坊ちゃんの初恋
僕はおぼっちゃまである。生粋のボンボン。
これは僕が恋をした物語である。
今日は2徹目の昼、ご飯屋を探していた。歩き疲れていて立ち食いそばなどは論外だった。最も僕はボンボンなので庶民な店には行かないが。
すぐお店に入ろうとすると都心という土地柄、人で埋まっていた。予約していないのだから、僕の落ち度である。
そこから車に乗って移動する気も起きなかったので、チェーンのコーヒー屋に行った。普段はチェーンのカフェには行かないが、自分の地域には無いカフェで気になっていたのだ。
入店した頃にはもうお腹が好きすぎて死にそうだったし、気が立っていた。早く飯が食いたい。
初めて入る店だ。ちゃんとフードは選びたい。もう死にそうなほどお腹は空いているのに、すごく食い意地が張っているんだろうか。
「次のお客様どうぞー」
上からふわりと声が降ってきた。見上げると、にこっと微笑む二重の目と合った。女の子らしい女の子だった。見た目は同い年くらいの20前後に見えた。
お腹の空いた時のなんとも言えない渇きが潤されていくようだった。
都心の店でこんなに愛想の良い接客に合ったのはいつぶりだろう。都心はみんな心が疲れていて、ぶっきらぼうな接客が多いと思っていた。この子はどうして擦れずにこんなに明るく接客できるんだろう?
フードで迷ってらっしゃいます?と言いながら彼女がととと、っとカウンターから出てくる。
そうなんですよ、と苦笑しながら僕は言った。
「死にそうなほどお腹が空いたなら、君は何を選びますか?」
んーそうですねえ、と言いながら彼女は目を瞑る。思いを巡らせているようだ。食に関心が強い子なんだろうか。
「わたしだったらこのベーグルにしますよ。クリームチーズが絶品なんです」
「ではそれを一ついただくよ」
「はい、ドリンクはどうされますか?」
「ホットコーヒーで」
「かしこまりました」
営業スマイルなんだろうが、むけてくれる笑顔が可愛い。疲れが少し溶けているような気がする。
「おつりはいらないから、好きなものを飲んでください。これは差し入れだとでも思って」
お会計で現金を少し多めに渡した。
彼女が途端に慌てる。
「受け取れません、お客様」
「君に癒されたから、少しお返しさせてほしいと思ったんです。ダメでしたか?」
上目遣いをしてみる。どうか受け取ってくれないだろうか。
少し困った顔をしてから照れながら、ありがたく頂戴します、と言って受け取ってくれた。
商品を受け取って店内で食べていた。温かいベーグルを噛み締めた。美味しい。
店内も客層が良いせいか落ち着いていて居心地が良い。
ホットコーヒーを飲みながら彼女を目で探した。けれど奥に引っ込んだのか、いなかった。
食器を返却しようとした時、後ろから声をかけられる。
「お客様、恐れ入ります。食器はそのままで結構です」
さっきの彼女だった。
「おすすめしてくれたベーグル、美味しかったです。ご馳走様です」
「よかったです!! ありがとうございます!」
元気に言ったかと思えば、急に小声になって照れたようにさっきの差し入れもありがとうございました、と彼女が言った。
とても可愛い。小リスみたいだ。
「また来るね」
僕はあたたかい気持ちで店をでた。
近いうちにまた来るだろう。
木漏れ日からやわらかい日差しが降り注ぐ中を歩いて帰った。




