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冒険者の実力やダンジョンに入る冒険者の数にもよるが、ダンジョンの多くは第三階層から五階層辺りまでしか攻略されていない。その辺が日帰りでコンスタントに稼げる距離なのだろう。
この世界の冒険者にはダンジョンに泊まり込むという意識はまったく無いようだ。野宿はするのに。
もっともその野宿のための場所取りを確保しとくためにも毎日出勤なのだろうと颯は思う。
しかし各階層に転移魔方陣ができたとなったらきっとその限りではなくなる。下の階層の方がドロップする現金も魔石の買い取り価格も段違いで高くなるのだから。
ただできてから日が経っているダンジョンほど冒険者が足を踏み入れていなかった階層の魔物の密集具合は高くなるので、一般の冒険者にとっては言うほど攻略は簡単ではないと思われる。
颯はそう考えることで焦る気持ちを抑えていた。
「人類未到達階層ってのがくせ者だよな」
ダンジョン化して年数の浅いダンジョンは当然階層もそう深くはなく、下手したら第二階層ほどで終わってしまうダンジョンもある。
もっともそんなダンジョンはこれから階層が増える度にフォルトゥナがその階層の出現モンスターをファンタジー化させるのだろから颯がわざわざ出向く必要は無い。
目新しい魔物の出現でも無い限り颯は無視するつもりだが、そうじゃないダンジョンは他の冒険者との争いだ。
一度でも誰かが足を踏み入れた階層は颯がどんなに頑張って魔物を一掃させようと、リポップするのは同じモンスターばかり。たまに下層にいるような強いのが湧いてもそれすらももう珍しくもない。
何が言いたいかというと、颯はファンタジーなモンスターを期待してモンスターハウス化していた階層の魔物を一掃させてみたがまったくファンタジーなモンスターが出現する気配がない。
フォルトゥナが嘘を吐いたのか、それとも怠慢かと息巻いていみたがなんて事は無い、冒険者がこの階層に既に足を踏み入れていたのだ。しかし自分達では攻略は不可と考えて逃げ帰ったのだろう。
「まぁ良いんだけどさぁ。なんだか時間を無駄にしたみたいでがっかりだよ」
どうしてファンタジーなモンスターが出現しないのかと、理由も分からずにムキになっていた時間が惜しいというか、早いところ気づけなかった自分の愚かさが恨めしい。
階層を正常化させると言う意味では颯のした事はまったくの無駄ではないのだが、一刻も早くファンタジーなモンスターと出会いたいと期待が高かった分落ち込みがハンパなかった。
苦労して仕上げた宿題や仕事を『はい、やり直し』と突っ返された気分である。
「申し訳ありません。私がそこまで確認できれば問題なかったですね」
「ナビがそこまでできたらもうエスパーだよ。フォルトゥナを超えた神の力と呼んじゃうよ」
ダンジョンのどの階層が人類未到達かなんてきっとフォルトゥナでも理解していないだろう。ましてや魔物が密集していれば他の冒険者が足を踏み入れていないと考えるのが普通だ。
「ですが」
「ナビをそんな気分にさせてしまってごめんな。気持ちを切り替えて先に進むぞ。別にこのダンジョンはこの階層で終わる訳じゃない。次はきっと人類未到達階層だ。この階層で逃げ帰るくらいだからな」
「そうですね」
「どんなモンスターが現れるか楽しみだな!」
颯は次の階層こそはと無理にテンションを上げて先に進む。これ以上ナビを落ち込ませる訳にはいかない。
ここのダンジョンは冒険者に人気が無いのかまだ第三階層だというのに既に魔物の密集具合が凄かった。
でも他のダンジョンでは第三階層なんて普通に冒険者が立ち入っていた階層なので、冷静になって考えてみれば当然気付いたはずの事実。モンスターハウス化される前に冒険者が立ち入っていた可能性が大きいのだと。
今現在冒険者が立ち入らなくても過去に潜っていた可能性も大きいのだ。やはり期待しすぎて頭が弱くなっていたのだろう。全然考えが及んでいなかった。
ちょっと冷静になってみればあれこれと簡単に思いつく。颯は第五階層を過ぎるまではあまり期待しすぎることのないように、いつも通りを心がけて攻略することにした。
そうして第四階層に居た魔物を一掃しリポップを待つ。
(期待しない。期待しない。期待しない…)
マップウインドウをジッと見詰め、念じれば念じるほど期待が大きくなっていく。もはや手遅れだった。
「おっ、湧いた。行くぞナビ!」
颯はリポップした魔物を確認すべく現場に急ぎ駆けつけるとそこには、な、なんと、ゴブリンが居た。
「ゴブリンだー!!」
颯は何気に感動すら覚え大声を上げていた。
しかし残念なのはその色だ。一般に知られているゴブリンは緑色の体で醜悪で臭いが定番なのに、魔素で作られているからか今までの魔物同様何気に黒っぽい感じ。ちょっと感動していたのにガッカリ感がハンパない。
「まぁ仕方ないかぁ…」
そこまで期待した自分がバカだったのだ。普通に考えればゴーレムもベヒーモスもサイコルプスも黒っぽかったのだから当然なのだ。
フォルトゥナが新たに知識を仕入れ、ダンジョンを進化させたなんて言うから勝手に思い込んで期待した自分の落ち度だ。
「倒すよ。倒します。望んだのは自分ですから…」
颯は少々投げやりになりながら次々と湧き始めたゴブリンにおもいっきり解体魔法を投げつける。最弱モンスター扱いのゴブリンはいとも簡単に魔石を残し消滅する。
「さてさてドロップ品に変化はあるのかな」
颯は懲りずに期待しながらドロップ品選択ウインドウを確認する。
「なんだコレ!?」
ドロップ品の中に『ゴブリンの腰布』があった。
「……」
臭いで有名な迷惑にしかならないそんな腰布を誰が喜ぶというのだろう?
フォルトゥナは小説に毒されすぎているのじゃないかと颯は溜息を吐く。そしてもっと有意義な情報を仕入れてくれよと思う。
「はぁ…。まぁ俺は手に入れるんだけどね」
颯にはこの先もファンタジーモンスターのドロップ品がナビの異空間収納の肥やしになっていく行く予感しかなかった。




