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ダンジョンボスは上層階でイレギュラーで湧いたあのベヒーモスのもう少し大きいバージョンだった。
上層でのベヒーモスが普通サイズならこちらはラージサイズといった感じだろうか。威圧感もさらに半端ない。しかし颯にはまったく利いてはいなかったけれど。
颯はダンジョンを出ずにここで泊まり込みボスのドロップ品をコンプリートさせると決めていたので、今回は何が何でも解体魔法で倒し魔石を手に入れ、一戦闘分を省略させたいと考えていた。
ステルスモードで完璧に気配を消し、少し離れた場所から解体魔法を放っていく。
ベヒーモスは颯の姿を察知してはいないが魔法が放たれる場所は察知できるのか颯に向かって突進してくる。
颯は慌ててそれを回避しながら同時に一反木綿グルグル巻き魔法を放ち、ベヒーモスの自由を奪うことを試みる。
この魔法もかなり強力になり人間ならまとめて三人を拘束するのに成功している。なので上手くいけばこのベヒーモスの行動も少しは抑えられるかも知れないと咄嗟に考えたのだ。
動きさえ止められれば解体魔法での討伐もそう難しくはない。ちょっと時間が掛かるだけのことなのだ。
颯は一反木綿グルグル巻き魔法の方に意識を集中させベヒーモスの拘束を強く念じる。
激しく暴れグルグル巻きを回避しようとするベヒーモスの動きより速く布状に伸ばし作った魔力をベヒーモスの体に纏わせていく。動きが完全に止まるまで念入りに念入りにグルグルグルグルと巻いていく。
ベヒーモスが颯だったなら逆向きに回り巻き付く魔力を回避しようと考えるが、幸いにもベヒーモスにそれほどの知恵は無かったようで段々と動きを抑えられ、そしてとうとう身動き一つできないグルグル巻き状態にできた。
かなり時間が掛かった。途中で集中が切れなかったのが幸いだった。
《勝ったな》
颯は勝利宣言をしながらも油断すること無くすかさず解体魔法を放ち、確実にベヒーモスを消滅させる。
《お見事でした》
ナビも何気に嬉しそうだ。
颯は早速ドロップ品を選択しようとウインドウを開いて驚いた。現金に魔石に肉に皮に角とハイポーションとエリクシルと七つの選択肢がある。
大抵の魔物のドロップ品は以前は四つから五つだったのが魔石をドロップするようになってから五つから六つになっていた。
《もしかして魔物が強くなるとドロップ品も多くなるのか?》
《そういう場合もあります》
前回のサイズ違いのベヒーモスを倒した時は周りに他の冒険者もいたし時間をかけて確認しなかった。というか、肉にだけ目が行っていて気付かなかったのだろう。
もしくはサイズ違いでドロップ品に違いがあるのかも知れない。しかしそれにしても……。
《エリクシルってあのエリクシルなのか?》
《あのの意味が分かりませんがあらゆる病を治す万能薬です》
《それってヤバいヤツじゃん。こんな所で手に入れて良いものなのか?》
《まだ市場には出回っていません。またそう簡単に手に入る物とは思えません。颯様だからできることです》
《だからそれがヤバいって言ってるんだってば…》
ここでエリクシルを選択すれば、間違いなく颯がこの世界で初めてエリクシルを手に入れた者になるのだろう。
そして同時に手に入れてはいけない物を手に入れてしまったいう思いを抱えることになる。
異世界へ来た当初は確かにエリクサーを手に入れてエリクサー症候群を治したいなんて考えていた時もあったけれど、万が一こんな物を持っていると知られたらどんな面倒事に巻き込まれ災いを呼ぶことになるのかと思うと実際には怖い。
それに自分に使うならまだしも、知人友人に使うとなるとお金の貸し借り以上に関係を壊すことになりかねない。さらに言えばきっと値段の付けようも無いから売ることもできないだろう。
それに例えばこんなスゴい物を無償で渡して良い事なんて無いと大人の颯は既に理解している。せいぜいが自己満足で相手に負い目を感じさせるだけだ。
「はぁ…。今のところ使い道は無いけどアイテムリストのためには手に入れるしか無いよな」
颯は取り敢えずエリクシルを手に入れ、ナビの異空間収納に預けたまま忘れることにした。
「あと手に入れていないのは皮と角だな。これからあと二日間頑張るか」
「お付き合いします」
ダンジョンボスは一日に一度しか湧かないのでアイテムリストに載っていないベヒーモスの皮と角を手に入れるにはあと二日掛かる。その間颯はここに泊まり込むと決めている。
「時間もあるし魔法の訓練でもするか」
颯はボスフロアから出るとエリクシルのことを忘れようとリポップした魔物を探し、八つ当たりのように派手な魔法を思う存分使って倒していくのだった。




