1-1金欠カバタとモネの娘(4) 金欠をこじらせたサラリーマン、再訪
蓮見さんと出会って、半年。真夏が近づいていた。
「ダメだぁっ!」
ベッドで悶える僕。
生活は変わらず、神社に通っても状況は好転しない。境内を出るたび、背後から――時には足にしがみつくように「離さないぞ」と言われている気がして、仕方がない。
ギャンブルは外れ、車は壊れ、ローンで新車――もう笑う元気もない。
結局、弟と友人に援助を頼み、ふたりの同行で再び蓮見さんを訪ねることになった。
「兄さん、本当にその人で大丈夫かよ……」
道中、弟は心配そうだ。けれど、行政や専門機関に相談しても解決できず、支援金・給付金といった制度も使い切った。いま頼れるのは彼女だけだ。腹を決めて行くしかないんだ、弟よ。
カフェ『百音』の門前に立つ。僕だけが「ここだよ。」と先に足を踏み入れる。
肉まんは一歩引き、弟と顔を見合わせていた。
「弟くぅん、なんかここ……ゾワッとしねぇ?なんか肌がピリピリするよぅ…。」
「ええ…そうですね。」
弟が門を見上げてひとしきり訝しんだあと、肉まんと顔を見合わせる。
「何もないのに、足が重くなりますね。」
「…お前の兄ちゃん、一人でよく入れたよな。」
2人がなかなか入ってこないので振り返る。
「2人とも、緊張しすぎだよ~。蓮見さんはフランクだよ?」
……うん、嘘は言ってない。
店内では、変わらず蓮見さんが出迎えてくれた。陣取っている場所も同じだ。彼女は静かに会釈し、席を勧める。肉まんは後ろに隠れ気味で、弟が代わりに軽く頭を下げた。
「お前、やっぱり来たんだねぇ。」
呆れたような第一声。相変わらず、お口が悪い。2人は話に聞いていたその人を前に、少し面食らっている。
勇猛果敢に弟が前に出る。
「兄さんが困ってるから来ましたが、本当に信じて大丈夫なんですか?」
蓮見さんは微笑むだけで返さない。
弟よ……開口一番に噛みついてくれるな、と祈る。
一方、肉まんはソワソワと店内を見回し、「隠し部屋とかあんのかな、っふぅ〜〜!」と囁く。弟が「落ち着いてください」と小声でたしなめる。
蓮見さんが名刺を差し出した。そういえば、もらってなかった。
「神仕いの蓮見紫瑞です。先日はどうも。」
シスイさんというのか。
「こちらこそ。」僕は頭を下げ、弟と肉まんを紹介する。
彼女は2人の顔を見て、くつくつ笑う。
「風鈴が鳴ったからどんな奴が来るかと思えば……お前たち、面白いねぇ!気に入ったよ。」
肉まんから「ふほぅ……!」という変な声が漏れる。美人に弱い彼に何か刺さったらしいが、放っておこう。弟は……なにか考えてそうだな。
「お前さんには悪いことした。“そいつ”を本気にさせちまったみたいだね。」
神社通いが無に帰す“本気”?
「“その友達と遊ぶのはやめなさい”って言われたようなもんさ。せっかく見つけた友達を、必死に手放さないようにしてるんだ。……辛かったろう。」
蓮見さんはタブレットを出して、淡々と金額を提示する。
「…しかし、なんでそこまで気に入ったのかねぇ。」彼女は笑って言う。
「あぁ、この分はまけとくよ。」
2割引き!正直、ありがたい。
肉まんが興奮気味に尋ねる。
「ここでやるんですか? 道具は? 式神は?!」
彼の暴走を制止するように弟が「少しいいですか。」と切り出す。
「除霊のやり方や、効果の確認方法は?結果はどう証明するのでしょう?」
僕のことを思っての発言に、何も言えなかった。
「兄さんはすぐにお金出しちゃうから、…心配で。」と彼女を下から睨む。
蓮見さんは肩を揺らして笑う。
「当然の質問だね。だが、方法は任せてもらうしかない。明言して爪を立てられると、痛い思いをするのは兄さんだよ。
“視えるプラン”もあるけど別料金だ。どうする?」
手のひらを出して、「ざっと、これくらいだね。」
おそるおそる確認する。
「……5万、円?」
彼女はにっこり微笑んで言った。
「桁が足りないね。」
「ひぇゃっ」3人揃って情けない声。
「3人まとめて“アレ”が視えちゃう、お得パックさ。」
「そいつの除霊と同じくらいかよ!」
肉まんが騒ぎ出す。こういう時、特にうるさい奴だ。他に客がいなくて本当によかった。
「ごめん、兄さん。やっぱり……信じられないよ」
そこへ、黒いスーツの男女が店に入ってきた。
弟が「自分が呼んだ」と目配せをする―