第一話SIDE:Æ ノクス、奴隷を飼う
注意
この物語は人によっては不快になったりします
ここから先見てみようっていうなら
頼む。最後まで突っ切ってくれブラザー!!
〈1956年3月14日 午前4時頃〉
前回、現代に突如として現れた『死を纏う魔人』ノクスは、
ヴラスの南部に位置するヤルスク村と、その隣のタイガンスク村の民を皆殺しにし、
生き残っていたアルバという少年で遊んだのちにヴラスから離れようとしていた…
で、彼は今、隣の国であるビテロ行きの特急列車にぶら下がっている。
(いや〜もう二度と行かねーあんな寒いとこ!反応はいいけど、やっぱ寒いとダメだな!腹壊す!)
車両は全部で15両、乗客も大勢いるこの特急列車は、行き先はヴラスとビテロを行き来していて、かなりの速度で走っている。
速度が出ようと馬力が出ようと彼はそしらぬ顔で過ごし、なんとノクスは平然と車両の上にへばりついて移動している!
そしてかれこれヴラスの駅を出てから約8時間が経とうとしていた。
着くまでの間、ノクスは乗客が寝静まっている間に車両を1つずつ襲っていき、着く頃には運転士すら手にかけていた。
自動操縦であるため運転士がいなくとも動くこの列車がビテロの駅に着く頃には……人々にとって異様な列車へと変わり果てていた、駅で待っていた他の客や駅員が見たのは、異臭を漂いながら走る遺体だらけの先頭車両だけだった。
のちに調査され、合計およそ2200人ほどの乗客と思わしき身元不明の遺体が、車両ごとに横たわっていたと言う。
そんなことはどうでも良く、その後ビテロに着いたノクスは、自らの住処へ戻るために路地裏を陰に潜みながら練り歩いていた。
一方、路地裏近くの空き地では口枷や手枷などの拘束具をつけ、縄で縛られた全裸のトカゲ型の半獣人を引き連れた、獣人の若者たちのグループが手に入れた劣等種のことを、薬物を乱用しながらはしゃぎ騒いでいた。
「なぁ見ろよこれ〜コイツがついさっき奴隷市場で売られててさぁ〜つい買っちまったんだよね〜」
「うお!!スッゲー!!ハチュー類の半獣人とか超珍し!!いくらで買ったんだよこんなやつ!!」
「それがさぁ?なんと2Sポッキリで買えちまったんだぜ〜いいだろ〜!」
「なぁ?アソコがどうなってんのか見てみようぜ?人間のヤツのか爬虫類のヤツなのかどっちなのか、俺気になるぜ。」
獣人の若者たちが、トカゲ型半獣人を抑えつけ、無理矢理確認してみようとしたそのときだった
「なんだお前ら。こんな朝っぱらから何盛ってんだよ。オレも混ぜろ。」
「混ぜろだぁ〜?いい度胸………」
声がした方向を振り返った獣人の若者が見たのは、路地裏の影から眼球を覗かせる『死を纏う魔人』であった。
「う、うわぁ!!出た!!本物だ!!」
なんだなんだと思い、トカゲ型半獣人から手を離して振り返った他の獣人の若者達も目線をその先に合わせひどく怯え、腰を抜かした。
「ひ、ひぃぃ殺さないでくださィ〜〜!!」
「命だけは!!ね?助けてくれますよね!?」
「……何言ってんだお前ら。オレはそこの半獣人に興味があんだ。ちょっと触れ合わせろ。」
「あ、あなた様こそ何を言ってるんでございましょうか…?まさか、アレを代わりに…?」
「だから何言ってんだお前……あのね、オレはお前らが楽しそうにやってるの見たからオレも混ざろうと思ってきたの。壊しにきたんじゃねぇさ。わかる?」
ノクスが獣人たちを払いのけ、縛られた劣等種に近づこうとしたとき後ろからパァン!という音と共に煙が上がったのが見えたノクスは、背中を触りながら後ろを振り返って立ち上がる
「へぇ〜これがピストルっていう科学で作られた新しいおもちゃか!おもしれー!今のは結構効いたぞ。ちょうどそこ凝ってたんだ、もう一発行けるか?」
「ち、近寄るなぁバケモノォォ!!!」
ピストルを構えていた獣人の若者は恐怖に駆られ、ピストルをノクスの顔目掛け叫びながら乱射したが、銃弾は当たるどころか目の前で粒子となって消えてゆき、その獣人の目の前まで近寄り、ノクスは銃口を自らの頭にくっつけ話し始めた
「でさ、なんでお前らここにいたの?オレが見てないところでコイツ弄んで遊ぼうってわけ?悲しいじゃん!オレのこと呼んでくれたっていいのにさぁ。呼ぶ手段がなくともオレの名前叫べばオレは一瞬で来るぜ?」
そう威圧したノクスに恐怖を感じ縮こまった獣人の若者の足を踏んづけながら淡々と続ける
「なぁそう悲しい顔すんなよ。おい!そこの後ろでチビってるお前らもさぁ、な?コイツで一緒に弄ぶんじゃなかったのかよ?」
「や、やめろ!!来るな!!」
「そ。なんか、お前もうつまんないわ、ばいばい」
「え?」
獣人の若者が困惑の言葉を口にした時にはもう既に少年の体は頭から崩壊して行き、一瞬にして肉体が無くなった
「ひ、ひゃぁああああああ!!!」
「そう情けない声出すなって、オレは楽しみたいだけさ。……さてと」
ノクスがトカゲ型半獣人に近寄り、顔を撫でながら言葉を続ける
「で、どうする?このまま暴れる?ここでくたばる?お前はあんな奴らみたいにへなちょこじゃねぇと思うから賭けてみようか。」
そう言いノクスはトカゲ型半獣人を拘束していたものを、手のひらから出た蒼い閃光と共に全て破壊し、拘束されていた黒い鱗を持つ虚な目をした半獣の少年を解き放ったのち、その後ろでノクスは腕を組みながら言った。
「うし、残り3人!楽勝だろ?どう始末するか見せろ。面白くしろよ。」
横たわっていた身体を起こして姿勢を正し、黒い鱗の半獣人はこれから狩りをする獣のように身を沈め、鋭く構え目の前の獣人達を睨む。
「ひっ……ち、近づくな……!」
「な、なにビビってんだよお前!こ、こんな劣等くらい俺たちにも殺せるだろ!?」
「でもよ……『死を纏う魔人』が見込んでる相手だぞ…噂通りだと──
噂とやらを語ろうとした1人の獣人の若者に『シャアアアァァァァッ!』と叫びながら、黒い鱗の半獣人が確実に仕留めるように飛びかかった!そして、振り解こうとする身体を押さえつけ、全身の鱗をカミソリのように尖らせ、少年の口から生えてるとは思えない猛獣のような牙で顔を抉るように噛みついた!
「う、うわぁぁぁああああ!!どうすんだよこれ!!このままじゃ死んじまうぜ!!」
「そうだ、ピストルだ!!貸せ!!」
黒いを鱗を持つ半獣人の少年は噛み付くのをやめ、次はピストルを受け取ろうとしていたその獣人に飛びかかり同じように噛みつき始めた!
先ほど噛みつかれた1人の獣人は、顔の頭蓋が砕けちっており、まるでそのまま生きて喰われたかのような苦痛の表情のまま抉れた顔で確実に殺されていた。
続けて飛びかかられた別の若者も、眼球も鼻も表情筋も関係なしに、柔らかい肉のように抉られその半獣人の少年はどこか、幸福に包まれているような眼でその肉を貪っていた。
最後に残った獣人の若者が勝ち目のなさに臆して、命からがら逃げだそうとしたときだった!
突然その黒い鱗の半獣人が『ゲルルルルル』と低い声で唸り出したかと思えば、いつのまにか肉が裂けていた腕を、一瞬で捕鯨砲のような構造に変え、その獣人の若者目掛けて、生物から構成されるとは思えない鎖のついた銛のようなものを確実に後頭部に突き刺し、引き寄せたのちにさっきのようにまた貪り始めた!
すると、腕を組んでいた姿勢をそのままに『死を纏う魔人』がその小さな猛獣へ向かって、喝采するかのように手を叩きながら語りだした。
「いいねぇ〜〜久々にとても面白いヤツだ!オレはこういうヤツを求めていた!……だが…オマエ、食人ってヤツか?正直に言うと知的生命体の肉は恐怖の味以外ゲロ不味いぞ。よく言うだろ?スパイスのねぇ肉は不味いって。」
魔人の語った言葉に反応し、後ろを振り返った半獣の少年がやっと人間らしい口を開き、言葉を交わし出し始めた。
「あ!あなた……だよね。『死を纏う魔人』って言うのは。あなたが本物の『ノクス』っていう人で合ってるよね?」
「ん?あぁ……まぁ〜〜〜うん、そうだが?それが何か?」
その半獣人が顔を俯き、直後に嬉しそうにしながらノクスの足元まで飛び掛かったと思えば…急に早口になり色々と語り始めた。
「やった!やっと会えた!!やっと死にたがりのボクの目の前に『死を纏う魔人』が来たぞ!!噂通りでは『それは昼夜を問はず現れ、焼け爛れた皮膚を持ち、破れた布を纏ひ、瞼と鼻無く、歯茎を露しし顔に、割れた爪や少量の髪の生えたる、蒼色の光を放つ破壊の化身なり。情けも慈悲も無く、故に死を纏ひぬ。』だっけな?どんな見た目かよくわからなかったけど、なるほどこういう感じか……確かここ最近で多発してる死亡事故とか殺人事件は全部あなたのだったよね!?ボク見たもん!!あなたが数日前ここらへんで誰かを痛ぶってたの!あれ羨ましかったなぁ〜……あそこはボクの番だったのに…!まぁでもいっか!やっとここで会え──
ノクスは足にまとわりついた黒い鱗の半獣の少年を払いのけそっぽを向いた
「オマエ騒がしい。帰る。」
「あっ………ねぇ!ちょっと待ってよ。」
しれっと陰に溶け込み立ち去ろうとする『死を纏う魔人』は、黒い鱗の半獣人の少年から呼び止められた。
「なんだ。オレは熱烈なファンを求めてるんじゃなくて楽しませるやつを求めてるだけだが。」
「……えっと…せめて、あなたの目的だけ聞かせてほしい。」
呼び止められたノクスは立ち止まり、見下しながら言った
「ない。以上。オマエは?」
「ボクもない……かな。」
「あっそ。帰る。」
ノクスは明後日の方向を見て今度こそ帰ろうとしたが…
「……………ねぇ!待ってよ!」
再び黒い鱗の半獣人の少年に布を引っ張られながら呼び止められた。
「しつこい。要件はなんだ。」
少し呆れながらもノクスは振り返って、黒い鱗の半獣人の少年の小言を聞いてやることにした。
「あの〜……ボクのこと連れてって欲しいな〜……なんちゃって……?」
「なぜオレがオマエを連れて行かねばなるまい。関係ないだろ。」
「無理ならいいんだけど……その、絶対役に立つからさ!ボク、あなたのそばにいたいな〜って…だからえと……連れて行って欲しいかな?」
黒い鱗の半獣人の少年は、犬のように尻尾を振りながらそうノクスに伝え、それに対しノクスは深く考えたわけでもなく、その半獣人少年の目線の高さを合わせて言った
「いいぞ!ちょうど暇でな、たまには悪くない。気に入った。」
「ほ、ほんとに!?いいのついていっても!」
「あぁ。だが……役に立たなかったらそれまでだ。いいな?」
「やった!!ありがとうございます!!」
黒い鱗の半獣人の少年はさらに嬉しそうに尻尾を激しく振ったりして喜んでいる。
「で、オマエ名前は?」
「名前?…そっか、普通は名前くらい付いてるよね。ボクの名前か……」
そして半獣人の少年は少し俯きながら言った
「名前、ないんだ。奴隷だから。」
「は〜ん、奴隷ねぇ〜……その"力"があってもか。」
「"力"……?」
「そ、"力"。まずオマエはさっきのやつからして、身体能力はそこらへんのやつよりは高いはずだ。フツーいきなり飛びかかって食い殺すなんて芸当出来ねぇよ。それになんだ?あの能力。」
「能力………ってなんです?」
「なんだ、そこから説明か。」
ノクスは黒い鱗の半獣人の少年を抱き抱えたのちに座らせ、自身も転がってる獣人死体の上にあぐらをかきながら説明し出した
「能力、いわばこの世界に生きる動物が基本的には持ってる『第六感』みたいなものだ。基本的に発現するのはヒト科の奴等だがな。能力は選べない、そいつに左右される。たまーに土地とかが持ったりするけど意志があんのかはオレにはわからねぇな。ま、そんな感じだ。例えば……オレの能力は『触れさえすれば如何なる物質をも破壊できる』とでも言おうか?気化しようと液化しようと、硬度も温度も関係なくな。ただ…オレの肌が触れてないといけない、あとブラックホールとかみたいなのは破壊できないな。それに、このオレが衣服を纏うというのはある程度、手加減してやってる証拠だぜ?」
「でも、この前ボクがあなたを見た時に能力はそんなに使ってなかったよ?なんで?」
「すぐ破壊しちゃつまんねーだろ?確かにオレが、さっきみたいにピカッて蒼い光出したら破壊しちまうが、知能が高い生き物ほど快楽を求める。それは媒体問わず、な。で!オレはそれを人間のように『残酷に痛めつける』ことで楽しんでいる!それだけだ。だからすぐ壊さない。」
「へぇ、あなたにも楽しむっていう感情があるんだ?」
「ま、そうだな。で?オマエのその能力は?」
「ボクのは……いつから身についてたかわからないけど、生まれつきなんだ。さっき見たでしょ?ボクの口から牙が生えたり、腕が鋭くなったと思ったら勢いよく飛び出たりしたの。多分、ああいう感じなんだろうけどさ?ボク、何ができて何ができないのかまだよくわからないんだよね。」
「ふーん、そっか。面白そうなやつだから開花させるのもアリ。」
「ほんとに!?面白い!?」
「うん、面白い。試しに尺骨あたりから刃出してみろよ。」
「尺骨………って言われてもよくわかんないな。だいたい小指側から見て肘までの骨で合ってる?」
「そうだな!だいたいそこら辺だ。やってみろ。」
黒い鱗の半獣人の少年はコクリと頷き、腕を下に向けて先ほどのように歯を食いしばりながら、まるで骨そのものが千切れるような激痛に苦しみ耐えながら、言われた通りに尺骨辺りから刃を形成しようとした。
次の瞬間!尺骨が押し広げられ、内側から何かがせり上がってきた!黒く鈍い光を帯びた刃が、肉を裂いて飛び出す。血が滴り、赤黒い筋が腕を伝って流れ落ちる。それは刃というよりも、まるで溶けた鉱石が急激に冷え固まったかのような歪なヒレのような形だった!
「はぁ…………はぁ………い……いた………まだ……いたい……できた……」
痛みに疲弊した黒い鱗の半獣人の少年は、涙を流しながら気を失いそうになりながらも姿勢を立て直し、ノクスへ駆け寄り弱りつつも自慢げにその刃を見せた。
「これみでぇ……できだよ…すごい……いだがっだ……」
「おー!すげー!!ガチで生やしやがった……けどさ、さっきオマエが腕を変形させてたとき、刃じゃねー方な?なんであん時はそんなに苦しんでなさそうだったんだ?スピードも速かったしな。」
それを見てノクスは嬉々として腕から生えた刃を見つつ、触りながらその疑問を述べた。それに対して黒い鱗の半獣人の少年はこう答えた
「あー……アレじゃない?ボクが興奮しすぎて、そんなに痛みを…その、感じなかったのかも?」
「へぇ〜。そういうことか。」
「ところでさ?あなたの事なんて呼べばいいかなって思ったんだけど………様付けとかした方がいい?」
「……?呼び捨てでいいだろ。目上の相手でもねーし。そのままノクスでいい。それはそうとオマエ、名前ないんだろ?特別だ。付けてやる。」
「ボクに…名前?いいの?」
「名前無いと呼びにくいからな。基本的に人間とかは何でもかんでも名前をつけるらしい。それに倣ってだ……そうだな…よし。」
ノクスは何かを思いついたのか、そこら辺に放置されている獣人の腕を引きちぎり、それをペンとして使い、地面にラテン文字でその名前を綴った。
「そうだな、直感的に考えて、オマエはオレを命がけでも護ろうとするだろうな?そんな目とかしてるんじゃするだろ。だからオマエには『守護者』を意味する『Ægis』と名付けることにする。文句はないな?イージス。」
「いー……じす?」
「そう!イージスだ。悪くない響きだろう?」
「イージス……か、うん!この名前、すごく気に入ったよ!ありがとノクス!」
名前を与えられ、仔犬のようにはしゃぐイージスの手を握って取り、「うし、一緒に行くか。家。」とノクスは言って、喜びながらイージスは手を繋いだままノクスとともに歩み進めるのであった……
第2話へとつづく…
【おまけ】
ノクス
生年月日 ????年4月17日
異名 《死を纏う魔人》
出身 [取り消し]
年齢 多分、20代
身長 182cm
体重 112kg
スリーサイズ B133 W90 H92
性別 ♂
髪の色 ない
肌の色 焼き爛れてる
瞳の色 白い
種族 [取り消し]
能力 『残滅因子』触れていれば如何なる物質をも破壊
好きなもの ない
好きな食べ物 旨ければいい
嫌いなもの ない
最も嫌いなもの ない