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ダンジョンを出ると既に日が沈み辺りは暗くなっていた。
「マリンさん心配しているだろうな」
「グランさんは泊りになると言っていたではないですか」
ギルド長は今回の仕事は余裕を持ってマリンには泊まりと説明していたが、颯は距離だけを見て軽く考え早めに帰るとマリンと約束していた。だから颯の予定ではもう家に帰り着いているはずだった。
すべては颯が森で素材の採取に夢中になったこと、そしてダンジョンでもついアイテムリストと魔物図鑑埋めに熱くなってしまったのが原因だ。誰を責める訳にもいかない。
「今から隣町へ行っても店は開いてないよな」
ギルド長からは事前に野宿を考えた準備をして貰ってある。街で子共の颯が一人で泊まれる宿などないのは颯も承知していた。
それに颯にはナビの結界もあるしステルスモードもあるので野宿をしても襲われる心配は少ない。
問題があるとしたら食事だけだが、今回はギルド隣の居酒屋の料理をギルド長に用意して貰い異空間収納に入れてある。時間経過の心配も容量の心配もしなくていいのは本当に最高だ。
「野宿できそうな場所を探しますか」
「頼めるか?」
「お任せください」
颯は安心して寝られる場所探しをナビに任せる事にした。暗い中颯が探すのは時間の無駄だろう。
「この先に元作業小屋があります」
「小屋があるのはありがたいな」
『元』を強調したのには少し疑問もあるが、ボロボロの廃屋だったらナビは小屋とは言わないだろう。
「今はならず者の溜まり場になっているようです」
「ちょ、おまっ」
颯はナビの追加情報に言葉にならない言葉を思わず発してしまう。ならず者の溜まり場でどうやったら安眠できるというのか、ナビは本当に何を考えているのか…。
「盗賊と化したお尋ね者達です。颯様が討伐すれば問題なく休めます」
「いやそういう問題じゃなくて…」
「では他にどういう問題が?」
「俺に盗賊討伐ができると思うか? それにお尋ね者を討伐しましたってどこに届け出るんだよ。俺はそんな目立つことできないぞ。なんのためのステルスモードだ」
目立つことは極力しないようにとギルド長に言われているのもあるが、颯自身も人間相手に戦闘ができるとは思えなかった。
長年の平穏無事なモブ生活は伊達ではなく、いまだかつて誰かを殴ったとか殴られたという経験もない。
「グランさんに届ければよろしいのでは」
そりゃぁ今まで面倒事はすべてギルド長に押しつけてきたが、問題はそこではないのだとナビは理解してくれそうもない。案外好戦的なのだろうか?
「俺は人を殴れない」
「殴る必要はありません。討伐するだけです」
「……」
その違いはどこにと言う疑問は口から出なかった。颯とナビとではどうも決定的に考えがズレているようだ。
「颯様は魔法が使えます。無力化できる魔法もあるのではないですか」
「そりゃあるよ」
スタンや睡眠と言った魔法はよく読んで知識にはある。しかしイメージだけで本当に成功させられるか疑問だ。疑問に思っている時点で成功しない気もする。
問題なのは対人だということだ。万が一失敗して相手に障害を負わせたらと思う気持ちが強い。
要するに颯は対人戦が怖いのだ。勧善懲悪は物語だから面白いが、いざ自分がするとなるとそれなりの覚悟がいる。
たとえ相手が絶対の悪であったとしても、暴力を暴力で返すようなことはできればしたくない。そんな悪とは関わり合いになりたくはないのが本音だ。
ここは地球じゃないので颯の道徳観念も常識も通用しないのは分かっている。分かっているがやはりできることとできないことはどうしてもある。
まぁでもその小屋で寝泊まりできれば今後またこのダンジョンに訪れた時に便利なのも確かだ。
「あっ、そうか」
颯はとても良い方法を思いつく。成功するかどうかはやってみなければ分からないが、試す価値はあると颯は俄然やる気になった。
「ナビ、その小屋へ案内して」
「颯様、漸くやる気になりましたか」
颯はナビのやる気が『殺る気』に聞こえちょっとだけげんなりとしたが、大人しくナビの案内に従い元作業小屋へと向かう。森に入り歩いて五分程度の本当に近い場所にその小屋はあった。
然程広くもない元作業小屋では五人の男達が早くも酒を酌み交わしている。小屋の広さから考えてもこの小屋で五人もの大人がどうやって寝るのか颯は不思議に思いながら小屋の中を覗いていた。
《じゃぁ始めるか》
《どうするつもりですか》
《まぁ見てろって》
颯は早速小屋の外に魔力操作の延長で、魔力を練り上げて作ったショベルカーのアームを作り穴を掘っていく。
人数分の穴を用意できたところで颯は盗賊が用を足すために小屋の外に出てくるのをジッとまった。お酒が入ると近くなるのは颯も経験済みだ。
そして程なくして出てきた一人を颯は容赦なく魔力を布状に練り上げてグルグル巻きにする。イメージは一反木綿の巻き付き攻撃。
そうして口と手足の自由を奪うとそのままの状態で穴に放り込みもう片方の腕で魔力で作ったショベルカーのアームを操り急ぎ土を埋め戻していく。自分の器用さに颯も驚きだ。用を足せなかった盗賊のその後の心配は考えないにする。
昔颯が少年の頃、海水浴に行ったときに砂浜で兄に埋められ本気で死ぬかと思ったことがあった。砂浜の砂に埋まり手足の自由が利かなくなったときの恐怖はいまだにトラウマだ。
《騒がれると面倒だから結界を頼めるか》
ナビの結界には消音モードのものもある。今は魔力で自由を奪い口も塞いでいるが騒がれて残りの盗賊達全員に一斉に動き出されると面倒だ。
《了解しました》
一人を穴に埋め終わり颯はまたも小屋の外でそっと待機する。この作戦は作業の早さが肝心だ。待っている間にイメージを確実にしていく。
最悪の場合ナビに頼んで結界に閉じ込めて貰うという手も考えられるが、結界の外から結界の中へ颯の魔力を練り上げて作った物体が入るかが疑問なのでそれは最後の手段だ。
そうして颯は一人また一人と確実に盗賊達を穴に埋めていき、残り二人になったところでさすがに盗賊達も何かを察したようだった。
そこで颯は小屋の外に潜むのは止め小屋の扉を勢いよく開けると魔力で作った布を伸ばし確実に一人を拘束し穴埋め作業に入る。
残りの一人には逃げられるかと覚悟していたのに恐怖からか小屋の中で動けずにいた。なので颯は然程面倒なく無事盗賊全員の自由を奪い捕獲に成功する。
「これで明日にでもギルド長に報告すればいいだろう」
「お見事です」
考えていた以上に思ったとおり魔力行使ができたことよりナビの賞賛に颯はちょっと良い気分になるのだった。




