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Bet the wing!  作者: 宮村灯衣
第一章 雛カラス
3/10

禅との出会い

分割 前編の一部です

「おい、どうだったよ」


「むっずい。もう無理だ落ちたかもしんねー」


 三日間の座学試験が終わった。周りは結果におびえざわついてるが……まぁ、落ちてはないだろう。主席は無理でも次席か三席は取れる……はずだ。


「警察からさ、鴉に変わった理由ってなんだっけ?」


「えっと、確か三度の大戦のせいで街が全体的に荒廃して、それで市民が金や身分で層のように分かれて住んで、最上層とか中層の町は復興されたけど、下層はまだで、路地裏とかで起こる犯罪が捕らえにくくなったから、だっけか! 俺はこう書いたぞ!」


「それさ、強化装置がつかわれるようになった理由じゃねーの?」


「そうだっけか?」


 その通り。それじゃあ減点だな。警察がなくなったのは大戦の影響で賄賂が横行したから、だ。これがいる。賄賂につられて犯罪を見逃す馬鹿者が出てきたから。警察をなくした主な理由はこれだ。

 俺なんかは中層出身でもあるし下層育ちでもあるから下層の酷さはよくわかる。犯罪なんてもう本当に日常だからな。政府が復興に乗り出さないのが主な理由だと俺は思っているが。あの瓦礫の山さっさとのけないとそのうち大事故が起こるだろう。

 まぁ、下層の人間なんて最上層の人間からしたら虫けらと同じかもしれないが。

 おっと、ついつい考え込んでしまった。座学のテストは楽しかったからな。

俺としては座学よりも実技試験のほうが心配だ。何しろ俺はアルビノだから野外訓練への参加を許可されていない。

 そのうえ、戦闘能力皆無でほとんどの種目が苦手だ。


『えー、呼び出しをしますー。菅野くん、菅野蓮くん。至急教官室にまで来なさい』


 ……俺への、唐突な、呼び出し。


「……俺何かした?」


 カンニングは……やろうと思えばできるがしてない。暴力行為……された覚えはあるがしたことはない。煙草、酒……もちろんしてない。ってことはなんだ……?

 あぁ、面倒くさい。

 遠くでいつもの馬鹿たちが笑ってるような気がしたが、そんなものに構ってる暇もない。

 帽子を深くかぶる。ゆっくりと何気ないように装って教官室へと歩いた。



「失礼します、菅野蓮です」


 敬礼をし、教官室に入る。中には険しい顔をした教官たちがいた。

 さすが元鴉だなとか余計なことを考えてる思考を追い出して教官に尋ねる。


「えと、どのようなご用件でしょうか」


 どんなことを聞かれても答えられる自信があった。

 完璧に、ミスなく答えられる自信が。


「菅野くん、君は下層出身でしたね?」


「へ? あ、えー、あっ、はい、一応、そうです」


 予想外、だった。でも、大丈夫。まだ、大丈夫だ。


「家族は?」


「え? あー、父と、母が……いました」


 どうして、そんなことを聞くんだ?

 なぁ、なんでだ? このことが、何か関係があるのか? 俺のこれからに。


「いました、ってことは二人とも亡くなってるのかな?」


「はい。父は事故で。母、は……母は、病気で、亡くしてます」


 言葉を発するのに時間がかかった。父は、父さんは、いいんだ。俺が知らないときに、亡くなってたから。

 でも、でも、母さんは…………。


「ふむ、いくつの時に?」


「父は、生まれてすぐです。母は、俺が、俺が、十五のときに……」


 母親の顔が浮かんだ。

 睨みつけ、ご飯を投げつけ、怨嗟の声をぶつけ、殺そうと俺の首に手を伸ばす。

 やめて。やめてよ、母さん。俺は、俺は何もしてない。してないよ……。俺は、俺は……。母さん、母さん……。


『死ねばいいのに。あんたなんて死ねばよかったのよ!!』


 言わないで。そんなこと言わないで。俺、生きててよかったと思うんだよ。俺、俺……母さん、母さん!!


「菅野くん!!」


「……っ、あ……俺、は……?」


 ここは、どこだ? 教官室。

 俺は誰だ? 菅野蓮。鴉の訓練生。

 大丈夫、母さんはいない。俺は――一人だ。


「胸を押さえて荒い息を吐いていた。大丈夫かね?」


「平気です。続けてください」


 本当に心配そうな視線がある意味で辛かった。なんだこの気持ちは。


「大丈夫ならいいのだが……。君にカンニング疑惑がかかっていてね……」


「え、はぁ? あ、失礼。カンニング、ですか? してません!!」


 するわけない。俺、すごい必死になって勉強して、やっとここまで来たんだ。鴉になりたくてなりたくてでも俺身体弱くて、それでもどうにか頑張ってここまで来たんだ。それなのに、カンニング? ない、ありえない。


「まぁ、理由が下層出身だからとか何とか、支離滅裂でね。一応確認だけしとこうということになって。鴉は身分や人種差別を禁じているというのに……。あとであいつら罰則だな」


「え、あの、それって」


「誰かは言わない。だが、あいつらの行動にはこちらもほとほと困り果てているんだ。何かあれば教官室に来なさい。君の力になろう」


「ありがとうございます……?」


 お礼を言うべきなのだろうか? よくわからない。

 何かあればということは、あいつらの行動を教官たちは把握していないわけで。

 ということは、今日の朝の暴力のことを言えばあいつらに報いを受けさせてやることができるんじゃ? いや、それはちょっとなんか嫌だ。間接的に、なんて。

 混乱してよくわからないことが頭を巡る。


「ところで、菅野くん、一番の本題に入ろうと思うのだが、君は卒業試験の実技において野外訓練が総得点の何割を占めるか知っているかな?」


「え……えと、半分、です」


「正確には55%だが細かいことは気にしないでおこう。そして、実技試験の合格ライン総得点は何割か知っているかな?」


「六割です」


「そう。六割だ。つまり、だ。君がいくら他種目でSランクを取ったとしても、野外訓練に参加しない地点で君の不合格は決まっている」


 ……んなことは、わかってる。なんで、わざわざ言うんだ。現実を、突きつけるんだ。


「……ようはもうお前は不合格だって言いたいんですか? わかっていますよ、外に出るのは御法度だって。でも、俺だって外に出たいんです。外を駆けたいんです!」


 小さい頃、俺を助けてくれた鴉のように。


「だから、いえ、だったら俺は、野外訓練に参加します。寿命が縮まっても構わない……。野外訓練に参加するのは初めてですが、基礎は知っています。Eランクは取らない自信があります。許可を、ください」


 教官たちの目をじっと見つめた。

 戸谷教官は俺をちらりと見て目を伏せる。


「梅田夏丸」


「は?」


「君と同じアルビノの鴉がいたんだ。梅田夏丸という子がね。彼は責任感がとても強くて、実技も座学も常にトップレベルの成績だった。だから教官方も期待してね、アルビノは肌が弱いことを知りながら野外訓練も許可していたんだ」


 俺と同じ、同じような人が……。


「そして、卒業試験も通って鴉になって三年目の夏、彼は唐突に亡くなった。死因は皮膚ガンではなかったけれども、僕たちは野外訓練や外勤務の負担が原因ではないかと考えた。だからこそ、これ以上夏丸のような者を出さないためにも最大限配慮すると決めたんだ。わかったね? 許可は、出せないよ」


 俺とその人は違うかもしれないじゃないか! そう思ったけれど言うことはできなかった。

 ひとたび外に出て日光に当たればすぐに水ぶくれができてしまう自分の体質を知っていたから。

 自分の皮膚が弱いことはずっとよく分かっていたから。

 自分自身の現実が悲しいくらいに理解できていたから。


「……記録保持者(タイトルホルダー)。じゃあ、記録保持者になればいいんですよね? 記録保持者は問答無用で実技試験パスできますもんね? そのことが言いたかったんですか?」


「あー、確かに、各種目の過去最高記録をとれば記録保持者になれてその上実技試験もパスできるが……。それは難しいだろう。何より賭け過ぎる。そこで、教官陣から提案だ」


「提案?」


「そうだ。野外訓練に必要な技術……跳躍、垂直跳び、降下、徒手組み手の種目の点数を八割分だけ底上げしよう。つまり、だ。君は本来ならば実技試験で最高45%しか点数を獲得できないが今回は特別措置で最高80%の獲得を保障する。君の人となり、真面目さを見た教官たちの総意だ。何か疑問点や文句はあるかな?」


「ないです……」


 ってことは……。


「そうか、それはよかった。明日からの三日間……君は二日間か。頑張りたまえ」


 俺も実技を普通にパスできるかもしれないってこと……?


「はいっ!!」


 教官室を出ると俺は拳を突き上げて無言で吼えた。

 嬉しかった。

 漠然としか見えていなかった“鴉”への道がはっきり見えたから。


「そうとなれば練習だ! 鴉になるために!」


 更衣室へと走り、ロッカーから強化装置を取って外へ出る。

 日差しは上着をかぶることで何とか避けきって、体育館兼訓練場の裏にある日陰に入った。

 ここは一見、木が生い茂っているだけに見える。でも、その木々の間隔は約十m。実技試験でもある“跳躍”の距離と同じだ。

 あと、とても高い木が生えているので同じく実技試験の“垂直跳び”の練習もできる。

 気付ければ宝のような練習場だ。


 とにかく練習だな。

 ズボンを捲り上げ、ブーツからゴムを伸ばし交差させつつ太ももまで上げて太もものベルトにひっかけて止める。左足も同じようにして立ち上がった。


「Flick!」


 助走をつけて、跳ぶ。



 ――――その距離、十m。



「ん、よし。上々」


 国家安全保障機関が“鴉”と呼ばれるのには三つほど理由がある。

 一つは、国家安全保障機関の制服。制服は上下とも真っ黒で、一応着用は自由だが、大抵のものが着用している。

 もう一つは、強化装置と呼ばれる空を駆けるための道具。人間の脚力や握力など、力を約三~四倍格上げするその装置によって鴉は空から街を見ることができるようになった。戦後に増えた小さな犯罪も見つけられるようになった。

 そうした黒い姿が空を駆けるその様子から“鴉”という通称となったのだ。

 もう一つの理由は……今は語らないでおこう。


「次は、と」


 20mはある木。その前に立ち、伸びをした。


「さて、やるか」


「あのー」


「はいいっ!?」


 わ、え、誰、え、えと?

 この人、女……? いや男? 胸はないが最近は胸が残念な女性もおお……いやなんでもありません。

 脂肪もなければ筋肉もなさそうだ。声も……ハスキーでわからない。

 白衣に身を包んだその人は杖をついて立っていた。


「禅見てない?」


「禅ですか?」


 禅? 修行か何かか? そんなわけはない。訓練生か? いや、そんな名前の奴はいなかった、たしか。とすると鴉?

 目の前のその人をまじまじと見つめるとその人は困ったように微笑んだ。


「ちゃんと人だよ。あ、そうだ、特徴。背がすごく高くて、あとまぁしゃべれないんだけど、それはいいや。髪は短くて、服装はたぶん黒。見てない?」


 思案してみたが思い当たるような人はいなかった。そう告げるとその人の眉は一瞬ピクリと動いて元の笑顔に戻った。

 目が一切笑っていないその笑みは心底恐ろしかった。


「あーっと、私は松永伊澄。一応ここで強化装置の修理人兼開発者してるんだ。あと医者? でさ、禅を見かけたらすぐ私のとこに来るように言っておいてくれないかな? 見かけたらでいいから」


「あ、はい! わ、わかりました!!」


 思わず敬礼が出た。それぐらいなんというか迫力のある笑みだった。そのせいで名前も男女の見分けに役立たないとか考える暇もなかった。


「じゃ、よろしくね」


 ひらひらと手を振って杖を突きながら伊澄さんは去って行った。

 あとに残された俺はただひたすら先ほどの恐怖に耐えるだけで。


「れ、練習、するかな……?」


 思わぬことはあったけど、練習しないとな。時間もあるし。


「さてと」


 頭上で木が揺れる音がする。気のせいかと思ったが木を見上げた。見えたものは、落ちてくる人。下りてくる人。


「な、な、な、なんだぁ!?」


 叫び声を完全にスルーして何の苦労もなくそいつは着地して俺の前に立つ。

 俺もそこそこ背が高いはずなのだが、俺よりも十㎝以上は高い。そして、見たことがない黒髪の男だった。


「誰だ、お前?」


 その男は首を傾げる。こいつ、年上? ってことは、鴉!? いや、あの伊澄さんが言ってた禅ってやつか?


「耳が聞こえないのか? お前、誰だって言ってるの」


 あぁ、というように手を叩くと、笑った。そして、指を喉に当てて手をばってんの形にした。


「えーと、喋れない、ってこと?」


 こくこくと頷く。たしか、伊澄さんも禅ってやつはしゃべれないって言ってたような。ドンピシャか。


「年上?」


 頷く。


「鴉か?」


 頷く。


「訓練しに来たのか?」


 頷く。


「えーと、俺は菅野蓮だ。お前は?」


 一瞬目を泳がせてそいつはその辺に落ちていた枝を拾った。一文字一文字ゆっくりと地面に書いていく。


「古林、禅?」


 ぱあっと目を輝かせてこくこくと頷いた。

 俺より年上ってのに子供みたいだな……。

 名前が一緒だからもうこの人は確実に伊澄さんが言ってた人みたいだ。


「えっとな、松永伊澄って人から伝言。『私のとこに来い』って」


 無邪気な笑顔が一瞬にして凍りついた。がたがたと震えて目を泳がせる。

 震える手を必死に動かして禅が書いた言葉は、


『伊澄、怒ってた?』


 で。


「なんというか、思わず敬礼するぐらいには怖かったけど……」


 あ、固まった。動かない。


「さっきなんで出てこなかったんだ?」


 木の上にいたのなら俺たちの会話も聞こえていただろうに。

 そう言うとなんとか動き出した禅は地面に文字を書き連ねる。


『出て行ったら怒られると思ったから。伊澄怖いから』


 あー、わかるなぁ。わかるけど、こいつが出てきたら俺が脅されることもなかったんじゃ。


「あの、禅?」


「ぜーん。みーつけた」


 先ほど聞いたような声に二人そろって固まる。

 ギギギと音を立てながら恐る恐る振り向いた。


「伊澄さん……」


『    』


 慌てたように禅は手を振り始めた。これって、手話?


「言い訳かな、禅? で、どんな言い訳をしたいと? 強化装置の調子を言わずに逃げた理由は?」


『    』


 ああ怖いな。禅可哀想だ。あわてて言い訳をしているようだが何を言っているかはわからない。とりあえず、親指と人差し指で眉間をつまむようにして、手を開き、指をそろえて上から下へ軽く下ろしながら頭を下げていた。んと、謝ってる?


「え、ごめんって? そんな言葉ですむと思ってるのかな? ねぇ、禅」


『    』


 謝ってたみたいだ。そして、禅。そんな顔で見られても俺は助けられません。そこに突っこんでいくのは勇者の所業だから。


「はぁ、次から逃げたらしばくからね。で、強化装置の調子はどう? 口の形認識して起動する強化装置の改訂版」


『    』


 安心したように肩をなで下ろして禅は笑うとまた手を動かし始めた。わかりやすいなぁ。


「そう。んー、もう少し改良する必要あるか」


『    』


「これで十分って、はぁ。私のせいで犯罪者逃がしたなんてことになったら嫌だから素直に改良させて」


『    』


「わかったらよろしい。しばらく前のやつ使う?」


『    』


「うん、了解。じゃあ、行こうか?」


『    』


 伊澄さんの言葉で大体会話は想像できたが……すごいなぁ。いいな。俺も禅とああやって話してみたい。


「蓮くん。ちょっと」


「は、はい!? な、なんですか?」


「そんなに慌てなくても。獲って食おうなんて思ってないよ。禅がね、言いたいことがあるんだって」


「禅が?」


 伊澄さんの隣で禅がこくこくと頷く。


『    』


「垂直跳び、上まで跳べるのか? って」


「えと、跳べないときも跳べるときもまちまちで……。でも、最近は飛べるようになってきてる!」


『    』


「見本を見せてやる、って。ちょうどいい。動作の確認にもなるし。見せてあげて」


 禅はにっと笑った。


『    』


 息を吐く。次の瞬間、一気に十m地点まで跳び、木をもう一度蹴って跳んだ。


「すげぇ……速い……」


「禅はこれの記録保持者だからね」


 そのまま一気に行くのかと思いきや、十五m地点でもう一度木を蹴って跳ぶ。

 そして、着地。木の先を揺らしながらニコニコ笑っていた。


「なんで……?」


 思わずそんな疑問が飛び出る。

 強化装置で跳べる距離は十m。だから、途中では一回だけ蹴って跳ぶのが普通だったから。


「強化装置の性能上ね、垂直距離に跳べるのはきちんとした真っ直ぐな地面で約十mなんだ。壁や木を蹴るだけで十mはよほどのことがない限り無理。だから分けて跳ぶ。まぁ、これも練習しないとできないけどね。禅ー。下りといでー」


 木の枝などを掴んで減速しつつ、目の前に禅が飛び下りて来た。そして、手を動かす。


『    』


「わかったか? だって」


「あぁ。禅、ありがとう」


『    』


「どういたしまして、って。あと、またな、って」


「おう、またな、禅」


 禅は笑って手を振った。伊澄さんも笑っていた。

 そのままの笑顔で禅は伊澄さんにぶん殴られてすごすご連れていかれた。

 あ、そうだ。


「禅!! 俺が鴉になったら! 手話を教えてくれ!」


 禅は一瞬悩むように首を傾げ、手を叩くと、親指を立てて笑った。もう一度手を動かす。


『    』


「約束、だって」


「うん、約束だ」


 絶対に鴉になろう。

 昔、俺を助けてくれた二人のような鴉に。禅のようなすごい鴉に。

 強い決意を胸に秘め、木に向き直った。


「Flick!!」


 地面を強く蹴る。


「Flick!!」


 そのまま跳び上がって、半分辺りでもう一度木を蹴って跳び上がる。

 ここまではできる。問題はここからで、禅みたいに、


「跳ぶんだっ!!」


 木を、蹴った。


「あっ、くそっ!!」


 発動呪文を忘れた。中途半端に跳び上がって――落下しだす。


「Promote!!」


 両手の強化装置を発動するものの、中途半端に跳び上がったせいで……手が木に届かない。

 このまま落ちれば骨折は免れない。かといってこのままどうしようもない。

 ……来年、頑張るか…………。

 一瞬見えた、死ぬ運命。骨折する運命。あー、どっちもやだなぁ。


「――んの、馬鹿野郎!!」


 発動呪文と罵声と共に俺の元に跳んできたのは、


「飯島?」


 飯島だった。


「Promote!!」


 俺の首根っこを掴むと強化された右腕で木を滑って減速する。


「アホ!! 馬鹿!! マヌケ!! 簡単に諦めてんじゃねーよ!! 一人で練習してんじゃねーよ!! 馬鹿!!」


「悪い、飯島」


 地面に着くと片手で放り投げられた。何もできず地面に横たわる。


「今お前俺が来なかったらどうなってた? 言ってみろ!!」


「たぶん、死にはしなくても骨折はして来年に……」


「そうだ。それがどういうことかわかるか? お前の一年の苦労が無駄になるってことだ。そして、俺が一年間お前を何度庇ったと思って……。それが無駄になる……」


 胃を押さえてうずくまった。あー、予想は前者六割後者四割ってとこか。まぁでも基本的に俺が悪い。


「悪い、本当に悪かったよ。次からは気を付ける。一人で無茶したりしないようにする」


「わかったらいいんだ、わかったら。頼むからこれ以上俺の胃痛の原因を増やさないでくれ」


 すごく申し訳ないな。深く反省しよう。


「本当に次からは気を付ける。悪かった」


「わかればいいんだ」


 飯島は立ち上がると俺に手を差し出し、俺はそれを握る。いつものことだ。


「教官に聞いた。得点の底上げしてもらえるそうだな。よかったじゃないか」


「あ、そうだ、そうなんだよ!! 俺、俺、鴉になれるかもしれない!! 鴉に!!」

 ずっと憧れてたあの人たちとさ、同じ立場になれるかもしれない。本当に嬉しいんだ。俺のヒーローと同じ立場になれるかもしれないんだからさ。


「んなに騒ぐな。胃に響く。でもよかったな。俺も嬉しいよ。お前と鴉になれるなら俺の苦労も報われるから」


 差し出された拳に俺は合わせた。

 本当に、いつもいつも助けてもらってありがとう、飯島。お前がいなかったら多分俺、あいつらに負けてた。鴉になる前に諦めて学校やめてた。だからさ、


「ありがとな、雅也」

どのぐらいずつすればいいのかわかりませんがまぁこのくらいで


次話もよろしくです

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