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「私がハヤテ君にお願いしたいのは二つです。まず魔導具に関してのアイデアが欲しい。そして次に上質な魔石の入手です」
「本当にアイデアだけで良いんですか?」
上質の魔石なら異空間収納にまだまだかなり溜め込んでいるので問題ない。なので問題があるとすれば魔導具に関してだ。
しかし開発に携われと言うのでなく本当にアイデアだけで良いのなら多分いくらでも出せる。颯が使って便利だった家電商品を教えれば良いのだろうから。
「ええ、ハヤテ君に無理をさせようなどと考えてはいません。そんなことをしたら私がグランに叱られてしまいます。それに旅立ったハヤテ君の様子を見て欲しいと言うのがグランの本音でしょうからグラン的には既に望みは叶ってますね」
颯はグランがいまだにそんなに心配してくれているのだと思うと急に申し訳なくなる。手紙を書くと言いながら本当に全然書いていない。
きっとユージーンの言うところの情報を頼りにヤキモキさせているのかと思うとなんだか親不孝でもしている気分で、これは近いうちに一度帰って元気な姿を見せなくてはいけないと反省する颯だった。
「じゃあやっぱりそんなに急ぐ必要もなかったんですね。少し安心しました」
颯はユージーンを半年も待たせた後ろめたさを払拭させ表情を明るくする。
「とんでもありません。これ以上待たされるようなら本当に手配所を回し無理にでも来ていただくところだったんですよ」
「でも僕の役目はそうたいしたものじゃないのでは?」
「それがそうでもないのです」
ユージーンがそこから語った話は実に驚くものだった。
魔法を自分達だけのものとし秘匿していた貴族達が一般に魔法を広めだしたギルドに抗議をしたが勿論ギルドが聞き入れることは無く、しばらくの間ユージーンは命を狙われていたらしい。
「お陰で私は随分と自分の命を守る魔法に長けてしまいました」
そう言って笑うユージーンに颯はもはや呆れるしかなかった。自分の命を守る魔法って言うのはどうも結界魔法のようで、回復魔法も使えるようになっているユージーンは今や聖者と呼んでいいのではないかと思う。
そしてその後、魔石は女神様が新たに授けてくれた資源だと説き、魔石を使った魔導具の開発を提唱し始めると、魔法の継承しかして来なかった貴族が今度は魔導具開発にいち早く手を上げた。長く魔法に携わり継承してきた自分達こそが魔導具開発に相応しい人材だと。
しかし実際に始めてみればいまだに何の実績を上げることもできず、最近では魔石の質に文句を付けるようになり、さすがにユージーンも静観していることができなくなったそうだ。
「自分達で魔石の一つも手に入れられないくせに偉そうに文句だけは付けるんですよ。本当に腹が立ちますよね。まぁその分値を吹っ掛けてむしり取ってますけど気持ちは収まりませんね。そんな時にハヤテ君が上質の魔石を随分集めてくれたので本当に助かりました」
「ハハハ…」
悔しそうに話すユージーンに颯は何も言えずただ笑って流すしかなかった。
「そこでですね、私達も魔導具の開発を始めようと言う話になったんです」
「私達って冒険者ギルドがってことですか?」
「そうです。初めに話を国王に持ち込んでしまったのがそもそもの間違いだったのです。だからあんな能なし貴族達に大きい顔をされなくちゃならなくなってしまい本当に後悔しています。ですからここらで一発かましてやろうかと」
「ゲフンゴホン…」
ユージーンらしからぬ言葉を聞いて颯は思わず口に含んでいた紅茶でむせてしまう。
「幸いなことに私にはとても優秀な部下も増えましたし、今なら能なし貴族達の鼻を明かすくらいのことは何でもないですからね」
「……」
「それでですね。さっそくなのですがハヤテ君ならどんな魔導具を考えるかと思いましてね。是非意見をいただけないかとこうして待っていたのですよ」
「アイデアだけで良いなら出せますよ。でも本当にそれだけで良いのですか?」
「きっと魔導具も魔法と同じです。イメージが大事なんですよ。どんなものを作りたいかどんなものができあがるのかそのイメージがはっきりしていないとまず成功はないと私は考えています。そこでハヤテ君なら私達が考えも付かないアイデアで素敵な未来を見せてくれると私は考えています」
熱く語るユージーンに颯は十分に納得し、さっそくまず一番に開発して欲しい魔導具のアイデアを伝える。
「氷が作れる魔導具は是非開発して欲しいです」
「氷ですか」
「はい。私がしばらくお世話になった漁師街で感じたのですが、魚の鮮度を保つためには絶対に氷が必要です。本当なら魚を凍らせることができればそれに越したことはないのですが、氷の便利さはそれだけではないですからね」
颯は製氷機の必要性を訴えた。そして実際に小さな氷を目の前で作って見せ、残っていた紅茶のカップにそれを入れる。
「このように飲み物を冷やすこともできて本当に便利なのですよ。きっと冷やして飲んだ方が美味しい飲み物は多いと思います」
「なるほどなるほど」
「それに氷が作れるようになればきっと冷蔵庫を作るのも簡単じゃないかと思うんです」
「冷蔵庫ですか?」
「食品の鮮度を保つための棚とでも言いましょうか。食品を少し長く保存できるようになります」
「それはまた素晴らしい!」
颯はなんとも聞き出し上手なユージーンに乗せられ少しいい気になって、あれこれとアイデアとして家電商品の数々を紹介していった。本当に話をするだけの簡単なお仕事です。
そしていい加減アイデアを出し尽くし、少し疲れを感じた颯は思いだしたように魔石の話を出す。
「そう言えば魔石も必要だと言ってましたよね。僕ちょうど魔石を買い取って欲しかったんです。お願いできますか?」
「ええ、勿論です!」
「それじゃぁどこへ行けば?」
「ここに出してくれて構いませんよ。ハヤテ君が持ち込んだことは内密にしますのでご安心を」
颯は深く考えずに平然と話すユージーンに途端に悪戯心が働いた。
「本当に全部出して良いのですか?」
「ええ」
「それではこれをお願いします」
颯は異空間収納に溜め込んでいた魔石を次々と遠慮なく出していく。
そして颯が異空間収納から出した魔石に目を丸くし呆けているユージーンの姿を確認し、取り出すのを一度やめる。
「こ、こ、これほどとは…」
「まだまだありますがどうします?」
一度はやってみたかったお約束をここで実行できた颯は心から満足し、なんだかとても楽しくなるのだった。




