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Bet the wing!  作者: 宮村灯衣
第一章 雛カラス
2/10

卒業試験

改稿をしました。大幅な改稿ですが大まかなストーリーに変更はありません。後編も近いうちに改稿します。

読みやすいように細かく分割して空白をあけました。

後編などは更新しつつ改稿していきます。

「えー、諸君、おはよう」


「「「「おはようございます!!」」」」


「今日から三週間、諸君らも待ちに待ったであろう、卒業試験だ。これに合格すれば諸君らは初めて“鴉”を名乗ることができる。頑張りたまえ」


「「「「はい!!」」」」


 学長の言葉に皆がざわめく。

“鴉”とは正式には、国家安全保障機関。昔の言い方で言えば警察。この国の平和を守る存在だ。


「ではっ、試験の内容を説明するっ! 一週間目は、座学試験を三日間、実技試験を二日間行うっ! そして残りの二週間で実地訓練を行う!」


 副学長の言葉を話半分に聞きながら目だけを動かしてあたりを見回す。

 絡まれたくない相手は割と近くにいたからこそっと帽子をかぶり直した。

 そのままぼーっとずっと前から覚えている内容を聞く。

 あぁ、暇だ。つまらない。早く終わらないかな。


「一週間目に行われた試験の結果によって先輩の相棒が決まるので良い相棒に当たりたければ、結果を出したまえ。以上っ! 生徒は皆、第一講義室に移動するように! 解散!」


 敬礼をして皆が動き始めた。俺は帽子を深くかぶり直しできるだけ目立たないように、目立たないように移動する。


「おい、なにこそこそしてんだよ、菅野」


 あー、見つかった……。面倒くさい。だからこそこそしてたのにさー。

 こっそり舌を出した。


「なんだよ」


 面倒くささもそのままに、不機嫌そうに振り向く。


「不機嫌してんじゃねーよ、モヤシ!」


「気持ち悪いんだよ」


「なんでてめ―みたいなのが残ってんだよ」


「消えろよ。野外訓練参加できないやつが」


「てめ―みたいな“白い”やつが鴉を名乗る資格なんてねーんだよ」


 罵詈雑言とともに顔以外を殴られ、蹴られる。息を殺し、痛みを最小限に抑えようと受け身をとった。

 こんなことは、日常茶飯事だからだ。

 それでもって、手を出せばいざという時俺も迷惑こうむることに気が付いているから手は出さない。


「うるせぇ。うるせぇよ! なんだ僻みか? 俺のが座学成績いいもんなぁ。ガキみたいなことやってねーで勉強したらどうだよ」


 はっ、とせせら笑えば暴力は一気にひどくなる。


「うるせぇよ!」


「実技できない落ちこぼれが偉そうな口きくな!」


「モヤシごときが」


「下層出身のくせによー」


 ガキが。あぁ、本当に面倒くさい。

 早く来いよ、飯島。


「――おい。お前たち、何をしている」


 聞きなれた声に顔を上げれば、正義感にあふれた顔の茶髪の青年がいて。

 ったく、遅いんだよ、いつも。もっと早く来いよ。

 口に出せば怒られるから心の中だけでつぶやく。

 そしてにやっと笑いかけた。


「飯島、さん……」


「なんで、ここに……」


 飯島は俺に手を差し出す。その手を握れば引き起こされた。


「八重坂、降矢、大高、三藤。暴力は罰則だ。あとで教官室に行け」


「そんな奴の味方、なんでっ、なんで、ですか……!」


「なんでかって? 簡単だ。ここに入ったからには身分なんて関係ない。下層出身? 最上層出身? それがなんだっていうんだ。ここで物を言うのは頭と力だ。実力がないなら努力しろ。こんなことしてないで」


 それお前が言うかよ……。目の前の最上層出身者おぼっちゃんを見つめる。

 確かにお前、実力で実技とか総合主席だけどさ……。


「さっさと試験会場に向かえ。お前もだ、菅野」


「へーい……」


 不服そうに声を上げれば小突かれた。

 促されるままに呆然としたやつらを置いてしばらく歩く。

 視界から消えたところで……文句を言うことにした。


「飯島。おせぇよ」


「うるさい。こう見えて主席は仕事が多いんだ。お前も俺の仕事を少しは減らそうと……」


 言葉が途中で止まった。見れば胃のあたりを握りしめている。

 こいつは、また……。


「胃痛かー? 薬は?」


「持ってる。いつものことだ……。菅野、お前も少しは努力してくれ。俺の胃にこれ以上負担をかけるな……!」


 切実な言葉に笑いながらうなずく。


「努力はする。でも、俺今日も避けようとしてたし」


「どうせ喧嘩売るようなこと言ったんだろ。お前はもう少し言葉を選べ!」


「うーい」


 キリキリ痛む胃を抱える飯島は、国内でも有数の財閥のご子息様で、本来なら俺のような下層出身の人間が声をかけられるようなものではない。

 ただ、鴉養成訓練学校、並びに鴉は、人種差別ならびに身分による差別を禁じている。戦後に生まれた、差別を。住んでいる場所で決まる身分の差別を。

 だからこそ、対等に話せる。それが誰であっても。


「なぁ、飯島ー。勝負しようぜ」


「は? 唐突になんだ。またお前は俺の胃痛の元を増やす気か?」


 非難の目を軽く受け流して違う違うと手を振る。


「むしろ飯島の負担を減らそうってことだ。お前が勝ったら、俺はあいつらに喧嘩売らないし主席の仕事も手伝ってやるよ。ただ、俺が勝ったら今まで通り、見逃してくれ。多少のいたずらは」


「それ俺のハイリスクノーリターンじゃねぇか……」


「そんなことはないと思うけど。主席の仕事も減るし、喧嘩も減るぞ?」


「外仕事が多いんだ。お前、ろくに外出られないだろ。んでもって、喧嘩なんざ向こうが売ってきたらお前買うからいつもと一緒。何が楽しくてそんなこと……うー」


 飯島は薬を口の中に放り込んで水を飲んだ。即効性ではないだろうが、多少は落ち着いたようでいつものように背筋を伸ばしてすくっと立つ。


「いいじゃん。内仕事なら手伝うしさ。そういうのあった方が燃えねぇ?」


「燃えない。絶対に嫌だ」


 頑としてはねのけられる。面白くない。

 もっと、こう、突っかかってくるとか、ノッて来てくれた方が面白いのに。

 むっとしたので、つかつか先に歩いて振り向くと指を飯島に突きつける。


「俺は今回の試験、跳躍と垂直跳びと座学でお前に勝ってやるからな。そしたら、いたずら見逃せよ!」


「勝手に宣言してんじゃねぇよ。しかもお前の得意種目しかねぇじゃねぇか」


 跳躍――十mのビルの模型を十メートルおきに十個設置し、強化装置デバイスを用いてその上を跳ぶ種目。

 垂直跳び――強化装置を用いて二十mのビルの模型の上に跳び乗るというものだ。強化装置の限界上、大抵の者は跳びきれない。

 これら二つは実技試験に行われるもので、両方とも俺が得意な種目でもある。むしろ俺はこれらと射撃と……降下しかできない。


「跳躍は飯島も得意じゃん。一個でも飯島が勝てたら自重するからさ」


「勝ち目……ねぇだろ。座学お前いつもトップスリーだし、俺垂直跳び上まで行けたことねぇんだよ!?」


「大丈夫、大丈夫。じゃ、またあとでー」


「ちょ、おい!!」


 慌てたような飯島の声を無視して試験会場に入った。

 凍てつくような視線が襲い掛かり、すぐにその視線は参考書に戻る。

 みんなピリピリしてるな……。

 俺はもうあがこうとも思わない。

 今更数分あがいたところで結果は変わらないし、もうほぼ頭に入っている。


「――さぁ、今日から怒涛の卒業試験だ。やるぞ」


 小声でつぶやいて、音の出ない程度に頬を叩く。

 どんなことでもできるような気がした。

 設定は近未来の日本ですかね。現代でいう警察が“鴉”と呼ばれています。理由は二つ語ってありますよね。三つ目はちゃんと次回で語ります。そのうちですね。

 あ、そうそう。題名の意味を。そのままですが、翼をかけろ!

あれです。鴉でよく使われる翼にかけてのノリです。適当です。ようは命懸けてますよ、みたいな。

 強化装置(デバイスとお読みください。ルビ面倒だった)の起動呪文、Flick!!とPromote!!はそれぞれ、空を飛ぶ、増強する(させる)という意味の英単語です。


では、次回で。

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