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「ぉおおぉぉ~」
颯は地平線上に見え始めた王都の姿にちょっと感動していた。
山岳地帯を遙か後ろの背景にして、丘陵の一番高い場所には大きな城がやたらと存在感を放っている。
そしてその城を中心に日本だったなら消防法や建ぺい率で色々問題になりそうなほどに建物が密集していて、今まで颯がこの異世界で訪ね歩いたどの街よりも広く大きく人口密度も凄そうだった。
颯は以前世話になっていたグランの住む街や漁師町がいったいいくつ入るのかと、東京ドームいくつ分方式の感覚で王都を眺めていた。見た感じ軽く十個以上入りそうだ。
「どこを訪ねるのか分かっているのですよね」
折角あれこれと期待を持った幻想を抱え想像を楽しもうとしていたのにナビに現実に引き戻され、余程急いでいるのかと思ってしまう。それとも何かイライラさせることでもしたかと少し不安にもなる。
「冒険者ギルド本部だな」
「それでは急ぎましょう」
やはりナビは急いでいるようだ。颯が公衆浴場や商店街を楽しみたいと言い出す前にさっさと連れて行きたいのだろう。そりゃぁもう素直に従うけどね。
ユージーンに王都に向かうと手紙を出して半年。自分でもさすがに時間が掛かりすぎているという自覚はある。だからここまで来て今さらウダウダと引き延ばす気はない。
颯は王都の外側に広がる麦畑の中を通る街道を歩きながら、さすがに畑の規模も街道の整備も他とは全然違うと感心していた。というか街道を歩くなど殆ど初めてなので感動していたが正しいかもしれない。
荷馬車が優に二台はすれ違える広さ。馬車がガタガタと揺れないように堅く整地され轍のまったく無い道が、絶えず整備されていることを窺わせている。さすが王都だ。きっと専門の仕事がちゃんとあるのだろう。
それに街道を行く馬車や荷馬車の数も多く、颯のように歩いている人もかなりいて、颯は既に人口の多さを実感して少しドキドキしていた。
日本ではこの程度のこと普通だったのに、というか寧ろもっとずっと多かったのに、なぜか凄く多いと感じて少しビビっていた。初めて東京へ出た時のようなワクワク感などまったく無く。
《ここからは念話にします》
ナビからの合図に颯も気持ちを引き締める。最近はあまり気にせずに過ごしていたのでナビに言われなければついうっかりしてしていただろう。
《いつもありがとう。本当に助かる》
颯は見た目は一人だけれど独りじゃないと思わせてくれるナビの存在に本当に助けられていた。色んなサポート能力だけで無く精神面でもだ。やはり話せる相手がいるだけで全然違うと十分に実感している。
《私の役目ですからお気遣い無く》
《そこはどういたしましてが正解だぞ。そしたら俺が本当に感謝していると話を続けるだろう。そしたら次はナビが本当ですか、例えばと返して》
《話を続けたいのですか》
《いや、なんとなく会話でもして気分を紛らわしたかったのかな》
話でもしていないと王都の雰囲気に飲まれてしまいそうな気がしていた。
《颯様なら大丈夫です》
ナビの何とも崇拝的で曖昧な言葉に颯は少しイラッとしてしまう。今ここで大丈夫と言われても何の真実味も感じられない。
《何がどう大丈夫なのか分かって言ってるのか?》
《颯様の順応力の高さを私はよく知ってます。それに元々他人を気にすることも左右されることも少なかったと思います》
颯は反撃したつもりだったのに、ナビの言葉に本来の自分をはっきりと自覚させられた気分だった。
モブ人生が長くずっと目立つことを避けてきたのに、ダンジョン攻略や盗賊討伐をしていたことでこの世界の主人公にでもなった気になっていたのかもしれない。
だから王都に来て、もしかしたら自分を中心に何かが動くようなそんなことを考えてビビっていたのだ。とても大きな責任を背負わされるのではないか、失敗はできないのではないかと。
ナビはそんな颯に颯は颯でしか無いと思い出させてくれた。それ以上でもそれ以下でもなくこれからも自分を貫けば良いのだと。たとえ颯の何かが変わったとしてもそれすらも自分なのだと。
《そうだった。この世界で人生をやり直すつもりで楽しむと決めたんだった。これからも俺がしたいことをしたいようにすれば良いんだよな》
《手助けはお任せください》
この先何が起ころうと別に嫌だったら逃げても良いし、無理だったら断れば良い。自分が楽しいと感じることに夢中になれば良いのだと颯は改めて心を決める。それに幸いなことにお金には不自由していない。
現金で言ったらこの世界で残された時間を多分遊んで暮らすのも可能だし、異空間収納にある魔石を全部売り払ったらもしかしたら小さな街を一つ買えるのではと言うくらいの数の魔石を保有している。
お金があるというのは心にゆとりを与えてくれるし色々と選択肢も増やしてくれていた。
颯は心が決まるとビビっていた気持ちはどこかへと吹き飛び、足取りも軽く王都の街中へと足を踏み入れるのだった。




