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「こんな大物仕留めたはいいがどうするよ」
颯が声のした場所へたどり着いてみると冒険者が大きな鹿を仕留めて喜んでいるようだった。
さっきの騒ぎは何か事件が起こっていたのではなく、冒険者達が鹿と格闘していた騒ぎだったようだ。
「二人で運ぶしかないだろう」
「この荷物もあるのにか」
降ろされ木の陰に置かれていた背板には薪や森の恵みで荷物が山になっている。
颯には異空間収納があるので荷物に関してまったく心配はなかったから実感していなかったが、普通の人達は採りすぎれば当然荷物運搬の問題があるのだと現実として理解できた。
《なぁナビ、やっぱりもう少し大きな鞄が必要だな》
颯が今持っているのはマリンが用意してくれた巾着袋のようなリュックで、サイズもお弁当と水筒を入れたら他はあまり入りそうも無い。お土産を持って帰ると決めたはいいがリュックに入る量などたかが知れている。
《隣町に寄りますか》
《そうだな今さら街に戻って購入するのも面倒だしな》
颯はダンジョンを攻略しある程度魔石を手に入れたらそのまま帰るつもりでいたが、少し足を伸ばして隣町へ寄ることにした。
そうと決まれば急ぐかと、颯は夢中になっていた素材採取を漸く切り上げる気になった。
考えてみればその気になればいつでも来られる。ただマリンへの言い訳を考えなくてはならないのが大変なだけだ。
(嘘を吐くのには慣れたくないな…)
今までこんなに他人と深く関わった事が無かった颯には色々と初体験が多かった。
今までだって話を誤魔化すことはあったが、颯が何も言わなくても勝手に解釈し納得してくれる場合が殆どだったので颯に罪悪感はなかった。
しかしマリン相手にはそうもいかない。颯の瞳をじっと見詰められると心の中まで見透かされているようで落ち着かなくなる。恋心はとうに捨てたつもりの颯にはとても不思議なことだった。
颯は馬で一時間なので急げば二時間掛からずにダンジョンに到着できると軽く考えていたが、森での採取に夢中になったせいでダンジョンに着いたときには既に昼近かった。
寄り道せずに急いだなら予定通り二時間は掛からなかっただろう。今日中に帰るつもりでいたので少し早めに家を出てきたのに予定は狂いまくりだ。
「ナビ、急いで攻略するぞ。サポートよろしく」
「お任せください」
ダンジョンの入り口は山脈の麓の岩壁に洞窟のような大きな口を開けていて、冒険者らしい人達の出入りがそこそこありすぐに分かった。
やはり魔物を倒すと現金が手に入るのは冒険者にとっては分かりやすく稼ぎになるのだろう。それに偶にドロップするポーションやレアアイテムをギルドで買い取って貰えばかなりの額になる。
《アイテムリストと魔物図鑑優先な》
《了承しています》
ダンジョンに入る人々の気配を警戒して念話でナビと再度予定を話す。
《時間があれば最下層のボスまで行きたいとこだけど、まぁ入ってからの様子見だな。取り敢えず急ぐからよろしく》
既に予定時間をだいぶずれ込んでいたので颯は最低目的だけで帰るのも予定に入れ始めていた。
魔物一匹に対しドロップ品の設定は四つから五つあるので、全部を手に入れようと思うと四匹か五匹は最低でも倒さなくてはならない。
それがこのダンジョンに生息する魔物の種類かけるとなると戦闘回数もそこそこになるだろう。いくら颯が魔物を解体魔法で簡単に倒せると言っても索敵時間も含めるとかなりの時間が必要になる。
颯は他の冒険者とかち合わないように気をつけながらダンジョン内を急ぐ。
ダンジョン内は思っていたより薄暗かったのでライト魔法を使いたいところだが、他の冒険者に気付かれることを懸念しマップと探知を頼りに移動する。
ドロップ品はナビが回収し異空間収納へと自動的に送ってくれるのでそれだけでもかなり時間が節約され助かった。お陰でかなりテンポ良くサクサクとダンジョン内を進める。
そうして気付けばボス部屋フロアにたどり着いていた。フロアの前に大きな扉などなくリポップ待ちの冒険者の列もなかった。
中を覗けばかなり大きなゴーレムが中央に佇んでいる。見た目が黒いので素材が何かは見当が付かない。
「あれがボスか。それにしてもこの辺りに冒険者の気配がないな」
「ここまで来られる冒険者がいないのではないですか」
「そうなのか?」
颯は気付けばたどり着いていたといった感じだったのであまり気にもしていなかったがナビが言うのならその通りなのだろう。
「まぁなんにしてもアイツをさっさと倒してダンジョンから出るぞ」
「了承しました」
颯はナビに声を掛けながら気合いを入れ直す。そしてダンジョンから出たら隣町に寄って大きな鞄を手に入れてと既にダンジョンを出てからの予定を考え始めていた。
しかし颯はとても肝心な事をすっかり忘れているのにはまったく気付いていないのだった。




