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颯が現場へたどり着くと一人の少女が獣のような男達に襲われているところだった。
颯は驚き声も出せず思わず男の一人に突進しおもいっきり突き飛ばしていた。
突然現れた颯に驚いている獣達を颯は一反木綿グルグル巻きの魔法で拘束していく。この魔法もかなり使い慣れていて発動も早く同時に五つまで発動できるし、なんなら複数人を纏めて拘束することもできる。その上今では結界のように拘束を維持したままで放置できるようにもなりかなり使い勝手がいい。
そうして三人を一瞬で拘束すると颯は手慣れたショベルカー魔法で穴を掘り獣達を次々と埋めていく。
一反木綿グルグル巻き魔法は悪者を拘束するだけでなく、重い物を軽々と持ち上げ運べる利点もあり、かなり応用が利くので本当に便利な魔法だ。
「大丈夫ですか」
見たところ少女に外傷も服が破られた様子もないことに颯はホッとした。しかし同時に颯の異世界年齢とあまり変わらないだろう少女の痛ましい出来事に胸を痛めた。
「だ、大丈夫です。ありがとうございました」
健気にお礼を言う少女ではあったが、颯はマリンに散々言われていた言葉を思い出しつい同じことを言ってしまう。
「森に一人で入ってはダメではないですか」
「す、すみません…。で、でも、いつもは大丈夫だったんです」
言い訳をする少女に颯は少し呆れるが、颯にも痛い眼に合うまで反省できない経験はあるのでそこは許すことにする。
「謝って欲しいのではありません。自分を大事にしてくださいと言っているのです」
「はい…」
「分かってくれたなら良いのです。それよりこの男達のことを警備兵か街の大人に知らせてくださいね」
颯はそれだけ言うと後の始末は少女に任せその場を去ろうと踵を返す。
「ま、待ってください」
最早颯は少女に何の用もないのだが、呼び止められたのを無視するほど無神経にもなれなかった。
「まだ何かありますか?」
「ぁ、あのぅ、さ、さっきのは魔法ですか? もしかしてあなたは貴族様ですか。だとしたら大変失礼しました」
何を思ったか少女は体を硬くし深々と頭を下げた。
貴族関係者と関わり失礼があったとなるとどんな制裁があるか分からないと少女は警戒しているのだろうか。
「安心してください僕は貴族関係者ではありません。それに今は冒険者ギルドで魔法の講習をしてますから誰でも魔法を学べます。だから一般の市民にも魔法を使える人は普通にいます」
「そうなんですか。私はこの先の村に住むロゼッタといいます。是非お礼がしたいので一緒に来てくれませんか。それに魔法の話ももう少し聞きたいですしお願いします」
少女は山中の小さな村に住んでいるという割にはちゃんと躾がされている感じがした。
本当に失礼な話ではあるが、この世界の田舎の人はまったく教育を受けていないせいか無知で粗暴な雰囲気を持つ者が多いので颯はその事に少しだけ驚いた。
もっとも颯の居た街にもそのような人は少なからず居たので村に限定した話ではないのかも知れないが、颯にとってその少しばかりの興味がロゼッタに誘われたからとわざわざ村に立ち寄る理由にはならなかった。
「礼は必要ありません。僕がたまたま通りかかり好きでしたことです。しかしあなたに次危険が迫った時に助けてくれる人が居るとは限りませんよ。もっと慎重になった方が良いと思います」
余計なお世話かも知れなかったが、颯はこれに懲りて森の一人歩きは控えて欲しいと言わずにはいられなかった。
「はい気をつけます」
颯のきっぱりとした態度に神妙にする少女を確認し、颯は軽く頭を下げると今度こそその場を離れた。
少女に誘われて知らない村になど行ける訳がない。そこでどんな騒ぎになるかもなんとなく予想もできる。それは颯の望むことではなく、知らない他人に関わるなどただ疲れるだけだ。
そんなことに時間をとられるなら自分のしたいことをさせて貰った方が本当にありがたいと分かって欲しい。
助けなければ良かったと後悔するほどにお礼がしたいと纏わり付かれなくて良かったと颯は本気で胸を撫で下ろしていた。
そして旅立って早々のこの出来事に、この先の旅の平穏無事を祈るように歩くのだった。
しかし颯はこの時助けたロゼッタがこの後颯を森の王子様と呼び、絶対に見つけ出し再会を果たすのだと誓っていたことなど知る由もなかった。
そして近い将来ロゼッタは本当に村を出て冒険者ギルドで魔法を習い、颯の噂を頼りに後を追い旅立つこととなる。
何しろ盗賊が穴に埋められる事件はあちこちで度々起こっていて、不可解な怪奇現象とされロゼッタの村にまで届くような大層な噂になっていた。悪いことをしたら女神様の天罰が下りに穴に埋められると。
しかしロゼッタはそれが怪奇現象ではなく颯がしていたのだとその目でしっかりと確認してしまったのだ。
それを誰にも話す気はないが自分だけが掴んだ手がかりだとロゼッタは喜び颯と秘密を共有した気分でいた。
そして何故か必ず再会できるこれは運命だと妙な自信を胸に、少なくとも助けられた恩は絶対に返すと熱い思いをロゼッタの胸に抱させた。
こうして颯は人知れずまだ女性冒険者の珍しいこの異世界に、一人の女性冒険者を誕生させることになったとは夢にも思ってはいないのだった。




