67
日本のように不動産を専門にする業者はこの世界にはないらしく、日本で言うところの法律にも明るい公証人のような人が家の賃貸や売買も請け負っているそうだ。
颯はユージーンが探してくれると言うのをやっぱり断り、紹介状だけを書いて貰って自分で家探しをすることにした。
忙しいユージーンの手を煩わせてもいられないし、また今のユージーンに家を決めさせたら大変なことになる予感しかなかったからだ。それこそドットのように豪邸が当たり前なんて言われたら溜まったものじゃない。
颯の望みとしては自分で管理しやすい日本にいた頃のような普通の間取りで十分だ。それに狭い方が落ち着くし静かな所の方が好みだ。
何にしても颯は急いではいないので気に入る家が見つかるまでのんびり探すつもりだった。それに宿に泊り放題だしね。
《簡単に済みましたね》
冒険者ギルド本部を出るとナビが突然話しかけてくる。しかし颯はナビが何を言い出したのかまったく分からなかった。
しかしよくよく考えてみれば、王都に来るまでになんだかんだとナビと言い合ったことを思い出し少し恥ずかしくなる。
《案ずるより産むが易しってやつだったな》
《何を言っているのか理解不能です》
《思い悩んでいるより実行しろって意味だよ。身をもって実感したからもうそこには触れてくれるな、自分でも恥ずかしい》
《理解しました》
颯はマップウインドウを開きユージーンから紹介された店を探す。
王都には本当に店の数が多く、店舗を持つ店だけでなく露店も含めるとそのすべてを覗いて歩くのには相当時間が掛かると思えた。
颯がまだ出会ったことの無い美味しいものを探すのも容易ではなさそうだ。
《今は家を探すのを優先しているのですよね》
まるで颯の心の中を見透かしたかのようにナビが確認をしてくる。
《分かってるって。楽しみはあとにするよ》
颯はナビに急かされるようにして店を探し当てると、そこは店と言うよりオフィスといった感じだった。颯はさっそく四階建ての古びた役所を思わせる建物二階の一室のドアをノックする。
「どうぞ」
相手の返事を確認してからドアを開けて颯は驚いた。そう狭くもないはずの部屋の中がこれでもかという書類や物で雑然と溢れ、いくつかある机の上にも乱雑に書類が山積みされている。所謂足の踏み場もない状態だ。汚部屋とか腐界と呼ぶに相応しい感じ。
潔癖症と言うほどでもない颯でもさすがに店舗がこれでいいのかと唖然とし、その我慢できない散らかりように本当にここで大丈夫なのかと不安になる。
「すみません家を紹介して欲しくて来たのですが」
相手の姿が見えないが部屋の中に入れずに、開けたドアの前から声を掛ける。
「家ねぇ、買うの借りるのどっち?」
「紹介状を持っているので先に渡したいのですが」
「誰の?」
「冒険者ギルドのユージーンさんです」
「あぁ、彼か。仕方ない今そっちに行くから待ってて」
どうやらユージーンの紹介状がなかったらここの主は顔を見せる気もなかったようだ。
声の主は部屋の奥から姿を見せると、乱雑な部屋の中を実に器用にスキップするように足の踏み場を探し颯の前にたどり着いた。
「で?」
普通に高級そうな服をきちんと着こなし一見するとできる営業マン風の男は颯に向かって手を差し出す。
颯はこの乱雑な部屋と男とのギャップに呆けてしまい、何で手を出されたのかが理解できなかった。
《颯様、彼は紹介状を要求しているようです》
《ああそっか》
颯は慌ててユージーンが持たせてくれた紹介状をバッグから取りだし男の手の上に乗せると、男は無造作にそれを開きサクッと読み流してそのまま放り投げた。
「どんな家を探してるの?」
「そう大きくなくて静かな所にある家が良いのですが」
「難しいね。あの辺から自分で探して」
営業マン風の男は無表情で部屋の一角を指差して言う。
「えっと…」
「あの辺の書類全部家に関する物だから。自分で納得のいくのを見つけてよ。それから見に行った方が早いでしょう。気に入ったのが見つからなかったら諦めて」
颯は男の何ともやる気のない対応にこれがこの世界の普通なのかと戸惑ってしまう。
しかし考えてみればまったくもって男の言うとおりだと思い直し、颯は男が指差した乱雑に積まれた書類の山へと向かうのだった。




