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颯は王都の方向にあるダンジョンを漏れなく攻略していった。
幸いなことにゴブリンダンジョンだけではなく、他にもオークダンジョンやオーガダンジョンといったメジャーなモンスターダンジョンの他に、虫系モンスターダンジョンや爬虫類系モンスターダンジョンと実に色々だったのが颯に妙なやる気を起こさせた。他にはどんなダンジョンがあるのかと。
またどこのダンジョンのダンジョンマスターもそのダンジョンのモンスターを進化させたような人型のモンスターだったのも面白かった。ゴブリンダンジョンのダンジョンマスター以来会話はしてはいないけれどみんな喋っていたし。
が、まだ颯はスライムを見かけていない。そう一番メジャーなモンスターにまだ出会えていないのだ。それにスライムダンジョンのダンジョンマスターは絶対に気になる。
だからついダンジョンがあると思うと確かめたい衝動に駆られ、行かないという選択肢は取れなかった。
なので少々王都から離れようが方向が多少ズレようが、王都方向だと自分を納得させてダンジョン攻略に突き進んだ。
そして気付けば漁師町を出てから既に五ヶ月以上を経過していた。
「颯様、やはりこれ以上待たせるのはいかがなものでしょう」
最近は護衛と言うよりとても優秀な秘書的存在になりつつあるナビが颯に進言する。
「分かってるって。自分でも気にはなってるんだよ」
やはりいつまでに行くと明言していないとはいえ、さすがに待たせ過ぎだろうと思ってはいたので、だいぶ後ろめたい気持ちを抱いてはいた。
「この際さっさと要件を済ませてしまってはいかがですか」
「そんなにさっさと済ませられる要件だと思うか?」
「できないことはできないのです。逃げるのではなくできないときっぱりと断ればいいのです」
「逃げるって…」
確かに魔導具の開発なんて颯にできるとは思ってもいない。そっちの方の知識にはまったく明るくない。だから逃げていると言われるとまったくその通りだ。
しかし冷凍冷蔵技術の進歩は本当に願っているので手助けはしたいと思っているからできないと開き直れずにいるのだ。
「違うのですか?」
「違わない。違わないけど…。そうだな。さっさと済ませて次の目的を決めるか」
このまま世界中のダンジョンを巡りながら温泉を探したり美味しいものを見つける旅も面白そうだし、アイテムリストと魔物図鑑を諦めてどこかの街でまたのんびりまったりするのも悪くない。そのためにも約束したことはさっさと済ませてしまうに限ると颯は漸く腹が決まる。
そうして颯は遠ざかりつつあった王都に再度向かい始めた。
「なんにしても魔石の処分はしたいからできるだけ街に寄るルートで頼むな」
颯の異空間収納には溢れかえるほどの魔石が溜まっていた。溢れることはないけれど、さすがにこの量は王都でも一度には買い取って貰えないと普通に判断できる。
何しろ一般の街で一度に買い取って貰える魔石の量を遙かに超えて毎回毎回手に入れているのだから増える一方だ。
「魔石を買い取って貰えそうな街ルートですね」
「いつも悪いな。助かるよ」
しかし颯はあとでナビに礼を言ったことを少し後悔する。なにしろナビが選択した魔石を買い取って貰えそうな街には漏れなく盗賊討伐が付いてきたからで、少し大きな街には必ず盗賊団が結成されているとしか思えないほどだった。
颯はその度に穴埋め方式で盗賊団を壊滅させることになり、最近では盗賊討伐はナビの趣味なのじゃないかとすら思えてくる。
普段ナビには何の興味もないだろうダンジョン攻略に付き合わせているのだから、盗賊討伐くらい付き合うしかないと諦めの境地で淡々と討伐はするけれど、内心では別に自分がしなくてもという思いは捨てきれなかった。
颯にしたら盗賊討伐は言わば日本で言うところの警察の仕事だ。この世界で言うなら警備兵にもっとちゃんと仕事をしろよと言いたい気持ちが強い。
だからナビの趣味とは言え人の仕事を取り上げてまでする事じゃないだろうとどこかで思ってしまう。普段ナビには世話になっているから絶対に口にはしないけれど。
そうして最近では相手が何人いようとそうたいして苦戦することもなく盗賊を討伐していて気付くことがあった。
「随分と多くないか?」
一番最初に盗賊討伐した時は確か四五人程度だったが、王都が近くなった今や盗賊団と呼ぶに相応しい十人を軽く超えるレベルだ。それに多分他のヤツらより明らかに強そうなヤツも居たりする。
「もしかして王都って人が溢れかえっているのか?」
颯が想像する王都は今まで立ち寄ってきた街から考えても東京ほどの大都市だとは思っていない。せいぜいがちょっと人口の多い街くらいだと。
それでもこれだけの盗賊がわらわらしているのを見ると、少なくとも颯が考えている以上に大きいかもしれないと考え直す。それこそ色んな土地から色んな人々が集まるくらいに。
今までは情報通信が発達していないのでちょっとしたニュースは人の噂でしか仕入れられなかったし、その噂の信憑性がどれほどかは確かめようがなかった。
しかし人が多く集まる場所には情報だけでなく色んな文化文明も集まるだろう。
他の土地の情報だけでなく、ご当地の美味しいものとか。美味しい料理とか。美味しいおやつとか。独自に進化した美味しいもの色々。
だとしたら確かに面倒なことも多いかもしれないが、地方にはない何か面白い発見があるかもしれないと颯は急に王都へ行くのが楽しみになるのだった。




