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ギルド長の家は思っていた以上に広くそしてなんとなく古さを感じさせる石造りの平家だった。
庭に井戸があることから比較的裕福な家なのかと想像させる。なぜならこの辺の大抵の家は長屋で共同井戸ばかり。個人宅に井戸があるのは珍しい。
「驚いた? この家二人で暮らすにはちょっと広すぎるのよね」
「二人暮らしなんですか?」
ギルド長とマリンの二人という意味なのだろうが、颯はマリンが二人暮らしを強調したのを感じなんとなく尋ねていた。
「前は賑やかだったの。グランのおばあさんとお義父さんもお義母さんも一緒だったから。でもみんな亡くなって、この家もすっかり寂くなってしまったわ」
「大変でしたね」
マリンがそうとは限らないが、颯の母が義母の介護をしていたのを見ているのでその姿を思い出しなんとなく呟いていた。
というより他になんと返して良いのか颯にはまったく分からなかった。
他人とこんな話をした経験も無いし、ましてや女性と話すことも少ないので会話のキャッチボールはどうも苦手だ。
「本当だったら私達にも子共が二人居るはずだったの。一人は生まれる時に亡くなった。早産だったのが良くなかったみたい。二人目は八ヶ月の時に突然だった。だからハヤテ君は私にとってあの子達の代わりみたいなものなの。気を悪くした?」
マリンは堅い笑顔のまま颯の反応を伺うようにしている。
颯が家の広さに驚いているのを見て話さずにはいられなかったのか、それとも今まで抱えていたものをただ単に吐き出したかったのか、または懺悔だったのか、颯にはマリンの心情が分からないので上手い慰めの言葉が見つからない。
「辛い話を聞かせてくれてありがとうございます。僕が代わりになれるかは分かりませんがこれからお世話になります」
結局颯はマリンの問いかけになんと答えて良いのか分からず思ったことをそのまま伝えた。
「もう、ハヤテ君はホント大人みたいでちょっとつまらないわ。もっといっぱい甘えてくれて良いのに」
(甘えて欲しいって雰囲気でも話でもなかったよな?)
「ハハハ…」
颯はやはり女性の気持ちはまったく理解不能と笑って誤魔化すしかなかった。
「だからその反応! …まぁ良いわ。これから一緒に楽しく暮らしましょう」
「はい」
家の玄関を入るとすぐに廊下で両側に三つずつ扉が並んでいる。入ってすぐ右側は納戸で左側がキッチン。後はそれぞれ広さが違う部屋が四つの簡単な作りだった。
「この部屋を使って」
案内されたのは納戸の隣の部屋。四畳半くらいの広さでベッドとサイドテーブルとクローゼットが置かれていた。
「もしかして客間ですか?」
「他の部屋はまだ片付けてないのごめんね。ここで我慢して」
「全然大丈夫です。寧ろ掃除しやすそうで助かります」
「あら、掃除してくれるの? 助かるわ。じゃあ次はキッチンに案内するわね」
キッチンの扉を開くと、キッチンと言うよりダイニングと言った感じ。
八畳はありそうな部屋の中央にダイニングテーブルが置かれ、部屋の隅に調理台とシンク(?)と竈などがある。そして勝手口もあり、出てすぐの場所に井戸があって水汲みには便利そう。
しかし…。風呂場がないのはまあ覚悟していたが…。
(トイレはどこに?)
まさか主寝室内に設置されているという事もないだろうし、もしかしたら外かと庭に回ってみるがやっぱりそれらしきものがまったく見当たらない。
「どうしたの?」
「ト、トイレはどこですか?」
「家の裏の通り沿いに共同トイレがあるわよ。場所を教えるから付いて来て」
まさかの共同トイレに颯は愕然とし、マリンに縋るように聞いていた。
「夜中もよおしたらどうするの? 急な腹痛や天気の悪い日は?」
「男の人は良いわよねどこでもできるから。どうしても我慢できないときはコレ使って」
出されたのはどう見ても壺。まさかのオマル生活。もしくは外で開放的にってことなのだろうか。
(いや、無理無理無理無理無理!)
颯は異世界に来て初めて不便を感じ絶望を味わいながら共同トイレを確認に行く。
外からの見た目は一応個室が三つ並ぶ公衆トイレ。恐る恐る中に入り確認すると蓋のされていない側溝が個室内に通っている。見ると底に水が流れていた。
(良かったぁ~。一応水洗だ)
しかしティッシュは置かれていないし、けして綺麗とは言えなかった。まぁ不衛生とまでは言わないが。
(ウォシュレット風生活魔法を開発するか自然に優しいティッシュが絶対に必要だな)
颯はどうしてこういうところはファンタジー適応されてないんだとフォルトゥナを恨んだ。
《フォルトゥナ様に罪はありません。これでもかなり改善され衛生的になったのです》
ナビは颯の心を読んだようだ。
《そういえば文明が停滞してるって言ってたな。きっとこれを不便に感じる人が居ないんだろうな》
日本も上下水道が発達するまでは普通に外でしてる人が居たと言うし、そんなものなのかも知れないと颯はどこか納得した。
しかしそれでもトイレ事情は早急に何か考えなくてはと颯は思う。
日本のアニメや小説界隈ではスライムが解決してくれたり、錬金術師が浄化機能付きトイレ作ったりしているし何かしら方法はあるだろう。
そしてしばらく考えて、この際目立つの覚悟で錬金術に手を出すしかないかと颯は深い溜息を吐くのだった。




