59
「今出現している魔物の姿を変えるのは難しいので再出現からなら可能とのことです」
颯はナビがいきなり何を言い出したのかすぐには理解できなかった。
最近こんな風に突然何かを言い出すことが増えたナビをだいぶ人間っぽくなったと喜ぶべきだろうか?
それに今はナビと二人での食事中というのもなんとも和やかな団らんのようではないか。
「もしかしてファンタジーモンスターの話か?」
「はい。人類未到達階層を一度一掃させてくれれば変えられるそうです」
「それは良い。やっぱり言ってみるもんだな」
折角異世界へ来たのに異世界らしいファンタジーなモンスターにあまり出会えていないのが残念だった颯には本当に嬉しい知らせだった。
今まで出会ったファンタジーモンスターはゴーレムとベヒーモスとサイコルプスだけだ。やはり定番のスライムにゴブリンやオークとも実際に戦ってみたい。
そして最弱スライムや最強とうたわれるドラゴンやフェンリルと戦いテイムするとかも夢だったが、地球に戻ることを考えると本当に夢でしかない。
まさかテイムしたモンスターを一緒には連れて帰れないだろうし、きっと別れが辛くなる。
「それとダンジョン内の転移魔方陣も各階層に設置するとのことです」
「そっちは人類未到達関係ないの?」
「すべてダンジョンの進化として処理するそうです」
「ふ~ん」
颯は胡乱げな眼差しをナビに投げかけながら曖昧な返事をする。
多分フォルトゥナが日本の小説から知識を得て少しは進化したのだろうが、なんだかご都合主義のようにも思えてしまう。本当はやろうと思えばダンジョンの魔物を全部モンスターに変える事だってできるのではないかと。
その上各階層に転移魔方陣を設置ってエレベーターじゃあるまいしとも思う。多分登録しないと使えないとか何かしら縛りはあるのだろうけれど、それにしてもそこに関しては大盤振る舞いすぎるだろう。
しかし颯にとってもとても都合の良いことなので転移魔方陣のことはそれ以上追求しないで素直に喜んでおく。
「それじゃぁさっそく人類未到達階層のあるダンジョンへ行こうか」
「王都へ急いでいるのではないのですか?」
颯はなんだかんだいって漁師町を出て既に二ヶ月経過していることを思い出した。と言うか考えないようにしていたのだと思う。
「はぁ…。だってさぁ。王都に着いたら魔導具の開発だなんだかんだって言って拘束されてきっと自由な時間なんて無くなるよ。俺だってユージーンの力になりたいとか早く冷凍冷蔵技術を発展させてギャビンやドットを喜ばせたい思いはあるよ。全然忘れてないしその思いは変わってないんだけどさぁ…」
ダンジョンの攻略を始めたら思いの外楽しくて、久しぶりの冒険を満喫しているようで、やっぱり今を楽しんでいたいと思ってしまうのは仕方ないだろう。とまでは口にはできなかった。
フォルトゥナは魔法の発展と文明の発達を期待しているみたいだったが、颯としては元の姿に戻るまでの二十年の人生をやり直す気で楽しむと決めたのだ。
それがどういう訳か出会う人はみないい人ばかりだからつい思いもしない展開になってしまうというか、自分らしくない行動をとってしまうことがあるというか、どこかままならないこともあるのは当然ではないのだろうか。
颯としては今は王都に行って魔導具の開発をするよりも新たに出現するファンタジーモンスターを魔物図鑑に載せ、新たに手に入るドロップ品をアイテムリストに載せたいという思いが優先されてしまっているだけだ。
私と仕事どっちが大事なのと聞かれる世の既婚男性の気持ちがなんとなく理解できたような気がする颯だった。
「王都までの間にあるダンジョンを表示します」
ナビはまるで仕方ないわねとでもいうように余計なことはいわずに素直に従ってくれる。
「ありがとうなナビ。王都に着いたら気持ちを切り替えて頑張るから」
「分かっています。私の役目は颯様の手助けをすることです」
もしナビがいなかったなら颯はこうも自由に冒険を楽しめなかっただろう。それだけはフォルトゥナに感謝するしかない。とはいってもフォルトゥナの掌の上で踊らされる気はないけどと付け足しておく。
そして颯は食べかけていたカスクート擬きを急いで食べ進める。色んな種類のパンを焼けないのでパン料理もあまり種類を豊富に保存できていないのが残念だ。
次は是非じっくり腰を据えて色んなパン作りにも挑戦してみたい。今はとにかくクロワッサンと惣菜パンを食べたい。できればカレーパンとかクリームパンとか。
「それじゃ次のダンジョンへ急ぐぞ」
「楽しみですね」
颯の気持ちを代弁したのか、それともナビも何気に新たなダンジョンの進化を楽しみにしているのかは分からなかったが、ナビの嬉しそうな「楽しみですね」をとても嬉しく感じる颯だった。




