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「少し整理しても良いですか?」
颯はあまりの乱雑さにやはり我慢ができなくなり、余計なお世話かとも思ったが言い出さずにはいられなかった。
「好きにして」
ここの主は興味なさそうに返事を返してくる。大事な書類とか守秘義務とかコンプライアンスを気にする風はまったく無い。無くなって困る書類とか本当にないのだろうかと颯の方が心配になった。
「そうだ、場所は変えないでね。僕は一応何をどこに置いたかは全部覚えてるから」
場所を変えないでどう整理しろと言うのかと颯は一瞬悩むが、了承を得たことにして好きにさせて貰うことにする。そうでないと颯の座る場所も無く、このままでは落ち着いてじっくり家を探すなど到底無理だ。
颯は書類の一つ一つにクリーン魔法をかけながら取り敢えず分類していく。本当ならファイリングしたいが必要な文具が何もない。颯は分類を続けながら悩んだ末にリングファイルを手製する事にした。
羊皮紙だろうが巻紙だろうが内容種類別にファイリングできるリングファイルがあればとても便利だしきっと綺麗に整理整頓できるだろう。
一通り不動産に関する書類の分類を済ませた颯は今日は取り敢えず帰ることにする。
「すみません一度帰ってまた出直します」
「はいはい」
相変わらず気のない適当な返事を受けながら、颯は既にどうやってリングファイルを作ろうかという考えに没頭していた。
(やっぱり側は木で作るしかないよな。皮じゃ強度がないから立てられないし。となるとリング部分はどうすれば良いんだ…)
《颯様、歩きながら考えるのは少々危険かと思われます》
(あっ、そうか紙のサイズも色々だし羊皮紙と巻紙でも違うからなぁ…)
バシン!!
「痛っ! 何すんだよ」
《歩きながらの考え事は危険です》
王都は本当に人が多く気を抜いて歩いていたら簡単に人にぶつかってしまう。ナビはその危険を察知し注意してくれたのだろう。
《…悪い。つい夢中になってた。注意してくれてありがとうな》
《どういたしまして》
しかし颯は久しぶりに湧いた創作意欲に、ナビに注意されながらもやっぱりそう簡単に考えるのをやめることはできなかった。
第一今やめたら中途半端になってしまいそうなのが嫌だった。折角思いつきそうなアイデアもどこかへ飛んでしまいそうだ。
(木材にリングを固定させる接着剤なんて手に入らないだろうしな…。その前にリングなんてないだろうしやっぱり作るしかないよな。鍛冶屋に頼んで簡単に作ってくれるものか…)
ガクン!
突然の衝撃に颯が我に返ると肩に掛けていたバッグを引ったくられていた。
「あっ」
《…》
別に肩に掛けていたバックは見せかけのバッグなので中にはたいしたものは入っていない。だが、奪われた物を諦め盗賊を放置することは今の颯にはできなかった。盗賊討伐が体に染みついてしまったみたいだ。
颯は全速力でバッグを奪った盗賊を追いかけながら一反木綿グルグル巻き魔法を放つ。
全身を突然拘束され身動きが取れなくなった盗賊は走っていた勢いのままその場で派手に顔から転ぶ。
颯が盗賊に追いつくと何ともまだ年若い少年だった。だからといって颯は容赦する気も同情する気もない。現行犯で捕まえてしまったのだ。
「人から奪うのを覚えると人間努力しなくなるんだよ。僕が嫌でも自分の手で稼げる方法を教えるから覚悟して」
颯は少年をそのまま警備兵に突き出すのではなくダンジョンへ連れて行くことにした。ダンジョンで魔物を倒し実際に現金を手に入れればこれからは人を襲うことはなくなると信じたい気持ちで。
《ナビ、ここから一番近いダンジョンを教えて》
《…》
ナビの返事がないことに颯はナビが腹を立てているのだと察知した。ナビは盗賊討伐が趣味だったはずなのになぜ腹を立てているのか疑問ではある。しかし考えている暇はないのでとにかく謝るしかない。
《ナビの注意を無視して悪かった。頼むよコイツをこのままにはしておけないだろう》
《颯様が隙を見せるからこの子に犯罪を犯させてしまったのです》
どうやらナビはこの少年に同情しているようだった。
《それは違うぞナビ。コイツは俺がダメだったら他のヤツを襲ってた。寧ろ俺を襲ったことで別の生き方を知ることができる。コイツにしたら良かったかもしれないぞ》
もっともそれを実行し改心するかどうかまでは颯に判断できないが、少なくとも手遅れではないと信じたかった。少年のこの先の人生はまだまだ長い。できるなら犯罪者の道をこのまま歩んで欲しくはない。
《仕方ありませんね》
ナビも納得してくれたのか素直に王都から一番近いダンジョンの場所を教えてくれる。
颯はジタバタする少年を無視して強引に引きずるようにしてダンジョンへと着いて驚いた。
王都の中に他の街にあったような冒険者が野宿できる広場が無いと思ったら、ダンジョンの周りが仮設の小屋とでもいうか小さな掘っ立て小屋の山でまるでスラム街のようだった。多分ここに長く定住しダンジョンに入っている冒険者が多いのだろう。
《これはまた…》
なんだか縄張りだとか派閥だとか颯には理解できない面倒くさいルールが色々ありそうだと、颯は思わず深い溜息を吐くのだった。




