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ダンジョンの初踏破を感知しました。
ダンジョン踏破者に称号を授けます。
ダンジョン踏破最速記録を確認しました。
記録者にスキルと恩恵を授けます。
当ダンジョンを異世界への中継点へと扉を繋げ当ダンジョンを固定化させます。
「な、なにぃ~!」
颯は混乱していた。
突然起こったさっきまでの出来事もそうだが、今さっき頭に響いた何処かAIを思わせる音声の内容も上手く理解できずにいた。
すると混乱する颯のことなど気にすることもなくゴゴゴと音を立てながら目の前に大きな扉が現れた。
高さは五メートルはあるだろう黒い墓石を連想させる色とつやのある重厚感だが材質は多分石ではない。それに何とも不思議な模様(?)の描かれた大きな大きな長方形の扉だった。
「この扉の先が異世界への中継点ってことか?」
颯は扉の前で腕を組みしばらく考えていた。
これが二十年前だったなら何も考えず迷うことなく興味だけで扉を開いただろう。そして異世界というだけで勇者だチートだハーレムだと心をワクワクさせた。いや二十年前にはまだそんな知識も憧れもなかったが・・・。
今さら平穏な日常を変える意味を颯は見いだせずにいた。
というより安定のルーティンの毎日を変化させる勇気がないと言われればそれまでだが、颯の心に少年のような冒険心は既になくなっているようだった。
「別に中に入る必要はないよな。それより出口は何処だ。どうやったらここから出られるんだ」
颯は扉の中に入るという選択肢を捨て、この訳の分からないダンジョンからの脱出方法を探し始める。
ダンジョンと言うからには出口も入り口も当然あるだろう。
取り敢えずもう少し探索してみるかと扉に背を向け歩き始めると背後でガーっと音を立てながら扉が開き始めた。
颯は中から何かが出てくるのかと思わず体を強ばらせ振り返り身構える。手にしていた刀はいつの間にかお守りに戻っている。
ゆっくりと開かれていく扉からはキラキラとした黄金色の光が漏れ始め、眩しいと言うより美しく心地よく何か癒やされていくようだった。
「入らなくちゃダメだってことか?」
しばらくその様子を眺めていた颯は、すっかり開かれた扉を前に大きく溜息を吐くと諦め一歩を踏み出す。まるで引き寄せられるかのように。
「異世界への中継点ってことはいきなり異世界ってことでも無いだろうしな」
颯は自分に言い聞かせるように呟きながらその扉の中へと足を踏み入れた。
中は思った以上に広い円形で人工的な作り。壁には六芒星の頂点のようにして六つの扉があり、中央には六角形の大きな台座が置かれそのうちの一面に描かれている模様だけが光っていた。
今疾風が入ってきた面が光っていることからダンジョンが踏破され扉が開くと光が点るのだろう。
だとしたら先程AIがダンジョンの初踏破を感知したと言っていたが、もしかしたらこのダンジョンを初めて踏破したと言う意味ではなく、この世界にあるダンジョンが初めて踏破されたと言う意味なのだろうかと疾風は考えた。
もっともここの他にダンジョンがあるなどとは話にも聞いたことはないが、と、そんなことを考えているとまたまた脳内に響くAI音声。
「ありますよ。日本に限らず世界中にダンジョンは存在します」
「へぇぇ~」
疾風は驚くより先に興味が湧くのを自分でも不思議に感じながら暢気な返事を返していた。
「発見されないままに消滅するダンジョンも多いですが日本の発見率はほぼ百%です。しかしそのどれもが情報を隠され、またはある特定の組織に管理され一般には情報を秘匿されています」
「その組織って国だったりするの?」
「そうです。世界的にダンジョンの情報は一般に知られないように管理されているようです」
「ふぅ~ん。知らなかった」
もっとも秘匿され情報管理されているのなら颯が知る術もないのだが、今現在進行形で体験している現象が夢でない限り信じない理由はない。
「ところでさ、発見されないままに消滅するダンジョンがあるって言ってたけど、ダンジョンって昔からあったの? それにそもそもダンジョンってそんなに簡単にできたり消えたりするものなの?」
颯のダンジョン知識(ゲームや小説から仕入れた)から考えるとかなり何かが違うようなので、ふと興味を引かれ確認のためなんとなく聞いていた。
「詳しい説明が必要ですか」
「・・・できれば?」
ただなんとなく知りたいという気まぐれ程度で聞いた颯の疑問に、AIは面倒くさがる雰囲気も感じさせず「では」と説明を始める。
しかし颯は質問したことをすぐに後悔するとはこの時は思いもしなかった。




