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「そう言えば坊主はこの辺じゃ見ない顔だな。どこから来た?」
大男の質問に颯は慌てる。まさかフォルトゥナに転移させられ地球から来たなどと話せはしないし、そういう質問に対する答えを考えてもいなかった。
咄嗟にナビに相談しようとしてハッとする。
この大男も周りの人間もナビが言っていたようにナビを認識している様子はまったくない。
だとしたらここでナビに話しかけたら颯は独り言を話す痛い人間と認定されるか、もしかしたらナビが認識されることになり騒ぎになるのではないかと。
「えっと、冒険者登録するためにこの街に来たばかりです」
どこから来たの質問は無視して颯は咄嗟に思いついたことを話した。
「幼く見えるがいくつだ?」
「十歳です」
「それなら冒険者登録はできるな。それで寝るところは決まってるのか?」
「いえ、何しろさっきこの街に着いたばかりですから」
「なんだか随分と大人びた話し方をする坊主だな。まあいい。飯を食ったら登録してやる」
「登録してくれるのですか?」
颯は話の展開からこの大男が冒険者ギルドの関係者なのだと推測する。そしてこの後一人で冒険者ギルドへ出向き慣れない手続きをしなくても良くなったとちょっとホッとした。
「こう見えても俺はギルド長をしているんだ。任せておけ」
「ギルド長でしたか、色々と失礼しました。私はハヤテと言います。よろしくお願いします」
颯は大男がギルド長だと知り、少しだけかしこまり簡単な自己紹介のつもりで挨拶をする。
「あ、ああ。俺はグランだ」
ギルド長は何故か表情を硬くして自分の名を名乗る。
颯はギルド長が何故表情を硬くしたのかが分からず少し戸惑っていた。
《その方は颯様があまりも大人びた応対をなさるので訝ってるようです》
頭に響くナビの声にこれが念話なのだと颯は理解する。
《仕方ないだろう、中身は三十過ぎた常識あるおっさんなんだから》
《しかし見た目はそうではありません。彼は颯様を廃嫡された貴族か何か事情があって家出してきた貴族かと疑っているようです》
《何でそうなるんだよ》
《この世界には颯様のように明らかに教育を受けているような平民など一人もいません》
《それで俺が貴族だったら何か不味いのか?》
貴族ではないけれど、そのように勘違いされて何か問題があるのなら今のうちにちゃんと訂正しておきたいと颯は考えた。
《颯様が貴族だったとしたら、万が一親元に知られたら面倒事になるのではないかと彼は颯様の心配をしてるようです》
颯はギルド長が自分が面倒事に巻き込まれる心配よりも颯の心配をしていると知り、なんだか心がポカポカするのを感じていた。
頭をガシガシと撫でられたこともそうだが、颯は今まで他人にこんな風に接して貰った事が殆ど無い。親にだってずっと無視されるか放置されるかだった。
それに友達は颯に偶に絡んできてもただ愚痴を聞かせるばかり。
だから颯はいつも何でも一人で熟し一人で頑張って、他人に何かを期待することなどなかった。
《なんだか変な気分だ》
ギルド長はけして颯をモブ扱いしていないと実感し、なんだか慣れないことに気分が落ち着かなくなってくる。
「はい、お待たせ~」
サマンサが賑やかに現れ、両手に持った料理をギルド長と颯の目の前に置いく。途端に良い匂いが漂いお腹が激しく鳴るのを感じた。
見るとギルド長も颯も同じ煮込み料理なので、この店は実はおまかせメニューしか無いのではないかと思う。
「いただきます」
颯はたまらずに木のスプーンを手にして早速食べ始める。
何か分からない肉とゴロゴロした野菜の煮込みスープ。味はシンプルに素材の味だけだが颯にはそれで十分だった。
ちょっとだけ独特な癖のある肉の風味に一瞬だけ戸惑ったが、別に食べられないほどのことではないし、酷く不味いと言うほどでもない。
異世界の料理は不味いのが定番だったが、颯はこの程度なら大丈夫だと少しだけ安心し夢中で食べた。
「どうだ上手いか? よっぽど腹が減ってたんだな。サマ腸詰め腸詰めも出してやってくれ」
「は~い」
「ちょ、腸詰め!? それってウインナーとかソーセージですよね」
颯はこの異世界にも加工肉があるのだと知ってテンションが上がる。
「ああ、ここの腸詰め肉は親父の自家製だ。ちょっと高いが上手いぞ。エールのつまみにはもってこいだ」
颯は以前オクトーバーフェストに行ったことがある。勿論日本で開催されていた時に一人での参加だったが、この異世界でソーセージと聞いて何故か咄嗟にあの時のビールとソーセージの味が蘇る。
そして出された腸詰め肉。見た眼は颯の知ってるシーセージそのまま。期待を大きくしてガブリとかぶりつく。プチンと皮が弾け中から肉汁が溢れでる。
「しょっぱぁーーー!」
肉の味より先にしょっぱさが押し寄せた。
期待していただけに颯はとてもガッカリし、思わずギルド長の飲んでいたエールのジョッキを取り上げ一気に飲み干した。
(これはビール無しでは食べられないわ)
エールもどこか想像していた味と違う。薄いのに苦いって感じだ。だがつまみにもってこいと言うだけあって口の中からしょっぱさが一気に洗われ肉の風味を深くする。
「これは案外イケますね」
「あらぁ分かってるじゃないの。はいおかわりよ」
サマンサは頼んでもいないのに颯にエールのジョッキを差し出した。そのタイミングはまさにお客の要望を見逃さない神店員のようだ。
なので颯はついいい気になってエールを片手にソーセージを完食する。
「お、おい。大丈夫か」
「らいじょうぶれす」
お酒にはそう弱くない自信があったのに、何故か呂律が回らなくなった颯はその場で倒れてしまうのだった。




