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他人の家に下宿をするって思っていた以上に気を遣う。それに実家で家族と暮らすのとは勝手が違いかなり疲れる。
しかし颯は今まで他人をあまり気にせずに生活してきた期間が長いから、ある意味自分の違った一面の発見に驚きそんな自分が新鮮でもあった。
ギルド長とユージーンと約束した実質週四回の魔法講習は既にもう教えることも無く終わり、そろそろ自分の生活の基盤を考えようトは思っているのだが、気付くといつもマリンを気にしていた。
何かと大変そうな家事を手伝ったり、買い物に付き合い街に一緒に出かけたり、颯がのんびりゆっくり何かを考え集中できる時間など殆ど無いほどに親子ごっこを楽しんでいた。
井戸の滑車の音が聞こえれば急いで庭に出て「僕がやります」「あら、大丈夫よ」の押し問答の後一緒に洗濯に付き合う。
水汲みは颯のウォーターで解決したのでかなり楽になったとは言え洗濯はいまだ手洗い。食器洗いもこの井戸場だ。
颯は一人暮らしもそこそこ長かったので一通りの家事には自信があったが、洗濯機を使わない洗濯は初体験。結構な重労働で思った以上に時間を取られるのには本当に驚いた。
何事も経験してみないと分からないものだ。
料理も同じく思った以上に大変だった。ガスやIHのコンロなど無い竈での煮炊きは火をおこすことから始まる。それに竈で使う薪も事前に用意しなくてはならないし、火の始末も忘れてはならない。
掃除も掃除機なんて無いから掃き掃除拭き掃除が重要になり、かなり体を使うし時間も掛かる。だから当然颯は自分の部屋はクリーン魔法で一発解決だ。
本当なら家全体をそうしたいのだが、私はこの生活に慣れているからとマリンに止められた。
多分颯の魔法頼りの生活に慣れるのをどこかで恐れているのだと思う。もし颯が居なくなたらその時はより一層不便を感じ大変になると分かっているのだろう。
「ハヤテ君が手伝ってくれるだけで十分助かってるのよ。こんなに楽させて貰って良いのかしらってくらい」
そうしてマリンが笑うと颯もなんだかとても気分が良くて、より一層手伝わなくてはと思ってしまう。
(早く誰か洗濯機とコンロと掃除機を開発してくれないかなぁ)
一日も早く魔石研究が進み魔導具が開発されることを颯は心から願う。すでに自分が錬金術師になり開発を進めようという思いはすっかり冷めていた。
だって、なんだかんだ言って人間って慣れるようにできてるんだよ。颯自身自分の順応力の高さに驚いてしまうほどに。
しかし完全に諦めた訳では無い。ギルド長とユージーンにこんなのがあると便利だよね、きっとあの魔石の研究が進んだら作れそうだよね、とそれとなく魔法講習の度に話していた。
やっぱり面倒事は引き受けてくれる大人に任せるのが一番だと、子供扱いされるのにも慣れてきた颯は思う。お陰で今のところ然程目立つことなく平穏で平凡な日常を過ごせていた。
「ハヤテ頼みがある」
ある日ギルド長が切羽詰まった雰囲気でダイニングのテーブルに両手をつき頭を下げた。
突然のことに颯は何事かと身構えてしまう。
「どうしたんですか?」
「あの魔石をもっと手にいれてくれないか」
申し訳なさそうにするギルド長はいつもより小さく見える。
「別に構いませんが、また何で急に?」
「魔石が何かに使えそうだというのは上の連中も理解したが、いかんせんその価値がまだはっきりしない。そのせいで買い取り価格を決めかねている。そうなると冒険者も折角手に入れた魔石を価値無しと決め込み捨ててきてしまう始末だ。このままでは魔石を集めることもできず魔石の活用方法の研究も到底始められそうもない」
「そこで僕に集めてくれと」
「都合が良すぎる考えだと腹も立つだろうが、颯ならその価値を理解し俺を信じ預けるのも厭わないだろう」
「ええ。何でしたらお金もいりません。かなりお世話になってますし」
下宿と言いながら颯は下宿代をいまだに1ゼニーも払っていない。食事もすっかりご馳走になりっぱないだ。
「いや、そういう訳にはいかん。後で買い取り価格が決まり次第ちゃんと精算する」
本当に別に必要無いのにと颯は思うが、ギルドとしての体面やギルド長のけじめなんかもあるのだろう。
大人の世界は結構大変で面倒な事が多いのは颯も嫌というほど理解している。
「では明日にでも腐界に行って集めてきます」
「腐界はダメだ。腐界がダンジョン化するまではできればあのまま放っておきたい。信用できる冒険者を付けるからダンジョンに行ってくれないか」
「ダンジョン! この近くにダンジョンがあるんですか!?」
「この街には無いが隣町に近い山沿いにある。馬ならば一時間掛からないが歩きだと結構ある距離だ」
(ダンジョンかぁ。どんなダンジョンなんだろう)
颯は最早ギルド長の話など耳に届かず、気に留めながら進まずにいるアイテムリストと魔物図鑑埋めに思い馳せダンジョンを楽しみにした。




