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Bet the wing!  作者: 宮村灯衣
第一章 雛カラス
6/10

相棒

分割 後編の一部です

「おい、来たぞ」


「主席って、あいつだろ? 白くない方。二年間ずっととか化け物だよなぁ」


「その隣の白いのってさ、跳躍でゴム切れかけたけどそのまま跳びきったっていう」


「野外訓練に参加してないくせに総合九席とかふざけてやがるよな」


 訓練場に入った途端、俺と飯島に視線が集まる。ヒソヒソと囁かれる賞賛やらやっかみやらをスルーして道場前に向かった。


「なぁ、飯島」


「なんだ?」


「お前いつもこんな視線に晒されてるのか?」


「え、当たり前だろ。むしろいつもより少ないくらいだ」


 ……当たり前ねぇ。やっかみは慣れてるし、八重坂たちには暴力振るわれてたけど、他の人には避けられてただけだし。

 慣れない。視線を集めるのは慣れない。


「よ、蓮。今回は、アタシの勝ちだな」


 唐突に声をかけられた。にひひと笑いながら目の前で仁王立ちをするのは小さい体躯の座学では好成績を収める俺の友人、山本和香だ。


「るせーよ、和香。三点差だろ、三点差。この前は俺が勝ったし」


「三点でもアタシの勝ちだもんねー。へっ」


 いらっとしたので勝ち誇る和香のすねを蹴る。崩れ落ちるのを見下ろして鼻で笑った。


「三点ごときで威張るなよ。実技は俺が勝ったし。総合も勝ったし」


「けっ、アタシは頭脳派なんだよ」


「鴉なら頭だけじゃやっていけないだろ」


「平均よりは上だから大丈夫だしー」


 鴉は二人でコンビを組んで治安維持を行う。

作戦を組み、職質や(基本的に)後方支援を行うブレイン。大体は座学の成績が上位の者がなる。

 作戦を聞いて、逃亡した犯罪者の追跡や立ち向かってくる犯罪者の対処を担当するバトラー。

 大体は実技の成績が上位の者がなるが、腕っ節さえ強ければどちらがなっても構わない。

 俺はもちろんブレインだ。


「平均より上ぐらいで後方支援できるのか? 獲物、刀だろ?」


「いや、剣だ」


「変わらねぇよ! 後方支援……お前……」


 和香の腰に下げられている剣を見てため息をつく。こいつこれで大丈夫か……?


「あれ、知らないのか? アタシ剣技トップだぞ?」


「えっ、マジか?」


「あぁ、五人しか選択してないからな!」


 胸を張るが自慢すべきことじゃないと思う。いや、でも、まぁいいや。


「あぁ、そうだそうだ、飯島。こいつ、知ってると思うけど、山本和香。座学次席。こう見えても女だ」


「こう見えてもってどういう意味だっ!! 最近は貧乳にだって需要あるんだぞ!!」


 あ、胸小さいの自覚あるんだ。とか思ってるうちに急所を蹴られうずくまる。こ、声にならない。あああああああ。

 そんな俺の上に座り和香はにっこり笑って飯島に手を振る。


「で、和香……こっちは……ご存知のとおり、実技総合トップの……」


 息も絶え絶えに紹介すればふっとかけられていた重みが消えた。


「飯島雅也だ。よろしく頼む」


 そういえば飯島って結構初対面の人間(特に女性)に弱かった気がするけどまぁいいや。ガッチガチの挨拶だし。


「お前固いな、はは。もっと気楽にいこーぜ! アタシ、和香でいいからお前のこと雅也って呼んでいい?」


「あ、え、えと」


 おお、飯島が押されてる。面白い、っと。

 壇上に教官や学長が上がった。


「注目ー!! すでに留年が決まった四名を除き、残りの者は二次試験に進むことが決まった!」


 四名……。自業自得、だが。俺は目を伏せた。


「二次試験は実地試験である! 仮だが、巡査として十五期上の先輩鴉とコンビを組み、巡回を行う! 何らかの罪を犯しているものを見つけ、三人逮捕すれば合格だ!」


 厳しい条件だ。三人を、三十人が二週間で。非常に厳しい。けど、救済措置はある。


「それ以外は先輩からの評価と監督官の評価、逮捕数より面接をして合否を判定する! 直、三人取り逃がした場合はその地点で不合格だ! 実技、座学、それぞれ上位十名は実技なら座学の、座学なら実技の先輩と組む! そして、残りの者は誰でもよい、先輩と組め! 以上!!」


 学長が下がった。そして、黒服で年齢がよくわからない感じの男性が前に出た。まさか、あの人。


「続いて、鴉総隊長の月宮アランより激励の言葉を頂きます」


 やっぱり! 総隊長だ!! 月宮さんだ!

 鴉を創設し、一人で百人規模の犯罪組織を壊滅させたことのある伝説の鴉。

 皆もざわざわしつつ、さっきより熱の入った視線で壇上を見つめる。


「えーと、ご紹介に預かった、俺が総隊長の月宮アランだ。本来ならここで何か気の利いた一言を言うべきなのだろうが……あいにく俺はそういうのに向いてないものでな」


 はぁとため息をついて首を横に振った。妙に絵になっている。


「まぁ、一つだけ、俺の好きな言葉を送ろう。Let it be. あるがままに。以上だ」


 何が言いたかったのだろうか……。とりあえず、カッコいい。

そして、五十過ぎとは到底思えない程若い、見た目が。


「それでは、第十三期卒業生を紹介します。総合主席、雪嶋直斗。総合次席、狭川風水。総合三席、中村紘道。代表として、総合主席雪嶋直斗より、一言頂きます」


 さっと壇上に上がった三十名弱のおっさ……ゴホン、先輩方。

 その中でもひときわ若い笑顔の……青年? が前に出た。

 あの人さっきいた人だ。思わず声が出そうになり口を押さえる。


「はい、みなさんこんにち


 バキッ!!


「…………バキッ?」


 訓練場に響き渡った聞き慣れない音。


「あ、」


 壇上を見つめれば、粉々になって地面に落ちるマイク。

 ん? マイクが、粉々に?


「「「「「「はぁぁぁぁああああああ!?」」」」」」


 会場の心が一つになった。


「あは、やっちゃった……。学長ー、予備のマイクください」


「雪嶋!! お前、マイク、お前……」


 学長の言葉も支離滅裂。訓練生は開いた口がふさがらず、先輩達はあきれたような視線を送る。


 直斗さんはやっちゃったという表情のまま、学長の元に行き、予備のマイクをもらい、マイクの残骸を渡すと笑顔で再び前に出た。


「みなさん、すみません。僕は雪嶋直斗。第十三期の総合主席です。見てわかる……ゴホン。一応、鴉入り最年少記録を持っているので他の方々より五歳ほど若いです」


 ちらちらと後ろを見ていた。あれか、同期の皆さんをおじさん扱いしたらキレられるからか。


「さて、あのですね、係員のミスで馬鹿兄貴に伝言を頼んでいたようで、僕、何も知らずにここ立っているわけなんですよ。まぁ、馬鹿兄貴はあとで殴るとして、僕から一言、ですか……」


 悩むように頭をかしげ、急に笑みを消し、一転して真面目な表情になった。



「――――自分の武器を理解し、それを磨け。それができぬ者に(レイヴン)となる資格はない。……以上です」



 一瞬で元の笑顔に戻ると颯爽と元の位置に戻った。

 訓練場内のざわめきが一段と大きくなる。

 あの人、そんなに有名なのだろうか。


「蓮、気付いてるか? あの人、検挙率№1コンビの片割れ、しかもブレインだぞ」


「マジで? あの腕力持っててブレインなのか?」


 有 名 で し た。

 鴉怖い。あの先輩怖い。

 マイクバラバラにする力あって頭脳派(ブレイン)なのかよ。


「では、第二十八期座学、実技の主席から三席までを紹介する。

 座学主席、真中由乃。実技主席だった狭川風水とペアだ。

 座学次席、山本和香。実技次席だった遊佐侘介とペアだ。

 座学三席、菅野蓮。実技三席だった雪嶋遥斗とペアだ」


 雪嶋……? ってことはさっきの人の兄貴? 馬鹿兄貴って言われてた人? 

 あ、さっきいた眼帯の人だ。

 目の前に跳び下りてきた背の高い眼帯の青年を見上げる。

 とても機嫌がよろしいとは言えない顔をしていた。


「実技主席、飯島雅也。座学主席だった雪嶋直斗とペアだ。

 実技次席、新形一郎。座学次席だった中村紘道とペアだ。

 実技三席、村岡信二。座学三席だった本田瑠衣とペアだ。

以上。残りの者は表を参考にペアを探すこと。ペアと三日後から始まる実地試験に備えること。解散。ペアを探せ」


 俺は探す必要がないので、目の前の青年におそるおそる話しかける。

 ……ものすごく不機嫌そうな顔で立っているので話しかけにくいが。


「あの、俺、菅野蓮っていいます。雪嶋遥斗さんですか?」


「んー、あー、そうだ。遥斗だ。名字で呼ぶなよ。これはあくまで総隊長に付けられた名字だ。俺のじゃない」


 素っ気ない。そして話しかけにくい。面倒な人と組むことになったみたいだ。

 顔が引きつりそうになったが必死でこらえて微笑みを作る。


「お前、ブレインか?」


「あ、はい、まぁ」


「実技はどのくらいだ?」


「十六席です。野外訓練参加許可が出なかったもので……」


 あー、このタイプは苦手。素っ気ないのは無理。


「十六……。あー、アンラッキーか……」


 それはこっちの台詞だ!! ため息付きながらぬかすな!!

 殴りかかりたい衝動を抑えてとりあえず睨み付ける。

 さっきから我慢ばかりで胃に穴が開きそう。

 まさか飯島はいつもこんな思いを……? 少しだけ飯島に同情した。


「まぁいいか。俺は遥斗。さっき挨拶してた直斗の兄だ。最年少で鴉入りしてる。左目は……まぁ気にするな。お前のことは……シロ坊でいいか。二週間だけだろうがよろしく」


 こちらの方を一切見ることなく、淡々と自己紹介をし、俺のことをシロ坊と呼んだ。うん、ムカつく。うん。

 二週間だけとか決めつけやがったのもムカつく。最初から俺は落ちるってか? ざけんな!!

 勝手に銃を抜こうとする右手を押さえて遥斗さんを睨んだ。

 当の本人はというと、地面を睨み付けてなにやらブツブツと呟いている。


「あのクソエロ親父め、騙しやがったな。なーにーが、指輪外してやるだ。面倒ごと押し付けやがってこんちくしょう! ナオに伝言ミスるしよ……。どれもこれもあのエロ親父のせいだ。あとで殴る。絶対殴る」


 エロ親父? とりあえずその人への罵詈雑言が続く。


「過剰聴力持ってる? 見た目が若い? それが何だってんだあんにゃろう……。耳元でモスキート音を大音量で鳴らしてやろうかあぁん? マジふざけんなよ……」


 過剰聴力……って、確か、総隊長が持ってるモノだったよう……な。まさか、な。


「なーにーが、総隊長だ。あんなヤツが総隊長なんて終わるぞ、終わってるぞむしろ! 殴る。絶対に殴ってやる」


 はい、総隊長のことでした。

 こいつ総隊長のことエロ親父扱い……。すげぇ……。


「はい、どーん!」


 右の方から急に跳んできた物体……人? にグチグチと文句を言っていた遥斗さんが吹っ飛ばされた。

 遥斗さんはごろごろと地面を転がり、壁にぶつかって止まった。跳んできた人――直斗さんは笑顔で俺に手を振る。あ、二人ともおそろいのピアスしてる。


「はじめましてー。僕は雪嶋直斗。あそこにいる馬鹿の弟ね。アホな兄貴が迷惑かけてごめん。僕が後で灸を据えておくからっ♪」


 ピース。つられて俺もピース。なぜかハイタッチ。

 あれ、俺何やってる……?


「ナーオー? てめぇいきなり何しやがる!! 強化装置でいきなりぶん殴りやがって……。やる気か?」


「…………勝てるの?」


 気まずそうに遥斗さんは目をそらした。

 ニコニコ笑う直斗さんを前にだらだらと冷や汗をかいている。


「無理、じゃ……ねぇ!!」


「沈黙あったけど?」


「むぐっ……」


 完全に遥斗さんはヘビに睨まれたカエルだ。鴉だけど。


「遥斗は馬鹿だけど、せめて後輩ぐらい可愛がってあげなよ。多少人脈は築かないと。僕みたいに明るくさぁー」



「――――直斗」



 低い声に一瞬で直斗さんの表情が消えた。


「癖を、直せ。嘘を、つくな。もう、俺たちは、二人きりじゃないんだ」


「……ん。ごめん」


 謝る直斗さんの頭を軽く叩いて遥斗さんが俺の方を向く。


「悪いな。俺も(おもに総隊長のせいで)色々あってちゃんとお前のこと見てなかった」


 余計なことは言っていたが、それでも真剣に真正面から見据えられる。

 感じる、気迫、強さ、優しさ、――闇。


「俺は雪嶋遥斗。第十三期実技三席卒業。バトラーで武器は基本ナイフだ。二週間になるか二年になるかはお前の腕次第だが、できる限り協力はする。よろしく頼む」


 差し出された手。俺はその手を握った。大きく、マメのある固い手だった。何年も武器を握ってきた武骨な手だった。


「ところで、お前もブレインとはいえ持ってるだろ? 武器」


「え? あ、はい、持ってます。けど、こっちは予備で」


「いいからそれ出せ」


「はぁ」

 言われた通りにサブアーマーの拳銃を腰のホルダーから取り出した。

 遥斗さんはおもむろに銃身をつかみ、自身の頭に突きつける。俺の手は銃を握りしめたままだった。


「一つ、問おう」



「――――お前はこの銃で人の頭を撃ち抜く覚悟はあるか?」



 息が、止まった。

 ありますと言いたかった。言えるはずだった。俺は、俺はきちんと覚悟してこの場に立っている。鴉になったら撃たなきゃならない。だから……。


「うん、悪いこと聞いたな。まだ卒業もしてない雛カラスにそんなこと聞くのは野暮だった。……でもな、お前はいずれ迫られる。それだけは言っておく」


「な、んで、そんなこと……聞くんですか?」


 止まった息を吐き出し問う。

 それぐらいしか発することができなかった。


「…………うちが鴉と呼ばれる理由は?」


「それ、は、鴉の制服が黒く、空を駆けるその姿が鴉に見えるから……」


「もう一つの方の理由だ」


「――――鴉には元犯罪者もいるから、です。そのことを卑下して、そう呼ばれています」


「そう、それだ!」


 遥斗さんは笑いながら手を打ち、俺の目の前に手のひらを突きつけた。


「この指輪、意味はわかるな?」

 真っ黒な、太い指輪が左手の人差し指にはまっている手を。

 生体認証とGPSのついた真っ黒な指輪がついている手を。


「元、犯罪者……」


「その通り!! 俺がこれと認識票(タグ)を外した場合は即時射殺命令が出る。遂行するのはお前だ、蓮。だから、俺のペアになるなら、鴉となるなら、その銃で人の頭を撃ち抜く覚悟を持て。死なないために。民衆を守るために」


 とんと額を突かれ二、三度まばたきをした。


「返事は?」


「…………」


「返事は、シロ坊?」


 シロ坊という言葉で我に返る。俺は……。


「俺はシロ坊じゃないです。蓮です!」


「そうかシロ坊。返事は?」


「わかりました!! 撃ち抜きますよ! 遥斗さんが逃げ出したら、鴉に逆らったらそのときは、俺がこの手であなたの頭を撃ち抜きます!!」


 遥斗さんは目を見開いた。そして楽しそうに笑い出す。


「くくっ、初めてだよ。俺の言葉にそうやって返したヤツは。くくっ、はっはっは。最高だ。お前最高だよ。これからよろしくな、シロ坊」


「シロ坊じゃないです、蓮です!」


「シロ坊でいいだろ白いんだし」


 白いのこれでも気にしてんだよ!!

 シロ坊シロ坊と楽しむように呼ぶ遥斗さんに文句を言う。

 強化装置を発動まではさせないがそれでも十分喧嘩してる気がする。


「これは、あれですね。仲良きことは良い事かな」


「「よかねぇよ!!」」


 二人で同時に直斗さんにツッコんだ。

 どうしようとうろうろしている飯島が妙に面白かった。

後編です。


次話もよろしくです

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