6
顔の作りはいつか見たブロンズ像のように整い肌の色は透き通るように白く、腰まである緩くウエーブした銀髪は宝石のように艶々と輝き、九頭身はあろうかという顔の小ささにグラマーな体躯。
古代ローマ人が着ていたような服を纏い佇む姿は女神が舞い降りたと言われれば普通に信じるだろうレベルの美女だった。
颯はそんな美女を目の前に一瞬だけ見惚れたが、すぐに興味を無くす。自分にはまったく関係のない関わってはいけない種類の存在なのだと。
うっかりこのまま見惚れていようものならどんな災い面倒事が降りかかるか分からない。万が一惚れたなんて勘違いされようものならどんな手痛い反撃があるか想像に容易い。
第一こんな美女と少しでも関わったら颯は途端に目立つ存在となってしまう。それは颯の望むことではなかった。
「失礼させていただきます」
颯は美女に声を掛けさっさと退出しようと試みる。
「逃げても無駄よ。君には私の加護を既に授けたわ。私からは逃げられないわよ」
「はあぁ~? 加護!? なにそれ聞いてないけど!」
(加護って神様が関係したりするんじゃないの? ってことはこの美女はまさか本当に女神なのか?)
いったい自分にどんな加護が付けられたのか気になると言うより、そんなもの貰ったら人より目立つことになるんじゃないのかと颯は途端に不安になり、取り繕うのも忘れ素で反応していた。
長くモブをしていた颯が今さら目立って良いことがある訳がない。たとえちょっとばかり良いことがあったとしても必ずその反動で手痛いしっぺ返しがあるはずだ。
絶対にトータルで考えてマイナス値の方が大きくなるに決まっている。
颯は波瀾万丈な人生など望んでいない。平穏で平凡で普通の日常が一番なのだ。
「よく思い出して。このダンジョン踏破した時のことを」
その整った顔を崩しニヤリと笑う女神(仮)は黙り込んだ颯を見てまるで勝ち誇ったかのようだった。
(えっと確か・・・。ダンジョンの初踏破を感知しました。ダンジョンの踏破者に称号を授けます。踏破最速記録を確認しました。記録者にスキルと恩恵を授けます。さらにこのダンジョンを異世界への中継点へと扉を繋げこのダンジョンを固定化させることになりました。って言ってたか?)
「そうよ。よく覚えているじゃない。ステータスを確認できるようにしてあげるわ。見てご覧なさい」
女神(仮)がそう言うやいなや颯の目の前にまるでAI眼鏡を掛けたかのように透明のディスプレイが目の前に映し出された。
名前 右仲颯 年齢 32歳
称号 最速踏破者
加護 フォルトゥナ神の加護
スキル ティケ
颯が知るステータスはもっと詳細でレベルや身体能力が確認できるのだが、これはただ単に名前と年齢と称号に加護にスキル名が並ぶだけだ。
なので颯にしてみればそれがいったいどうしたと言う感想でしかなく、称号や加護にスキルが自分にどんな影響を及ぼすのかはまだ多少気になるが、普通に生活する分にはたいしたことはないのだろうと即座に判断した。
「確認しました。もう帰ってもいいのでしょうか?」
「ちょっと君! 私の授けた加護とスキルを軽く考えてない? その効果を聞いたらきっと驚くわよ!!」
「そういうの別に望んでないんで、何なら外して貰っても良いです」
「それはできないわ。それより君にはこれから大事な役目を担って貰わなくてはいけないの。既に決定事項だから、君が何を考え何を言おうが無駄よ。これ以上話し合いで納得できないというのなら最終手段に出るしかなくなるけどそれでもいいかしら?」
「えっ、なにそれ怖い」
神の存在を否定する訳では無いが、目の前の美女が本当に女神ならやはり怒らせるのは良くないのだろうと判断しながらも颯はどこかおちゃらけた返事をしてしまった。
「フン、分かったわ。君がそういう態度なら仕方ないわね。最終手段発動よ」
(女神って慈愛に満ちた心の広い存在じゃないの? 随分と短気なんだなぁ)
そんなことを考えていた颯の全身に何故かこの部屋を満たしていたキラキラとした光の粒が集まりだしその体を光らせ始める。
ここまでどこか他人事と暢気に構えていた颯もさすがにその現象には慌て、光の粒を振り払うように体中を両手ではたくのだった。




