第捌話 山賊退治
「ちょっと待って! あたいが一番弟子だよ!」
「あっしが一番弟子でやんす!」
尭之助とありんは言いあっている。
その隙に山賊の一人が斬りかかってきた。
「うわおらー!」
尭之助とありんは左右に散った。
「とりあえず、今は置いておくでやんす!」
「よし、こいつらをやっつけたら今度こそきちんと決めよう!」
(口を動かしてないで体を動かせ!)
左右に別れた二人に五人の山賊は代わる代わる斬りかかる。
五人の山賊の腕には入れ墨でそれぞれ「大」「東」「亜」「帝」「國」と書いてある。
尭之助は刀をかわしながら、じっくり敵の動きを見ている。
ありんは両手に持った木刀を山賊の刀に当てながら受け流している。
(あいつら、俺が注意した点を守れてるじゃないか!)
「せい!」
尭之助が大の隙をつき木刀をひと振りした。
木刀は見事に腹に当たり、大は刀を落とし、その場にうずくまった。
その後、尭之助はすぐさま構えに戻る。
そこへさらに帝と國が襲いかかる。
「いくよ!」
ありんは右手と左手を交互に動かし、東と亜の刀を全て防ぐ。
東が肩で息をしている所を見逃さず、両手に持った木刀で攻撃をする。
右手の木刀を上から、左手の木刀を横から振る。
東が身をかわすと、待ってましたとばかりに刀を両手の木刀で挟みクルクルと何回転もした。
東は一回転目に刀を挟み取られ、二回転目に二本の木刀で二発右腕を打たれた。
三回転目には脛に二発当てられ、ついに東はその場に倒れ込んだ。
尭之助はさらに帝を倒し、ありんが亜を倒すと、残るは國だけとなった。
「今の所、2対2だね。残りの一人を倒した方が一番弟子ってことでどう?」
「わかったでやんす! あっしがもらうでやんす!」
二人がそんなやりとりをしていると、
「ピーーーーーーーーー!!!」
國は笛のようなものを大きな音で吹いた。
その音は山中に木霊した。
(なんだ?)
「夏風様! あやつは仲間を呼びました! たぶん頭領が来ると思います」
界厳はすっかり狼狽している。
「頭領? あいつらの親分か?」
「はい。山の蝿と書きまして山蝿という名前でございます」
「山にたかる蝿野郎ってことだな。山賊にぴったりな名前だ」
「山蝿はただならぬ奴。くれぐれも油断なさらぬ様、ご注意ください」
尭之助とありんは國を倒し、5人をまとめて縄で縛ると、能心と界厳の方へ駆け寄ってきた。
「今の見てたでやんすか? 倒したのはあっしでやんす!」
「なに言ってるんだよ! 止めをさしたのはあたいだよ! ねぇ師範?」
「すまん、話に夢中で見てなかった。それより、奴らの頭領が来るぞ!」
「頭領? あいつらの親分でやんすか?」
(お前は俺の複製品か!)
「おい、でめーら! 俺様を呼びだずなんて、いじだいじなんだろうな」
尭之助の数倍はありそうな……数倍は言い過ぎだが、尭之助より縦も横も遙かに大きい男が、大声を出しながら、十数名の山賊を従えて波後寺の庭へ入ってきた。
「ん? あぞごに縛られでるのば、うぢのもんじゃないが?」
巨大な男はそう言いながら、手に持った金棒で縛られた山賊たちを差した。
昔話の鬼が持つような鋲がいっぱい付いた金棒を、まるで指揮棒を使うように軽々と片手で振りかざした。
「界厳さん。あれが山の蝿、山蝿だな?」
「そ、そうでございます」
界厳は能心の後ろに隠れた。
「蝿の割にはでっかいな。あんたは中に入っていていいぞ。あいつは我々が必ず倒すから任せてくれ。それと……」
能心は袖口から薬袋を出すと、界厳に渡した。
「大事な薬だから界厳さんが持っててくれ」
薬を受け取ると界厳はそそくさと寺の中へ入った。
「さあどうする、お二人さん? あいつに勝った方が一番弟子ってことにするか?」
「あ、あたいはいいけど、先手はアキに譲るよ」
「あ、あっしが先手でやんすか? ありん殿が先に行ってくれでやんす」
妙な譲り合いが始まった。
「お前らは本当に仲がいいな。じゃあ、仲良しついでに二人は“その他大勢”をやっつけてくれ」
二人は全力で首を縦に振った。
「俺は、今日は蝉時雨を使わない。尭之助の木刀を一本借りるぞ」
「なんで蝉時雨を使わないんだよ!」
「頭痛がするんだよ! ありん、わかるだろ? なるべく殺生はしたくないんだ! 来たぞ! 尭之助! 早く木刀をよこせ!」
尭之助は木刀を能心に投げた。
木刀を受け取った能心の目は、正気を失っているかのごとく闇の色を帯びた。
「おい、ちょんまげ! おまえが? 俺様のだいじな手下をたおじだのば!」
「いや、あんな雑魚共、俺が相手にするわけがない。俺より数倍弱い俺の弟子が簡単にのしちまったぞ。尭之助! ありん! 雑魚は任せた!」
二人は再度左右に散り、“その他大勢”を次から次へと薙ぎ倒していく。
能心と山蝿は睨み合った。
金棒を片手に持った巨大男と、木刀を両手で構えた中肉中背男。
周りが騒がしいにも関わらず、睨み合った二人の間には静寂が漂っていた。