1-1金欠カバタとモネの娘(2) ーカバタ:バッドステータス【金欠】▷回復しますか?ー
――そして今、僕はここにいる。
目の前の蓮見さんが、細い指を突きつけて言い放つ。
「お前は、金欠さ!」
軽いのに、反論の余地がないほど真っ直ぐな口調だった。
「……」
言葉に詰まる僕をよそに、彼女は蜂蜜ウインナーコーヒーを楽しんでいる。
あちら側の世界の人間は変わり者が多いと聞くが…。そもそも、この女性は社会人かどうかも怪しい容貌だ。
――本当に大丈夫だろうか。
「あの、バッドステータスって何ですか? 僕、呪われてるんですか? 施術はもっと大人が……」
「一気に聞くもんじゃあ、ないよ。」
蓮見さんは姿勢を正し、前髪を整えてから言った。
「まず、言っておこう。お前が望む限り、私、蓮見紫瑞が請け負う。蓮見家の名において、依頼は必ず遂行する。安心したまえ。」
その一言には妙な威厳があった。
「さて…バッドステータスってのは、呪いによる状態異常さ。」
そう、そこ気になる!僕は身を乗り出した。
「呪いって……神や妖怪の仕業とか?」
「それもあるが、呪いは環境や本人の原因でも発現することがある。“毒”や“麻痺”のように単に身体状態に作用するというより、本人の認知や行動に影響するものを指す類のものさ。」
「…生活環境、ですか?」
「そうさ。奇々怪界な力なんて必要ない。…呪いと言えば大げさだが、軽微なものは皆ある。
歪さを持たない人間なんて居やしない。そんな奴は人外さ、ふふふ。」
コーヒーをひとくち。言葉の余韻が残る。
「ネーミングも曖昧なもんさ。呪いで一括りにするには面倒だから、便宜上適当な名をつけているだけさ。」
……。
「そろそろ、お前の話をしようか。お前は金欠。それで、どうしたい?」
ハッとする。彼女の話に没頭していたせいで、自分の目的がぼやけていた。
「僕を、元に戻してください。」
「ふむ。バッドステータスの解除なら自力でできるが…」
ーえ、自分でできるの?
蓮見さんはタブレットを取り出し、画面を提示する。
「でもまあ、商売だからね。私がやるなら、これくらいだねぇ。」
『ランクC− 八十萬円也』
……目を疑った。
「高いかい?」
またあの楽しげな笑み。こっちは笑えない。
「……無理です。」
支払いの算段を巡らせるが、どう考えても無理。
「これでも、三守の紹介だから特別価格さ。」
「……これで?」
肉まんおすすめの判定家、三守さん。
信じていいのか…?
余裕そうな彼女の顔が一瞬歪む。子供に言い聞かせるように言った。
「いいかい、相手は神だ。他所じゃもっと取るか門前払いさ。嫌ならやめときな。でも、即解決を望むなら――私が適任さ。」
その目線はまるで出口のない深い穴のようだった。
――騙されちゃいけない。
無駄金は使えない。もう失敗はしたくない。
胸が苦しい。焦燥と恐怖が入り混じって、まともに思考が回らない。怖い!仕事を失うのも怖い。転職も、噂されるのも怖い。 でも、このまま金欠でいるのも怖い!!
パンッ!
「っ!!?」
一瞬息が詰まり、心臓が跳ねる。
すぐに状況が理解できず僕は目を白黒させる。
蓮見さんが、突然立ち上がり、僕に猫だましをかましたのだ。
ぽかんとした僕の目と、彼女の目が合った。