15
「この魔石を取り出す魔法は効率が悪いな」
何度か使ってみたが、まず魔力の腕が延びていくスピードが遅い。それに全然スタイリッシュではない。颯は改善を試みたがイメージが定着してしまっているのか全然まったく改良されない。
(これはもうやっぱり魔石を体内から転送できるイメージを確立するしかないか。でも何がダメで成功しないんだろう・・・)
そもそも転送とか転移の魔法を先に作り出すしかないのかと颯は考えてみるが、転移の魔法をそう簡単には作れないような気がしていた。もっとじっくり考える時間が必要なのだろう。
それにもしかしたら生きた魔物から魔石を転送させるというか取り出すこと自体が無理なのかとも考えていた。
今颯が使っている魔法は魔力の腕を魔物の体内に侵入させ魔石を掴んだ時点で死亡扱いになり成功しているのではないかと。
「そう言えば颯様。フォルトゥナ様がこれからは魔物も獣同様の方法で倒せるようにすると仰ってました」
「何!?」
「これから魔物は核を破壊しなくても消滅させられます」
颯は核を破壊しなくても魔物を倒せるようになったということよりも、獣同様と言う言葉に反応していた。
しかしナビは肝心の報告が送れたことに颯が反応したと思い颯の様子を伺っていた。
ナビにもどこか人間味が出てきたのか颯への対応に順応し始めたのかは定かではないが、少しは進化しているのかも知れない。
「獣って・・・。魔物と獣って違うのか?」
この世界がゲーム世界のようだと思っていた颯はまさか魔物の他にも獣の存在があるとは思ってもいなかった。
「魔物は魔素で作られた生物で、基本魔素の強い腐界やダンジョンでしか活動しませんが、獣は世界中ありとあらゆる場所に生息しています。ただし人口の密集する場所にはあまり寄りつきませんが」
颯は困ったと頭を抱えた。魔物は倒せば簡単に消滅してくれるが獣となったらそうはいかないのではないかと考えたからだ。
解体もできないのに獣から入手できる皮や牙に肉といった有効素材がアイテム扱いでアイテムリストに載るとなると颯には手に入れないと言う選択肢がなくなる。
魔物はその姿が黒っぽくてまるで獣臭がなく、紫色っぽい靄となって消滅していくからゲーム感覚で攻撃できていた。
しかしこれがリアルに血を流し倒れる獣相手に今までと同じように対峙できるかまったく自信がない。
可哀想なんていう同情心ではなく、そもそも動物園にも小学生の時に遠足で行ったきりの颯は獣をリアルに感じたことがないのだ。
テレビでは何度か野生動物の生態や狩りの様子など目にしたことはあるが、颯はもっぱら子犬や子猫などに癒やしを求めるだけ、その多くも画像でのことだった。
動物とふれあったこともあまり無く、獣と対峙したことも無い颯に本当に戦えるのか自分でも疑問だ。
「獣って普通に動物なんだよな? 放っておいても別にいいよな?」
「別に構いませんが向こうから襲ってくることもありますよ。それに皮や肉など売ればそれなりに金額になります」
それなりの金額には颯は興味はなかった。魔物を倒せば現金が手に入るし、そもそも贅沢を望んでもいない。平凡で平穏な人生にちょっとプラスがあればそれで十分だ。
「ちなみに聞くんだけど、それってアイテムリストに載るのか?」
「はい。私の異空間収納に預けていただければ載ります」
「載るのかぁ・・・」
颯は大きく溜息を吐いた。そしてもうこの際アイテムリストを埋めるのは諦めるかと考えているとふと名案を思いく。
ピコン! ってヤツだった。
(獣を倒すと解体され有効素材だけにしてしまえる魔法があればいいんじゃね!?)
そうすれば変な罪悪感もなく血を見ることも無く素材だけを手に入れられるじゃんと颯のテンションはかなり上がった。
「そうとなったら絶対にこの魔法だけは成功させてやる! まずは獣の解体後のイメージで魔物が魔石を残して倒せるようになるまで練習だ!!」
颯は新たな目標を見つけ意識を集中させて辺りに気配のある魔物を次々と見つけだしては倒していく。その集中力はもの凄く、この腐界にいる魔物を狩り尽くす勢いだった。
「フフフッ。この俺にもう怖い物は無いな」
ハァハァと肩で息をしながら颯はほくそ笑む。颯のイメージ通りの魔法を習得できたのだ。
そして気がつけばすっかり日は傾き、体は疲れはてかなりお腹も空いていた。
「さすが颯様です。ドロップ品はすべて異空間収納に移動させました」
ナビも何故か嬉しそうにしている。
「助かるよナビ。ありがとう」
ドロップ品をいちいち拾わなくていいのは本当に助かっていた。
颯がもしそれをしていたなら疲れはこんなものではなかっただろうし、解体魔法の練習も捗らず習得もままならなかっただろう。
それに解体魔法で魔物を倒すと魔石も手に入りドロップ品も手に入れることができて一石二鳥というやつだった。
もう解体魔法以外で魔物を倒す理由が見つからない。まぁ。派手な魔法を使ってみたい願望も衝動も無い訳ではないが効率が一番だ。
「どういたしまして。私は颯様のナビですから」
なんとなくナビの話し方が柔らかくなり言葉遣いも変わってきていると颯は気付き、このまま一緒に行動していたらもっと友達っぽくなれるかも知れないと淡い期待を抱く。
モブ生活の長い颯でもやはり心から信頼できる友達は欲しい。もうこの際それが人間で無くても良いと颯は思うのだった。




