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「それは多分治癒魔法です。ギルド長、いったいどんなイメージをしたんです」
「治癒魔法ってあれか。王都にある大神殿でバカ高いお布施が必要だと噂されてるあの魔法か!?」
「いえ、それは知りませんが、少なくともギルド長の古傷を治したのですからある程度の怪我は治せるのではないでしょうか」
「俺はあれだぞ、風呂に入って疲れを癒やしスッキリさっぱりをイメージしただけだぞ」
颯はなんとなく理解した。ギルド長のイメージは多分新陳代謝を上げ細胞の活性化を促したのだ。それが結果として古傷さえも治してしまう『治癒』という効果に繋がったのだろう。
それにしても本当に簡単に魔法を取得してしまうギルド長に颯は心から驚いた。別に颯がチートだったのでは無いらしい。
実にこの世界の人達が羨ましい。まぁ今では颯も魔法が使えるようにはなってはいるが。
「良かったですね。高いお布施を必要せずに怪我を治せます。それにもしかしたら病気にも効果があるかも知れませんよ」
「そうなのか?」
「僕には分かりませんよ。治癒魔法を取得したのはギルド長なんですから一度検証してみてはいかがです」
少しだけギルド長に嫉妬して、颯も治癒魔法の習得を頑張ると誓い実行しようとした時だった。前触れもなく突然部屋のドアが開く。
「ギルド長、いい加減仕事に戻ってください。いったいいつまで隠し子と面談を続ける気です」
ドアを開けて入ってきたのは少し神経質そうな細身で髪の長い男性だった。年齢的には颯の実年齢とあまり変わらないように思える。
ギルド長といいこの人といい、この世界にはドアをノックするという風習は無いようだ。
「な、何を言っている。ハ、ハヤテは、か、か、隠し子なんかじゃないぞ」
途端に狼狽えだしたギルド長に颯も戸惑った。
「隠し子ってもしかして僕のことですか?」
「ええ、隠し子が突然訪ねて来て家にも入れて貰えないとたいそうな噂になってますよ。夕べはここにお泊まりですよね」
ニヤリとギルド長を揶揄うような笑みを浮かべる細身の神経質男にギルド長は慌てて訂正をする。
「家に入れて貰えなかったんじゃない。ハヤテを抱えて家まで帰れなかっただけだ。それに隠し子との面談ではなくちゃんと仕事の話をしてたんだ。俺がサボってるみたいな言い方はやめろ」
「へぇ、そうなのですか? こんな子共とどんな仕事の話をしていたのかとても興味があります。私にも是非お聞かせ願えますか」
細身の神経質男は疑うような視線を颯に向け、そのまま颯を品定めするかのようにジロジロと見るので、颯は失礼なヤツだなと思いながらもソファーから立ち上がる。
「ハヤテです。夕べこの街にたどり着きそのままギルド長にお世話になってしまいました。忙しいギルドにまでご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「おや、ギルド長の隠し子にしてはしっかりとした教育を受けているようですね」
颯の挨拶に対し上から目線なのが気に入らなかったが、颯は表情には出さずにそのままこの先の対応は任せるとばかりにギルド長に視線を流す。
「だから隠し子ではない。遠縁の子を預かることになっただけだ。それよりもユージーン、ハヤテは凄いぞ。俺の話を聞いて驚くなよ」
「はぁ…。今度は親馬鹿発言ですか」
ユージーンと呼ばれた神経質男はギルド長の話を信じないのか大きく溜息を吐いて呆れた様子を見せる。
「ハヤテの教えのお陰でどうやら俺は治癒魔法を習得したらしい」
「……正気ですか?」
「嘘だと思っているのか? なんとハヤテは魔法を使えるだけでなく教えることもできるんだ。まあ見てろよ」
ギルド長は颯が教えた生活魔法をユージーンの目の前で次々と披露する。ライトで部屋の中を照らし、点火は指先にライターのような小さな火を灯し、ウォーターで掌の上にコップ一杯分ほどの水の球を作って見せる。
「そして治癒魔法だが、ユージーンお前どこかに古傷か何かないか?」
「古傷とまで言えませんが、先日転んだときの傷とあざが膝にまだ残ってますがそれが何か?」
「その膝を見せてみろ。俺がお前の目の前で治してやる」
自信たっぷりな様子のギルド長に颯はどこかうらやましさを感じていた。
例えば颯なら一度成功したくらいでそんなに自信たっぷりになどできない。万が一失敗したらと考えると確実に習得したと思えるまで何度も練習せずにはいられいないし、ましてや誰かに自慢気にしてみせるなど絶対に無理だ。
多分ギルド長は誰もが認めるヒーロー的主人公で中心人物なのだ。だからギルド長が言っていた颯が目立っているという話もきっとギルド長と絡んでいたからでしかなく、事実颯はギルド長の隠し子として注目されているに過ぎない。
颯はこれがモブと主人公との違いかとどこか納得しながらギルド長の治癒魔法の成功を見守った。
「こ、これは…」
ギルド長の治癒魔法は見事に成功し、ユージーンも驚きを隠せずに黙ってしまう。
(ここで驚くのか? さっき見せた生活魔法は手品か何かだとでも思っていたのか。それともあの程度の魔法は驚くに値しなかったのか?)
そしてユージーンが覚醒するとその先はどこか既視感のある展開が続き、颯はユージーンにも魔法の手ほどきをした。
ギルド長とは違いユージーンはしっかりとライト点火ウォーターとクリーンの四つの生活魔法を習得したが、治癒魔法の習得はなぜかできなかった。
ギルド長も上手く説明できないし、颯もまだ見習得の上にユージーンがイメージしやすい説明ができなかったからだろう。
「まあいいでしょう。それより私はその魔物を倒したという攻撃魔法も是非見せていただきたいです。よろしければこれから一緒に腐界へ出かけてください」
「待て待て、忙しいんじゃなかったのか」
颯の手を取り今にも出かけようとするユージーンをギルド長が慌てて止める。
「ギルド長。魔法の発展より重要な事が今ここにあると思いますか! 私はギルド長が止めても行きますからね」
「それなら当然俺も保護者として着いていくぞ。お前にハヤテが守れるとは思えん」
(既に一人でその腐界を攻略して来てるんですけど…)
颯は二人に抗うこともできず、引きずられるようにしてギルドの応接室を出るのだった。




