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Bet the wing!  作者: 宮村灯衣
第一章 雛カラス
8/10

雛カラスの夜

分割 後編の一部です

 夜。ロビーのマッサージ器に一人座る。他の人は部屋で休んでるようで独り占めできていた。


「お疲れ、菅野」


「おー、飯島、かぁ……」


 全身疲労。すでに筋肉痛が出ており今日の身体の酷使度がよくわかる。だから飯島の言葉に返事する余裕もほぼなかった。


「どうした? 捕まえたか?」


「いいや、逃がした。どっちかっていうと、取られた?」


「取られた?」


「白鴉の人に先に捕まえられた。理由聞いたら思わず譲っちゃって」


「そうか」


 飯島はニカッと笑うと俺の頭をポンポンと叩いた。


「馬鹿にすんな!」


 その手を筋肉痛で上げるのがつらいのも我慢して振り払うと飯島はさらに笑う。

 俺は飯島を睨みつけた。


「してない。頑張ったんだろ、菅野は」


 頑張ったけど、同じくらいの身長の奴に撫でられたりすんのはムカつくんだよ!


「強がんなよ。疲れてんだろ。なんならマッサージしてやろうか?」


「るっせ。いらねぇよ」


 いーっと舌を出せばまた飯島は笑う。


「ちなみにな、俺はもう二人捕まえた」


「マジでっ!?」


「あ、和香」


 心底驚いたという風に和香がいきなり俺たちの会話に入ってきた。


「いいなー、雅也。もう二人も捕まえたのかよ。アタシに一人譲ってくれよー」


「なんでだよ。まさか、お前」


「もう一人逃がした……」


「「馬鹿か!!」」


 思わず二人そろってツッコむ。


「やっちゃったよねー、本当に」


「和香、お前のペア実技次席だろ。どっちのミスだ?」


「アタシ。作戦ミスってさ、待ち伏せ場所間違えた。先輩にも迷惑かけるしさ……。ホント、埋まりたい」


 人のことは言えないけどこいつ馬鹿だろ。俺はあくまで譲ったわけだし。


「もうつらい。何より先輩に申し訳ない」


「まぁ、なんだ、頑張れよ、和香」


「あー、雅也ー!! お前すげいい奴!!」


 和香が飯島に飛びつく。

 俺はそれを見て(主に服装に)ドン引きする。


「なんだその顔は、蓮! お前も抱きついてほしいのか!?」


「いや、俺貧乳な女子に興味ないから」


 無言で跳んできた蹴りに抵抗することもできず急所を押えて痛みに耐える。

 女はこの痛みがわかってないから躊躇なく蹴れるんだ……。


「か、和香の馬鹿野郎……。まない」


 頭に剣の鞘が落とされる。悪魔だ。鬼だ。つかなんでその格好で剣持ち歩いてるんだ。

 初めて会ったときは、もう少しおとなしかったのに。

 俺の、コンプレックスでしかなかったこの白い髪を綺麗だと言ってくれて……。

 ヤバイ、意識が薄れてきた。


「おーい、菅野ー。しっかりしろー」


「飯島ー。この貧乳女、何とかしてぶへっ!!」


 ビンタ。また無言で飛んできましたよ。躊躇いとかナッシングだった。


「れーん……?」


「あ、いや、その、悪かった。まな……なんでもない、からかって」


 鋭い圧力から目をそらしながらまな板という明言を避ける。


「よろしい」


 機嫌は直ったようで元の笑顔に変わった。


「お前ら、仲良いんだな」


「こんなまな板女と俺が仲グエッ」


 鳩尾に剣の柄がクリティカルヒット。息が一気にできなくなりうずくまる。


「菅野、お前いい加減懲りろよ……」


「命が惜しくないの?」


 命は惜しいけど言わずにはいられないんだよ。なんでかわかんねぇけど。

 無性に言いたくなるというかなんというか。言ってしまう? なんというかもう本能? わかんね。


「それよりさ、和香。その格好何?」


「え、これ? 何か問題でも?」


 今までツッコもうか否かひたすら考えていたけどついついツッコんでしまった。

 こいつは、和香は今、なんていうんだっけ、女性が上に着る袖のない下着みたいなやつに下が短パン。胸はないがスタイルはいい和香がそんな格好をしていれば当然男子は目線に困るわけで。


「ある! さっきから飯島は直視できなくて頭抱えてるしな! 俺だって目線に困る!!」


 しかもこいつ足が綺麗なんだよ。惜しげもなく晒しやがって目線に困るだろうが。


「えー、別にキャミと短パンじゃん。問題ないよ。別に見られてもいいしー」


「見られてもいいと見ていいは違うんだよ!! やめろ今すぐ着替えて来い!!」


「ヤダ」


「ヤダじゃねぇ!!」


 できるだけ直視しないように(特に足)気を付けながら怒鳴る。


「お前は、そんなでも、鴉でも、一応女なんだ!! その格好してうろつかれたら俺たちが困る!! それにだ。俺らだって一応男なんだから興奮したやつが襲う可能性だってあるだろ。女子寮内とか部屋ならともかく、ここみたいな共同ロビーでは服を着てろ」


 えー、そうかなーとか抜かしてやがるがそうなんだよ! 俺ら、男は、興奮すると、ヤバいからな!! むしろ俺たちのためにやめてくれ。


「和香。頼むからやめろ。せめて上着を羽織ってくれ」


「えー」


「だからえーじゃねぇよ」


 しぶしぶといったように和香は立ち上がった。こちらを向いてニヤリと笑う。


「今回は貸しなー、蓮。いつか返してもらうよ。じゃ、明日からも頑張ろうなー」


「ちょ、てめ」


「言ったもん勝ちだもんねー。じゃ」


 ひらひらと手を振って去って行こうとする。


「あー、もう、ちょっと待て」


 俺はその格好でうろつくなといったのに聞いてなかったのか。


「これ着てけよ」


 着ていた上着を脱いで和香に投げる。

 和香はそれを受け取るとしげしげと眺めた。


「でかい」


「文句言うな。着てけ」


「まぁ、うん。明日返す」


「それでいい」


 上着に袖を通すと、上半身の肌が隠れたのはよかったんだが、多少大きかったらしく、短パンまで隠れた。

 正直ヤバイ。けどこれなんともできないし……。


「早く行け」


「ありがとな、蓮。じゃなー」


 今度こそ手を振って和香は自分の部屋に戻って行った。

 手を組んで顎を上に乗せため息をつく。


「なぁ、飯島。あれはヤバいよな、破壊力」


「足隠れててちょっとな。すごかったな。困った。目のやりどころに」


 あれでも、あんなでも女なんだよなぁ。正直可愛かった。色々とヤバかった。ちょっと立ち上がりにくい。そして、ロビーに座る俺たちへの憎しみのこもった視線がヤバイ。


「女って怖いな」


「激しく同意する」


 頷きあって握手を交わした。

 意見が一致してすっきりした。

 うん、明日からも頑張ろう。

ちなみに和香ちゃんは友人がモデルです。

性格や体格は全然違いますけどね。


では、次話もよろしくです

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