である物の怪達が動き出す時間。



 ドシン。ドシン。



 その大きな足音も、地響きも、普通の人間には感じ取ることすらできない。たとえ感じ取ることができても、このような辺鄙な森の中に人が訪れるわけはない。


 

 ドシン。ドシン。



 鬼の形を模した化け物、<ケガレ邪鬼>が草木を踏みしめるたび、小さな命達は生気を奪われたかのように枯れていく。



<狂気>



 ケガレの体から無意識の内に放出される、あらゆる命から生命力を奪う悪魔の吐息。


 生命力の小さな生き物はその体に触れただけで死にいたり、無に帰る。ケガレの踏みしめた大地には何も残らない。残るとすればそれは命の息吹を感じさせない無機物だけだ。


 そんな、地球の生態系を根元から腐敗させていく日常の裏側に住む魔物。それを退治する者が、この世にはいる。



 突如、聖なるドームが森の一部を包み込んだ。



「グォッ?」


 わずかに戸惑いの声を上げるケガレ邪鬼。その前にはいつの間にか一人の人間が立っていた。



 否。



 それはもう、『人間』ではない。


 異能のチカラを身につけた神の使いだ。


「見つけたぜ」


 鋭い少年の声が空を裂く。彼の手には居合いの練習などに使われる模擬刀が握られていた。


 ケガレは警戒心をあらわにし、今にも襲いかからん体勢を取っている。


 それを前にしても少年は動じなかった。さすがに何度も戦ってきた相手だ。この程度のことでは冷や汗も流れはしない。


「数は一匹だけか。これなら早めに寝れそうだな」


 こみ上げてきた欠伸をかみ殺し、少年――神代和輝は切れない刃を構えた。どうもいまいちしっくり来ないがしょうがない。これからはこれが俺のバトルスタイルなのだから。


 先に動いたのはケガレ邪鬼の方だった。


 思わず耳を塞ぎたくなるほどの雄叫びを上げて一直線に向かってくる鬼を和輝は冷静な瞳で見詰め、飛来してきた大振りな拳を身を捻って木の葉のようにかわす。拳速によって生じた風圧を利用して勢いをつけた和輝は地を蹴って身長差のあるケガレと顔を合わせる。


「雷電招来」


 暗示のように呟くと同時、まるで雷が落ちたがごとく模擬刀が雷光に包まれる。息を詰まらせるケガレ邪鬼の角に向けて和輝は迷うことなく刃を振り下ろした。


「<雷刃閃>!」


 雷の刃は容易く角を真上から二つに割り、それだけに留まらず顔を抜けて胸まで引き裂いた。


 断末魔が響き渡る。

 その声は時間と共に霧散して言った。


「討伐完了」


 そう言って和輝は着地し、無駄に前髪を掻き分けてみたりする。


 直後。



 パキリ。



「……? パキリ?」


 和輝の目が手先に向くと、そこにはぽっきりと折れた模擬刀が一本。


「うぎゃー! また折れちまったーっ!」


『あはは、これで三本目だねー』


「笑いごとじゃねえっ。これ母さんが趣味で集めてる奴なんだぞ!? ブレイクして怒られんの俺なんですよ!? そこんとこしっかり理解して言葉選んでくださいっ!」


『……バイトでも始める?』


「うぁああああああああああああああああああああっ」


 情けない叫び声が、夜の静寂を打ち破った………。


 ………。


 ……。


 …。






◇◇◇







「今日も空は青いなー」


 元気の欠けた顔で笑いながら(空元気)、神代和輝は外を見ながら机に突っ伏していた。

 視線の先にある青空には雲ひとつない。周囲で騒いでいるクラスメイト達もいつも通り。新聞に採り上げられるような大きな事件もない。平和だ。


 だがその平和がとある存在によって守られていることを和輝は知っている。

 ていうか、俺がその存在の一人だ。



 ソウルマスター。



 それがその存在の呼称。


 遥か昔。どういう経緯かは分からないし正直どうでもいいが、この世界に化け物が生まれ出た。その化け物はそこに存在するだけで世界を腐敗させていく魔物であった。その魔物を討つために<神界>という神様が住むとこから送り込まれてきた魂の使者(ペルセウス)と契約を結び、戦う運命に身を委ねた人間のことを、そう呼ぶらしい。


 ふぁんたじーだ。


 なんで俺みたいな平凡極まりない…いや、多少非凡であるところはあるかもしれないが、とりあえず“普通”の範囲内に属するはずの俺が、なにゆえに正義の味方よろしくな具合で世界の平和を守る戦士なんかになっちまったのか。まあそれは語るも涙聞くも涙の超感動壮絶ラブストーリー(嘘)があったのだが、ここでは割愛させていただくとして。



 なんだかんだ言いながら、あの日から既に一週間が経過していた。



「死ぬ」


 結構冗談抜きで、和輝はそう呟いた。


 昼は学校、夜はケガレ討伐。そんな二重生活だけでもしんどいのに、朝っぱらからバカ姉どもを起こさにゃならんし飯も作らんとしばかれるし買い物もほとんど俺任せだし家事なんて俺以外がまともにしたとこ見たことないし、おまけにそこへ鍛錬と宿題というダブルパンチが―――――って死ぬわっ! 

 若干十五歳にしてどんだけ多忙な人生送ってんだよ俺!? 何かすることある内が一番楽しいとじいさんばあさんは仰るけどこれすること多すぎね!? 過労でぶっ倒れるわ! でも倒れたら倒れたで加代姉がいらん世話焼くし何故か実代姉にしばかれるし、つか俺の安息の時間少なっ! てか実代姉俺になんか恨みでもあんの!?


 とまあこんな具合な愚痴を和輝は延々と心の中で吐き出していた。言葉に出せないのが辛いところである。



 それはさておき。



 ここは学校。時間は三時間目と四時間目の間。ちなみにさっきまでずっと和輝は寝ていた。本来なら怒鳴られてもおかしくないぐらいの爆睡っぷりだったが、『起こしたら殺す』と無言のオーラが漂っていたため教師も手が出せなかった。


 学校来てここまで爆睡したの、いつぶりだろうな、と眠気まなこを擦って考えながら、ふあっと和輝は欠伸を漏らす。



 幸いにして、ケガレは毎晩出没するわけではなかった。



 実際、この一週間でケガレが現れたのは昨日の一匹だけだ(まあそれでもいつケガレが出てくるのか気になってやはり睡眠時間は削られるのだが)。相棒である<雷神の巫女>という二つ名を持つ雷雨が言うには、この町はまだケガレの数が少ないらしい。ケガレは大都市であればあるほどそこに集まりやすい習性があるらしく、大して都会ではないここにはあまり寄りつかないそうなのだ。大都市の人々には悪いがこれには素直に感謝した。もし毎晩毎晩夜中に家を抜け出してあんな戦いしてたら、下手すると疲れのあまり退学届でも出していたかもしれない。


 ちなみにその雷雨であるが、今この場にはいない。普段は和輝がいつも右腕に付けているリストバンドに『宿って』おり、暇なときなどはそこから出てきて実体化する。そんな彼女を昨日まで学校に連れてきていたのだが、これがとんだじゃじゃ馬だった。雷雨は学校というものに以前から興味があったらしく、事あるごとにはしゃいで和輝を困らせた。


 特に数学教師のヅラを浮遊状態にさせたときは心臓が縮んだ。当然ながら雷雨の姿は常人には見えない。幸い教室は爆笑の渦で包まれたおかげでそんなポルターガイスト現象には皆深い追求はしなかったが、一歩間違えばマスコミが駆けつけかねないほどの心霊現象だ。というわけでしばらく雷雨は自宅謹慎ということになっている。なので今和輝が付けているリストバンドは予備のものだ。お気に入りのリストバンドは今頃机の引き出しで暴れていることだろう。自業自得だ。


「そういや、例の件どうしよっかな」


 例の件というのは模擬刀のことだ。

 計三本。母さんの大事なコレクション。まあ、これは素直に謝るしかないとして、これからどうするかが問題だ。ストックは確かまだ何本かあったはずだが、こんなこと繰り返しても母さんの火山噴火を手助けするだけだろう。


 和輝は溜息をつく。

 

 耐久力は、それはまあ真剣ではないからイマイチかもしれないが、脆いということは決してない。ただ<セレス>の力が強すぎるだけだ。あれだけ膨大なエネルギーを、あんな細い刀身に注ぎ込んで振り回せばそりゃ折れる。本当なら最高のエコ武器である<刃馬>を使いたいのだが、あれはかなりの集中力と精神力を要する。使った後もしばらく右腕が動かなかったところから考えても、あれはいざという時の必殺技として取っておくべきだ。



 そもそもなんで模擬刀なんか使わないといけないのか。



 雷雨が言うには、実は<雷神拳>という技は非効率らしい。本来セレスのチカラは何かしらの『武器』に注いでこそ真の力を発揮するようなのだ。そのチカラを注ぐ武器はなんでもいいというわけではなく、ある程度相性がよくないとダメらしい。


 これは先日聞いた話だが、セレスというのは魂の使者によってチカラの質が大きく異なるらしい。たまによく似た能力があることもあるが、それでも完全に同一ではなくどこか違う。で、そのチカラの質によって相性も変わってくるのだ。例えば雷雨の『雷』のセレスは剣や刀など、そういった細長い刀身を持つ武器との相性がいいらしい。


 和輝は最初それを聴いて正直に「べつに今のままでも充分だろ」と言った。確かに技の効率が上がるのは嬉しいことだが、和輝の専門は素手での戦闘だ。以前多少剣術をかじったことはあるが、どう考えても慣れ親しんだバトルスタイルの方が強いしやりやすい。だが雷雨はそれを聞いて呆れた声を出した。『ケガレを甘く見すぎだ』と。


「あのね、和輝。確かに和輝は今までケガレを何体か倒して実戦にも慣れてきてるわ。でも戦ったことがあるのはケガレ邪鬼とケガレ蜘蛛だけなんでしょ? 

 これはまだ言ってなかったけど、ケガレって種類がたくさんあるの。そうねえ、雷雨が知ってるだけでも百種類以上はいると思う。和輝はその内のたった二種類としか戦闘を経験してないの。もちろん、その二種より強いケガレはたくさんいる。もしそんなケガレと戦うことになったとき、和輝は最大限のチカラを発揮せずとも勝てると言い切れるの?」


 これには和輝も閉口せざるを得なかった。結局今まで慣れ親しんだ格闘術から剣術へとスタイルを移行することに。


 まあ、この辺のことは剣術と格闘術を戦いの中で組み合わせればいっかと和輝なりに納得しているのだが、ここでさっきの話が問題になってくるのだ。セレスの力が大きすぎてすぐに武器が壊れてしまうということにはほとほと頭を抱えさせられる。


 雷雨に言わせると、ああなってしまうのは和輝がセレスを完全に制御し切れていないから武器に余分な付加がかかるとのことだが、契約したての新人にそんな高等技術を求められても困る。これでもこっちは必死にがんばっているのだ。そう言うと雷雨は「だったら和輝みたいなへたっぴが使っても壊れないような武器を探せばいいじゃない」とかぬかしやがった。


 さてここで問題だ。その、へたっぴがバカみたいに強いエネルギー込めて振り回しても壊れないような武器を探して金出して買うのは一体どこのどいつだ?


 俺しかいない。


「新種のイジメかこれは?」


 和輝は本気で頭を抱える。おそらく、あれだけのエネルギーは本物の刀でもかなりの業物でないと受け止めることはできないと思う。そんな業物の在り処なんて知るわけないしそんなん高校生の小遣いで買えるもんでもないだろう。高校生ごときが買える刀身のある武器なんて木刀ぐらいだ。


「くそっ、こうなりゃやけだ」


 木刀を買い占めて最後の一本まで使い回してやる、という結論に達した和輝は、そう言えば木刀ってどこに売ってるんだろうという疑問にぶち当たった。お土産にでもいけば売ってるかな?


「君は一体なにをやけになってるの?」


「なんだ? 俺の力が必要か? はっ、しょうがねーな。人情溢れるこの武谷お兄さんが力を貸してやろうじゃねーか!」


 と、あーだこーだと唸っている和輝のところへ、クラスで一番仲のよい新城兄弟が歩み寄ってきた。


「ああ、お前らか。ちょうどいい武谷、眠気覚ましと糖分回復のためにコーヒー買ってこい」


「開口一番でパシリ命令かよ!? なんで俺がんなことしなきゃいけーんだっ」


「いや、だって力貸してくれるって言ったじゃん。はい100円」


「待てっ。行くとは言ってねえし20円足んねえよ!」


「なんだよ、人情溢れる武谷兄さんは友のために20円も出してくれないのか?」


「それとこれとは話がべつだろ!? つーか俺が言っているのはだな、もっとこう男同士でしか語り合えないような熱い話でよぉ…」


「頼むよ武谷。イケメンスポーツマンであるお前じゃないと任せられない仕事なんだ」


「任せとけ!」


 言うや否や武谷は自販機へと駆けていった。こういう扱いやすいバカがいるととても便利だ。


「君も、ずいぶんと兄さんの扱いになれてきたね」


「ああ。慣れれば結構おもしろい奴だな」


「でしょ?」


 言って雄哉はニヤリと笑った。今までにもさんざん武谷を利用してきたことが伺える顔だった。


「それで? 結局君はなにに悩んでるわけ? 僕でよければ相談に乗るけど?」


「あー」


 喉まで出かかった言葉を押して場繋ぎの声が出てきた。どうしよう? こいつならたぶん木刀がどこで売ってるかだけじゃなく値段だって知ってると思うけど、なんで木刀買うのかとか絶対しつこく聴かれるしなぁ……。武谷なんて聞くだけ無駄だろうし。


「いや、大丈夫だ。お前の手を煩わせるほどの悩みじゃない」


「そう? …まあ、それならいいけどね。

ああそうだ聞いてよ。最近手に入れた情報なんだけど実は教頭先生ってね……」


 それからは他愛ない話が続いた。和輝は適当に雄哉の話に相づちを打ちながら、この兄弟以外で誰に相談しよっかなーと頭の片隅で考えていた。



 つか、あいつらしかいねえよな。









◇◇◇







 四時間目の授業は予算の計算に追われるだけで終了した。内容なんてこれっぽっちも覚えていない。しかも出てきた結論は少し貯金を下ろさないと無理ときやがった。


 ちくしょう。あの電撃女、神様の使いなら金の工面ぐらいしやがれよ。


 和輝はうな垂れる。ここにいない相手を責めてもしょうがない。幸いあまり金遣いは荒い方ではないので貯金には余裕がある。


 でも、やっぱりどう考えても理不尽だ。


「あっ」


 なんて愚痴ってたのがまずかった。チャイムはとっくに鳴り終わり、周囲の者達は弁当を広げたり、財布の中身を確認しながら優雅に学食へ歩いたり、小銭を握り締めて購買部(せんじょう)へと駆けていったりとすっかり昼休みモードだ。

 慌てて首を振り回すが、目的の人物は見当たらなかった。


「うぇ、マジかよ…」


 またしても気分が沈んでくる。購買か学食なら大した手間ではないが、確かあいつらは揃って弁当だった。一体どこに腰を落ち着けて食べるのか。その場所をこの広い校内の中から探すのは結構骨が折れる。


 まあしょうがない、と気持ちを切り替えて弁当を手に立ち上がり教室を出ようとする。だがそれを狙い打つかのように立ち塞がるのはやはりこの男、新城武谷である。


「かーずーきーっ。一緒に飯食いに行こうぜっ」


 遠慮もクソもなく肩を組んでくる(自称)爽やかスポーツマン。とりあえず和輝はその近すぎる顔にちょきを突き出す。


「ぎゃぁああああっ! 目っ、目からビームがーっ!!」


「お前にとって目潰しはアイビームだったのか……?」


 呆れながら和輝は武谷から離れる。このままこの雄哉的呼称である『生きる廃棄物』(うわひでえ)を放置プレイしてもなんら問題はないのだが、さすがにそれは可哀想なので回復するまで待ってやった。


「……和輝貴様ーっ! テメェよくもこの自他共に認める超イケメンお兄さんである俺の顔に傷つけやがったな嫉妬なんかしてんじゃねえぞボケッ! 

 ……はいすいませんごめんなさいものすごいちょーしこいてました謝ります土下座しますだからぐーだけは勘弁してくださいっ」


「プライドの欠片もねーな、お前」


 上げた拳を下ろす。ほっと息を吐いた武谷は次の瞬間にはいつも通りの顔に戻っていた。切り替えの早い奴である。


「よし、じゃー食堂行くか!」


「ヤ」


「………」


「いや、そんな見捨てられた子犬みたいな目されてもキモイだけだからさ…」


「頼むよ和輝っ! 今日弁当持ってくんの忘れて購買にも出遅れたから食堂しかねーんだよっ。雄哉はあっさり裏切ってもう弁当食い始めてるしよっ。だから一緒に食ってくれる奴はお前しかいないんだ和輝っ! な、いいだろ? なんだったらジュースおごってやるから、な?」


「一人で食え」


「玉砕ボンバーッ!!」


 意味の分からない叫びを上げつつなおも武谷は和輝にすがりつく。正直少し、いやかなり鬱陶しい。


「そんな寂しいこと言うなよっ! 俺達出会ってまだ少しだけど連れションしたこともある親友だろっ!?」


「えっ、お前俺の親友だったのっ?」


「友情サランラップッ!!」


 さらにわけの分からない言葉を叫び出した武谷。たぶん、武谷的には悲しみを精一杯表した言葉なのだろうけど、文面だけ見て解読するなら古代ギリシャ文字よりも理解は困難だろう。


 付き合ってられなくなった和輝はさっさと教室から出ようと足を動かした。まだ武谷が何か言いながら付いてくるが完全スルー。あはは、今日は後ろが賑やかだなあ。


「カズちゃぁああああああああああんっ! お昼一緒に食べよぉおおおおおおおおおおっ!!」


 今度はテメェかブラコンシスター。


 ひょい。


 和輝は軽く右に動いて加代のラブラブダイブ(という名の突貫タックル)を避ける。そしてその先にはもちろん驚愕に目を見開く新城武谷がいるわけで、


「きゃあっ!」


 可愛らしい悲鳴を上げながら加代は空中回し蹴りを放った。

 鬼かあんたは。


 スカート万歳っ! とこれだけはよく分かる言葉を残して武谷は床に倒れた。なんかお前、今日すげえ災難だな。それともこれはラッキーと言うべきか?


「あーびっくりしたぁ。いきなり別の男の子の顔が出て来るんだもん。お姉ちゃん驚いて腰抜かしちゃうところだったよ?」


「嘘つけ」


 コンマゼロ1秒の隙も与えずツッコむ和輝。嘘じゃないもーん、と口を尖らせて抗議する姉が一匹いるが視界に入れることすらせずにスルー。


「あれ? カズちゃん今日は教室で食べないの?」


「ああ」


「じゃあ」


「ついてくんなよ」


「なんでっ!? お姉ちゃんとカズちゃんは毎日お昼を一緒にすべしと旧約聖書にも書いてあるんだよっ!?」


「んなわけないし俺キリスト信者じゃねえよ。雄哉と一緒にここで食うか武谷についていくかでもしてくれ」


 いつの間にか復活していた武谷が歯をきらんと光らせてポーズを取っていた。ちなみに武谷、お前それすげえダサいからな。


 加代はその姿を二秒見詰めると、


「まあ冗談は置いといて」


「ジョーキングお兄さんっ!」


 ちくしょう旅に出てやるーっ、と捨て台詞を残し武谷は教室から出て行った。強く生きろ。


「じゃ、そゆことで」


「そゆことでじゃない〜! せめて理由だけでも教えてよ〜!」


 駄々っ子みたいに腕を振り回す加代。和輝はそんな姉を見て心の底から溜息を吐き、


「実はな、加代姉」


 一拍の間を置き、


「ここにいる俺は実は、残像なんだ」


「ええっ! マジっすかっ!?」


「マジっす。赤い角と加速装置付けたら六倍速で動けるようになりました」


「じゃあカズちゃんの本体は!?」


「プールで背泳ぎしながら加代姉の『あーん』を待ってる」


「よっしゃー出撃ーっ!!」


 疑いの欠片もなく加代は風を切って走り去った。ほんと、扱いやすいバカは便利だ。


「さて、俺も行くか」


 和輝はのんびりとした歩調で校舎を歩くのだった。






〜次話予告〜

物語に大きく関係する少年の苦労などいざ知らず、最適な武器探しを始める和輝。和輝が頼るのは誰なのか?そしてたどり着いた場所で手に入れる武器とは……?


突然のバトルスタイル変更に戸惑った方、いたら誠にに申し訳ございません。男なら己の拳のみで戦えと豪語する方は感想として提出してください。それによってバトル内容に微妙な影響が出るかもしれませんので。

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