偽りと、欲しいもの
「会いたい」
そう呟き、
「嫌いよ、大嫌い」
と微笑む君。
君は一体、何を思っているんだ。僕はこんなにも君を愛しいと感じるのに。
「夕陽が見たいわ」
そう窓を眺める君を連れ出すと、海に行きたいと言う。
「さよなら」
薄っすらと笑う君は、寂しげでどこか嬉しそうで。
どうしたのかと尋ねる僕に、馬鹿ね、と微笑みかけ海の中へと向かった。
「待てよ!」
状況が呑み込めず慌てる僕の方を、振り向かない。
ちゃぽ ちゃぽ
どんどんと歩いて行く君を、砂に足を取られながら追い掛ける。
赤い夕陽が、君と僕を照らす――。
「あははっ」
突然君が、弾けたように笑う。
こんなに声を出して笑う君なんて見たことがない。一体、何があったんだ…。
「まだわからないの?馬鹿ね」
にこっと微笑む。いつもと違う…。
「ばか、バーカ。馬鹿」
ふふふ、と足元で水を軽く蹴りながら笑う君。楽しそうで、儚げで……。
ふと辺りが暗くなる。
二人を照らすのは灯台の微かな光だけ。君の白く透き通る肌が見えなくなる。
ただ呆然と立ち尽くす僕をちらっと見て、
「ねえ…本当にまだわからないの。貴方そんなに鈍かったかしら」
僕を試すような、きらきらした瞳。真っ直ぐで、強い意思が宿っている瞳。
「教えて欲しい?」
くすっと笑い、しゃがんで水をすくっては風に流す。
知りたい――今、君が何を考えているのか。
「貴方が、私に望んでいるのは何かってこと」
僕が君に…?何も望んではいないさ。君がそこに存在していれば良いんだ。
「ふぅん、嘘吐き。貴方は欲しがり屋さんなのに」
欲しがり屋?
俺が?
何も欲しがってはいない。
だから君のしたいことを叶えているんだ。
「ほら、やっぱり欲しいんだわ」
いつの間にか、君の顔はいつもの微笑みを浮かべていた。
瞳には…周りが暗いからか、何の表情も浮かんではいない。
「貴方には、私が必要なの。でもその理由は私の為じゃないでしょ。貴方自身の為よ」
……。
「貴方は、優しい自分が欲しいの。相手を思いやり、誠意のある自分。私を利用して…ね」
そんなことは…。
「そんなことないって、自信を持って言える?」
そんなことは、ない……。
「最後まで、そうなんだわ。さよなら、優しい優しい貴方」
行かないでくれ…。
去って行く君に何も言えない。愛しているんだ。こんなにも愛しているのに…。
愛して……いた筈なのに。
久々の短編です。連載の合間にちょくちょく短編も投稿させて頂きます。連載だといつの間にか長くなってしまうので、コンパクトになる短編も大好きです。評価やアドバイス、お待ちしています。読んでくださって有り難うございました。