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《なぁナビ。このダンジョンいったいどこまで続くんだ》
《十五層までです》
颯が今まで潜ってきたダンジョンは大抵五層から十層のものばかりで、突然草原になったり森林になったり砂漠になったりはせずに、作りが鉱山風か蟻の巣風かの違いしか無い薄暗い洞窟ダンジョンばかりだった。
なので踏破もそれほど難しくは無く、今までは比較的簡単にボスフロアへと到達できていた。
しかしこのダンジョンは下層に潜るほどに広く通路が複雑になり、探索に時間が掛かるようになっていたので颯はつい泣き言のような愚痴を吐いていた。
何がって、広くなるのは一度の探知で把握しきれないだけなのでまだ我慢できるが、下層へ行くほど魔物の密集具合がスゴいことになっている。
五層を超えた辺りから冒険者の気配がまったく無くなっていたのも原因の一つだろう。
上層では多くの冒険者達でリポップする魔物の取り合いをしていたが、きっと下層ではダンジョン誕生以来ただの一匹も魔物が倒されたことがないのかも知れない。
いつもならドロップ品のコンプリートをしたら後は適当に邪魔な魔物を倒して済ませていたが、ここではそんな暢気にしてはいられないほど頻繁に魔物と出会う。
モンスターハウスとまではいかないが、驚くほどの数の魔物に夢中になれる要因がない颯には戦闘が簡単とは言え苦痛でしか無かった。
せめて魔物図鑑未登録の魔物とかもっとファンタジー要素の強い魔物だったならもう少しやる気になれただろう。
無視して進むにしても移動の邪魔になるのでどうしても戦闘を強いられ、ここまで解体魔法で頑張ってきた颯は魔石の回収を諦め広範囲魔法を使っていくことにした。
《爆ぜてしまえ! スーパーノヴァ!!》
ズビュンッ!!
颯の前面通路を激しい爆発の波が光のような眩しさと速さで広がり進んで行き、そこに居た魔物達を一掃していく。
《凄い威力です》
《あぁ、驚いたな》
マップウインドウにあった魔物の気配が殆ど一瞬で姿を消したので颯もその威力には自分でも驚きだった。
もっともこの階層全域にまでは行き届かなかったらしく撃ち漏らした魔物はまだまだ居るが、颯は魔法を使う楽しさをすっかりと思い出していた。
最近は慣れた魔法しか使っていなかったし、目立つことを恐れ派手な魔法を封印していた。
しかしこの誰も寄りつかないダンジョンの中でなら、少々派手だろうがなんだろうが誰に見られる心配も無く魔法を使い放題だと気がついたのだ。
ドロップ品の選定を魔石にするか現金かで悩むところだが、ギルドでの魔石の買い取り価格もきちんと決まり魔物が落とす現金よりは高値で買い取ってくれると聞いている。
ただ今まではギルド長であるグランがやってくれていたが、これからは自分で冒険者ギルドに持ち込み買い取って貰わなければならないという面倒くささが伴うだけだ。
しかしこのまま旅を続けるのならいつまでも冒険者ギルドを避けて通る訳にもいかず、ギルド長やマリンに手紙を出すにしても手紙の郵送を冒険者ギルドでも請け負ってくれているのでいずれは行かなくてはならない。
それにやはり魔石研究の役に立ちたいという思いはあるので、颯は魔物のドロップ品の選定を魔石に設定し直し先を進む。
《凍りついてしまえ! ダイヤモンドダスト!!》
シュンッ!!
キラキラキラキラと綺麗な光の粒が辺り一帯を凍りつかせ魔物を屠っていく。
「快・感!」
颯はどこかで聞いた台詞を思わず口にしていた。
一度解いた封印の歯止めは利かず、颯は今や魔物を探しあれほど苦痛に思っていた広い階層内を隈なく周り歩いていた。
《颯様、この階層に既に魔物の気配はありません》
《じゃあ次に行くぞ!》
《了承しました》
そうして颯は時間も忘れ夢中になって思いつく限りの派手な魔法を使い次々と魔物を倒していった。
「はぁ…。さすがにちょっと疲れた。少しだけ休憩させてくれ」
「では結界を発動します」
颯はボスフロアを前にして漸く我に返り冷静になると、自分がかなり疲れていることに気がついた。
それにかなりお腹も空いていたので、異空間収納の中からテリヤキバーガーを取り出すと勢いよく齧りつく。
照り焼きは颯が作った濃い口醤油風醤油と隠し味の酢が良い仕事をしている。それと葉野菜にかけたマヨネーズもパンも颯の手作りだ。
マヨネーズは隠し味に蜂蜜とニンニクを使った颯だけのお気に入り。
パンは発酵させるのに工夫がいったりオーブンがないので鍋で焼くのに少々失敗したりもしたが、これはすべて満足のいく仕上がりになっている。
「うん、旨い。ナビも食べられたら良かったのにな。これは俺の最高傑作品だぞ」
「ではいただいてみます」
「えっ、食べるの? 本当に?」
今までに無かったナビの反応に颯は驚き呆気にとられた。信じられないと言うよりナビの進化を確信していた。
颯は異空間収納の中からもう一つテリヤキバーガーを取りだしナビに渡すとナビは平然と受け取り無表情で食べだす。
「なっ、旨いだろう?」
「これを美味しいと言うのですね。…記憶しました」
ナビの反応はなんとも言えないものだったが、颯は久しぶりの一人じゃ無いご飯になんだか心がポカポカした。
そしてやはり美味しいものは誰かと一緒に食べた方がより美味しいのだと、頬を緩ませながら残りのテリヤキバーガーを頬張るのだった。




