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血罪エスペランザ  作者: 鈴木一郎
序章.旅立ちの時
8/9

終.また会う日までさようなら

      終.


 朝焼けの眩しさに目を眩ませる。

 閑散とした大通りには欠伸を噛み殺す人がちらほらと見える。舗装された地面に打ち水をしている者や箒で掃除をしている者、等間隔で植えられた木々に水を与える者や、ベンチに座り込んでぼうと空を見上げる者。それぞれに何かの物語があるのだろうか。開放的な朝だと要らない想像を掻きたてられる。何故なら今日から自由の身なのだから。

 手続きを終えたサリエルはもう奴隷ではない。戸籍の身分に奴隷などと書かれる事無く、第二級市民と書かれている。

 国から発行されている身分証明書の札を見ると、微笑み、ぐっと伸びをして背嚢の中へ入れた。

 衣服は騎士団から支給された革製の装備。それと何かと怪しげな大鎌である。刀身には布を巻き付けてはいるが、遠目から見ても目立つ。あまり旅に即しているとは言えないが、どうしても手放す気にはなれなかった。

 その隣には浅葱色の髪をした美しい女性――リビエラが立っていた。

 絹で作られたワンピースを着て、その美貌を余すことなく晒している。並みの男なら見惚れてしまうのだろうが、サリエルは目を向ける事すらなく無表情を保っていた。


「本当に行くの?」

「お前は行かないのか? もう自由だろ……?」


 リビエラも既に奴隷では無い。町から出る事も普通の仕事をする事も保障された市民だ。

 それなのに頭を振ると、切なげに眼を細めて言う。


「ハンナ達を置いていけないから……」


 本人が納得しているのならサリエルの言う事は無かった。


「そっか。じゃあここでお別れだな」

「――何処に行くつもりなの?」

「さあ? 何処だろうな」


 肩を竦めて飄々と言い放つ。

 するとリビエラはサリエルの肩にもたれかかり、耳元の息を吹きかけた。


「私の事、嫌いなの?」

「――別に」


 一瞬硬直してからの返事の声音は震えていた。

 リビエラは肩にもたれたままくすくすと笑っている。

 悲しそうに。


「エルは困った時はいつもそうやって誤魔化すよね。けっこう傷つくんだから」

「そっか」

「うん」


 サリエルはリビエラから離れる為一歩前へ進み、後ろ手に腕を振った。


「――じゃあな」

「うん……」


 か細い受け答え。

 そして、向かう先。ヴェスペリアから出る為の門の前にクオーツがいた。


「別れは済んだの?」

「一応」

「そか」


 クオーツはにっと笑って首肯した。

 太陽に横顔を照らされ、如何にも健康な顔立ちがより可愛く見えた。


「――サリーは行く当てあるの?」


 サリエルの手続きが終わるまで何だかんだと一緒に過ごしてくれたのである。

 暇そうにしたり、演武という武術の型を見せてくれたり、大鎌を用いた戦闘術を一緒に考えてくれた相手である。

 そして、初めての友達。

 彼女からの言葉にふっと笑うと、肩を竦めた。


「さあ、わからないな。そもそも何処に何があるかもわかっていないんだ」


 クオーツはむっとすると、何か言い辛そうに口をもごもごと動かしている。

 続きを促す事はせず、サリエルはクオーツの言葉をじっと待った。


「なんか言いそびれてたんだけど、僕と一緒に行かない? せっかくの友達だし、まだ別れたくないよ」


 大通りを歩く馬車を引く馬が嘶いた。

 冷たい風が吹きぶるりと身体が震えた。

 告白に近い言葉を言ったせいで頬は赤らみ、尻尾は左右に揺れ、耳はぴこぴこと項垂れたり張り詰めたりと忙しい。

 だが、サリエルからすればクオーツの緊張した態度こそが理解できなかった。


「もとよりその心算だったが。シャンパールだっけ。美味しい物には俺も興味があるし、食べてみたい」


 何故ならクオーツについていく事はサリエルの中では既に決定事項だったのだから。

 それじゃあ! と喜ぶクオーツだったが、サリエルが含み笑いをして茶化すように言う。


「守ってくれよ。案内をしてくれよ。あの時の約束はまだ続いてるんだろ?」

「やはは、そんな事も言ったね。でもドラゴンに立ち向かうような人を守る必要があるのかなあ?」

「あるよ。だって俺は弱いし、一人じゃ旅の目的地も決められない」


 何度か組み手をしたのだが、サリエルは武器を使ってもクオーツに勝つ事はできなかった。

 ドラゴンと対峙した時の不思議な感覚は消え失せ、どうやって防具を取り出したのか、紫炎を纏う事が出来たのかさっぱりわからない。


「頼りにしてるぜ、クオ」


 人生初だった。誰かに甘えようと思ったのは。

 クオーツはくすくすと笑っていた。笑い過ぎて目尻から涙が零れている。

 何がそこまで面白いのかサリエルは不思議に思うが、クオーツは本当に楽しそうだ。


「やはは、初めて名前を呼んでくれたね」

「そうだっけ?」

「うん。そうだよ」


 覚えていない。けれど、自分が人を名で呼ぶのは本当に珍しい事だから、そうなのかもしれない。

 それを思うとサリエルも同様に笑いだし、静かな朝に二人の笑い声が響き渡る。

 よほど大きな声だったのだろう。何事かと大通りにいる人たちはこちらを見て、終いには立ち並ぶ家々の窓が開かれ、鬱陶しそうにこちらを見るものも現れた。

 二人はお互いに目を合わせて苦笑すると、こほんと咳払いをする。


「よし、行こう。シャンパールへ!」


 腕を空に向かって突き上げて、走り出した。

 二人の旅はここに始まったのである。






作者の都合で全編改稿しました。


前の話は「主人公とヒロイン」の出会いだけを焦点にして書いたプロローグだったのですが、某所で「膨らませて一話にした方がいいんじゃね?」というアドバイスを受けて急遽書き換える事に。


ハンナやリビエラの掘り下げ、最初の死刑のシーンを活かした物語の展開を上手くできなくてやや不満な出来ですが、これが今のところの私の精一杯です。


もしこの作品が読者様である貴方の退屈しのぎに少しでも役立てたのなら幸いです。



あ、あともしよければでいいのですが。

当方一つのエピソードが完結する毎に一気に投下しようと思っていたのですが、1話や2話出来上がるたびに投稿した方が良いんでしょうか?

判断に困ってます。

よければ意見ください



後、改稿だけではあれなので今日の夜10時に新しい話を投稿させていただきます。

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