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ギルド長は颯が一人で戦えることは最早疑ってはいなかった。しかしまだ子共の身での活動を心配しソロでの冒険には反対していた。
その心配が痛いほど伝わっていたので颯もなかなか無理を言ってまで街の外へ出ることができずにいた。
しかし今回はギルド長の頼みでダンジョンへ行けることになり、颯は漸くこの世界で自分がしたかった本当の冒険が始まるのだと少しだけワクワクしていた。
「急ぐつもりだが冒険者の選定は慎重にしなくてはならないかあなぁ…」
「冒険者の選定?」
「なんだ聞いていなかったのか。ダンジョンへ行くのに冒険者を付けると言っただろう。ハヤテ一人でダンジョンへ行かす訳にはいかないからな」
「それは困ります!」
颯は思わず立ち上がり大声を出してしまう。
颯には人にあまり知られたくない秘密もあるし、そもそも見ず知らずの他人と上手くやれる気がしない。
魔物を相手に自分の好きに冒険したい颯には信用できない他人は足枷にしかならない。
「だが、ダンジョンはどんな危険があるか分からない場所だ。そんな所へハヤテ一人で行かせたとマリンに知られたら夫婦関係の危機にもなりかねない」
颯は思わずずっこけそうになるがギルド長の気持ちはとても良く分かった。颯もギルド長以上にマリンの名前を出されると無理を言いづらくなってしまう。
これはもう告白するしか無いと颯は腹を括りギルド長に自分が抱える秘密を話す事にした。
「実は僕一人ではないんです。ナビ姿を現せる?」
「はい、颯様」
「なっ!」
今まで認識されずにずっと傍に居たナビの姿が突然現れたことでギルド長は驚いたのか大口を開けて固まってしまう。
「僕の使い魔のナビです。彼女(?)がずっと傍につき僕の安全をサポートしてくれています」
「つ、使い魔だと…」
ギルド長はすぐに覚醒し漸くのように口を開くがまだ驚きは止まらないようなので、颯は追撃のように異世界からフォルトゥナにより転移させられたことを話した。
「……」
「それに僕には他の人に絶対に知られたくないもう一つの秘密があります」
さらに颯はフォルトゥナの恩恵により状態異常耐性がある事と異空間収納と魔物のドロップ品を選べることを話した。
「………」
そりゃあ到底信じられる話ではないだろうと、難しい顔をしたまま黙りこくっているギルド長の反応を颯は待つことにした。
これがギルド長だったから颯の話を黙って最後まで聞いてくれたが、きっと他の人だったなら途中で笑い飛ばすか頭がおかしいと馬鹿にしただろう。
最後まできちんと話を聞いてくれただけでも颯はギルド長を信頼できる人だと思うし、けして悪いようにはしないと信じることができた。
「ハヤテ自身はその使い魔のように姿を消すことはできないのか?」
ギルド長から漸く返ってきた意外な反応に颯は思わずドキッとした。
そもそも今までずっとモブ扱いで人に注目されることなど無かった颯は自分の姿を消すなんて考えたこともなかった。
寧ろ自分の姿を消してどんな悪さをする気なのかと、そんな考えの方が先に浮かび忌避感さえ覚える。
正直颯も忍者や暗殺者に憧れたことはあるけれど、それは物語の中の話であって現実ではない。隠れて人の秘密を暴いたり悪者を暗殺するなど実際にできる訳がないと思っている。
「僕が姿を消すんですか? なぜ?」
「少なくともハヤテの存在が知られない。派手な魔法を使いさえしなければ気付かれずに活動できるだろう。ハヤテのその秘密は他の誰にも知られては困るものだ。ハヤテも分かっているようだが、魔法のように他のヤツにも使える可能性があるならどうにか誤魔化しも利くが、さすがにフォルトゥナ様の加護だ恩恵だなどの話はいらぬ嫉妬を呼ぶだけだ。揉め事どころか災いのタネにしかならないだろう。封印する気がないのなら隠し通すしかない」
ギルド長はダンジョンに颯一人で出入りするのも中での活動も、他の誰の目に留める訳にいかないと考えたようで、それで颯に姿を消せるのか確かめたようだった。
《なぁナビ、俺も姿を消すのは可能か?》
《私が介入して良いのでしたらステルスモードを発動できます》
《なにそれ。頼まないとやらないってこと?》
《颯様の危機的状況では私の意思で介入できますがそれ以外は颯様の要望要請のない限りは動けません》
《なるほど。それじゃ俺の活動中はこれからはステルスモードを頼む》
《了承しました》
颯はナビに関してもまだ全然理解できていないことを思い知らされた。そしてこれからは大事な相棒としてもっとお互い理解を深めないといけないと思う。
「ナビに頼めば姿を消せるようです」
「はぁー。分かった。それじゃソロでの活動を認めるしかないな。しかしくれぐれも慎重に活動してくれよ。後、ハヤテのドロップ品の扱いは俺がするから間違ってもギルドの受付には絶対に持ち込むなよ」
「分かりました」
颯はギルド長が颯を信じ決断してくれたことを心から嬉しく思う。そしていよいよ冒険者活動を始められるのだと思う気持ちと、これからはあまりマリンを手伝えなくなる思いとで少しだけ複雑な心境だった。




