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999%の努力

「それではあなたの能力を発表します。それは……」


努力こそ正義(ジャスティスメーカー)


こいつはなろう系を初めて書くのか?とでも問いたくなるようなダサい名前は受け止めることにしよう。俺はそれ以上に気になることを尋ねる。


「能力の詳細は?」


そうだ、実用性さえあれば何だっていいのだ。何だろうと俺ならばきっと上手く使いこなせる。


「はい。このスキルは『努力によりあらゆることを実現させる』という効果になっております。」


期待はずれだった。いや、それ以上に俺への皮肉としか思えない。ふざけているのか?


「努力だと?お前は俺の人生を見てこなかったのか?俺は努力なんてせず転生者として手軽に最強になりたいんだ。なんだこのゴミのような能力は。」


あまりにもガッカリな能力に俺は上位存在へ怒りを露わにする。死者とはいえこんな振る舞い命知らずにもほどがある。だがしかし俺は努力などしたくないというお気持ち表明を無理やりにでも通すのだ。こんな能力、無能力者と同じじゃないか。


「ゴミとは失礼な。あなたはこのスキルを『努力をしなければ何も得られないスキル』と思っているようですが、その本質は努力さえ捧げれば世界征服すらも容易い、実質的な『無償の全知全能』であります。」


「ふざけるな。何が無償だ。努力とは目標を達成するため自らの肉体をすり減らす行為だ。何故他に楽に目的を達成する方法が見つけられるにも関わらず、好き好んで自らの肉体を犠牲にするのか。」


「はあ〜〜〜〜……このクソ死者がよお〜〜〜…」


この言葉遣い…こいつは本当に女神なのか?やはりただの女神を自称する異常者かと思いたい。俺の中の女神はどんな横柄なクレーマーにも笑顔で対応するものだ。


「いいですか?努力とは物質を何も消費せず何度でも行える、いわば『再生可能エネルギー』なのです。スキルを使えばそのエネルギーをそのままこの世の全てに変換できる。WOW、貴方の世界で人類が苦しんでいたエネルギー問題が一瞬にして解決したではありませんか。」


このとんでも理論に頭痛が痛む。持論を語るな。俺は華麗に反論してみせる。


「再生可能だ?いいや、努力の過程で発生した肉体的苦痛や精神の損害は回復できない。そんなことも分からないのかこのドク……



「そうやっていつまで逃げ続ける気だ?」


どすのきいた声が辺り一面の闇を吹き飛ばすような錯覚に陥った。暗闇を振り払い、少し青みのかかった悲哀を想起させる一風違った闇が脳内にまで侵食してくる。


「別によ?お前の代わりの転生者なんていくらでもいるんだわ?なんでそんな文句言われてまで、お前にこんな貴重なスキルを与えなきゃなんねえんだよ。」


やめろ……


これは23歳の時初めて現場の上司に怒られた時と同じだ。


「ああいいよいいよ。別に無理にスキル受け取れなんて言ってないから。」


怒りというより呆れ、見放す姿勢、何よりも恐ろしい叱責が音速で飛んでくる。


「はい、とりあえずどっかの赤ん坊に魂だけ移してやるから後は自分でなんとかしな……」

「やります!そのスキルで!俺は異世界をチート攻略していきます!やりたいです!やらせてください!」


…別に怯んだ訳では無い…そう、これは無意味な叱咤をここで止める合理的な返答…そうだ…きっと……


「…よく言った。それでこそ主人公ですね。」


再び元の明るく少し耳障りかもしれない高音が鳴る。そして脳を蝕んでいた闇が霧散していく。今感じているのは安堵なのだろう。


「それでは!楽しい無双ライフの始まりです!新しい人生をお楽しみください!」


気を取り直した女神は神速で話をゴールへ送る。そのテーマパークのアトラクションのような軽快な挨拶を最後に意識は薄れていった………



……………


【0歳】

「ママ!赤ちゃん!ママの赤ちゃん!生まれた!ママの赤ちゃん生まれた!」

「パパ!これパパの赤ちゃんよ!あたしママだけどパパの赤ちゃんよ!」


やけにテンションの高い歓喜の声が聞こえる。これが親の声だと理解するのに数秒かかった。それに混じる自らの泣き声。ただ出産直後の呼吸のために本能的に泣いているのか、こんな奴らが親であることに泣いているのか分からない。非常に残念なことに前世の記憶を持つ俺は生まれて数秒にしてこの家庭環境に絶望することになった。


【0歳1ヶ月】

なんだ、意外といいものじゃないか。


この家は俺に見合うだけの豪華な屋敷だった。コレで何不自由ない貴族生活を送れることが保証された。さらに彼らは俺を溺愛してくれている。腹が減っても、おしめを変えて欲しくても、精神年齢に見合わず寂しくなっても、泣き声ひとつあげる隙も無く迅速に適切な世話をしてくれる。彼ら親というのは超能力者なのであろうか。自らが真の能力者であることを忘れてこのように思う。

それゆえか前世の記憶を引継ぐ者は決まってやる0歳からの能力検証、及び能力向上…そんなこと俺はしなかった。俺は怠惰なのだ。歳が自然数にならない(0を自然数に含める者への配慮はしない)内はひたすら甘いしるを吸うことに専念しよう。


【0歳3ヶ月】

もっと早く気づけなかったことをひどく後悔している。


これは先程のこと。精神年齢77歳3ヶ月の野郎が体に優しい甘さの生温い乳を吸いながら、実の母を車のようにし屋敷を闊歩していたときだ。ふと壁にかかった鏡が目に入った。鏡越しに集合写真でも撮れそうな不必要な大きさの鏡だ。そこで俺は知ることになる。


エピソード0(歳)にして自らの未来がブサイクライフで確定した。


はっきり分かる。顔の皮膚はだるだるで、パーツの配置もひどく適当だ。まるで福笑いだな。このまま自らの足で学友の元へ毎日歩く歳にもなれば……漫画化もアニメ化も出来ない酷く見苦しい顔になるだろう。この小説が書籍化された暁には俺が第1巻の表紙を華々しく飾る予定が崩れてしまう。


だがしかしどうしたものか。問おう。天賦の才と言われれば何を思い浮かべる?筋トレでは説明のつかない馬鹿力、IQが4桁とも思えるような知恵、全米を泣かせるヴァイオリン奏者。これは必ずしも天賦の才と言えるだろうか?俺はそうは考えない。どうにも説明のできない才・力とはずばり



日々の生活習慣では説明のつかない、顔面偏差値が4桁とも思えるような、全米を惚れさせる容姿。



これである。


顔が良いだけで性格が悪かろうが、取り柄が無かろうがモテるのだ。そもそもなぜ良い容姿の者がモテるのか。それは素晴らしい容姿こそが強い子孫を残すからだ。

顔は何で形作られているかといえば勿論表情筋…筋肉である。つまり顔が良ければ力も強い。

顔…大きく言えば頭には何が詰まっているか…脳である。つまり顔が良ければ知恵がある。境界知能の人々、悪くいえば発達障害の者達がなぜ容姿だけで何となく察せられるのか…知恵=美だからだ。

さらに体調の悪い者を顔色が悪いと形容するだろう。それは健康状態が用紙に現れることを証明している。つまり顔が良ければ免疫力もある。

顔の良い者と交われば素晴らしい遺伝子を後世に残せるのだ。


つまり自らの優性遺伝子を世に証明し無双ライフを送るには端整な容姿が必須。だがしかしこの天賦の才ランキング殿堂入りの産物は努力などでは到底どうにもならない……


……努力なんかでは……………


そこにはごく単純かつ簡潔な解決法が存在したようだ。

初心者×会話を主体とする小説…それは駄作である。

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