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驚いたことにあれほど溜め込んでいた魔石をユージーンは本当に全部買い取ってくれた。ホントびっくりだ。
この冒険者ギルド本部はギルドをまとめるための施設で、一般の冒険者ギルドとは形態も業務内容もまったく違うそうだ。
なので一介の冒険者風情がフロントを訪ねることはなく、颯が受付の紳士に怪訝そうにされたのも仕方のないことだったらしい。それを知っても颯の情報が伝わっていたのならさっさと察して欲しかったとは思ってしまう。
そして颯はどうしてこれほどの魔石を溜め込むことになったかの説明を求められ、ダンジョン下層がモンスターハウス化している事から始め、一度一掃させると正常化することを教えた。
「それで他の地ではここのところ下層に挑む冒険者が増えたのですね。最近では踏破間近だという噂も入ってきています」
「そうなんですか?」
勿論ユージーンも既に颯が入ったダンジョンの悉くをすべて踏破していることは重々承知だ。その上で他の冒険者の活躍を喜んでいるのだろう。
「何を暢気に、それもこれもハヤテ君の実績です。ハヤテ君がいてくれたから可能になったのですよ。もう少し誇っても良いと思います」
「でも実際僕が何をしようと下層を目指す冒険者がいなければそこで終わってた話です。だからけして僕だけの実績ではありません」
颯は謙遜でもなんでもなく本心でそう思っていた。それに別に誰かに褒められたくてやったのではなく、自分の趣味と実益を兼ねた行動でしかなかったのだから。
「ハヤテ君らしいと言えばらしいですね。そこでその話を聞いた上で新たにお願いがあるのですがよろしいですか?」
颯はもう既にユージーンとの約束を果たし用を済ませた気分でいたので少し警戒し返事に困る。いったい何を言い出されるのかと。
「えっと、内容によります」
「この王都近郊のダンジョンをすべて正常化してくれませんか。恥ずかしいことにやはり下層に入れる冒険者がまだ現れていません。僕の部下が入り口付近で戦えるのがせいぜいでして」
「それでも下層に挑んでいるのは凄いです」
「それもこれも上質な魔石を手に入れるためですよ。ハヤテ君が手に入れてくれなかったらもっと無理をさせていたでしょう」
やはりクズ魔石では十分な研究をするのは難しいらしい。初めのうちはそれでも頑張っていたらしいが一度上質な魔石で研究を始めるとその違いは段違いなので、もう既に魔石研究には魔石が上質であればあるほど良いという風習ができているらしい。
それというのも魔石に品質の差があることをやはり颯が手に入れグランが持ち込んだ魔石で教えてしまったのが原因だと聞かされれば颯は何も反論できなかった。
当時の颯は何も考えず、手に入れた魔石はすべてグランに預け処理を頼んでいた。まさかその陰で色んな問題が起こっていたなど考えもしなかった。
「分かりました。僕もちょうどダンジョンを攻略したいと考えていたんです」
「しかしですね、無理はいけませんよ。ですからギルド本部の宿舎に入ってください。そして私の部下達同様無理のない範囲で行動してください」
「えっと…」
颯は宿舎と聞いてとても悩む。この王都に泊まれるところができるのは正直ありがたいが、宿舎とは社宅的な個人の部屋なのか、それとも下宿的共同生活部分が大きいのかで颯の居心地が変わる。
今さら誰かに気を遣いながら生活するのは正直面倒くさい。それに考えてみたら社宅的な個人の部屋だったとしてもご近所さんが全員ユージーンの部下だったなんてことになったら集団生活みたいなものだ。人間関係も色々と面倒になるだろう。
「何か不都合でも?」
「不都合と言うより僕は集団生活に慣れてません。できれば自分のペースで行動したいです」
「あぁそう言えばハヤテ君のことは秘密にするのでしたね。いきなり宿舎に入れたのでは騒ぎになるだけでした。普通はみんな喜ぶもので私としたことがうっかりしてしまいすみません」
「我が儘言って本当にすみません」
「いえいえ、それではどうしましょう。…そうですね。私の方で急ぎ家を用意しますからそこを使ってください」
「えっ、そんな、そこまでしていただかなくても」
「そうしないと私がグランに叱られます。本当なら私の家にお連れしたいのですが、私の家は宿舎以上に騒がしく気が抜けないので残念です」
ユージーンは出世したこともありちょっとした貴族に婿入りしたらしい。まだ舅姑が健在で実権を握っているので邸では肩身が狭いそう。しかしそれがあってある程度自由にできているのでユージーン的には満足しているようだ。
「取り敢えず家が決まるまでは宿に泊ってください。勿論費用はこちらで持ちますので是非お願いしますね」
「それじゃぁ僕は家が決まるまでは自由にさせて貰って良いですか?」
「ええ、構いませんよ。王都を心ゆくまで楽しんでください」
颯はユージーンの言葉に既に王都散策が楽しみすぎて頬が緩むのを止められなかった。




