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短編

転校生

作者: 氷憐 仁

転校生って謎の魅力がありますよね...

転校生。

僕もこの学校に転校してきたのは、ほんの数か月前のことだった。 もともと人見知りで、陰キャな僕が新しい環境で友だちを作れるはずもなく、昼休みは教室の隅で小さくなり、授業が終われば誰とも話さず家に帰る。そんな日々を繰り返していた。

ある日、教室に先生が入ってきて、「今日から新しいクラスメイトが加わります」と言った。転校生だ。

その瞬間、心のどこかで期待していた自分がいた。同じ転校生、きっと気持ちがわかる仲間かもしれない、と。名前が呼ばれ、前に出てきたのは、明るい笑顔を浮かべた一人の男子だった。

彼はまるで光そのものだった。 自己紹介では流暢に話し、冗談を交えて笑いを取り、初日からあっという間にクラスの中心になっていた。次の休み時間にはもう彼の周りに人だかりができていて、どこかのグループに引っ張られていった。

その様子を、僕は遠くからぼんやりと眺めていた。期待していた自分が馬鹿みたいだった。ああ、仲間なんかじゃなかった。生きている領域も、見ている世界も、何もかもが違うんだ。

彼は笑顔で人と話し、みんなを楽しませる。一方で僕は、誰かと目を合わせるだけで緊張して、言葉が詰まる。

次第に、彼を見るたび胸が痛むようになった。羨ましさと自己嫌悪が入り混じって、息苦しくなる。彼は眩しすぎて、僕がいる薄暗い場所にまったく光が届かない。

ある日の放課後、彼が僕に話しかけてきた。「いつも一人でいるよね?何かあったの?」と。

驚いた。まさか彼が僕の存在に気づいているなんて思わなかったから。声を出そうとしたけど、言葉が出てこない。ただ俯いて、小さく首を横に振るだけだった。

彼は困ったように笑った。「そっか。でも、話したくなったらいつでも声かけてね。」

それだけ言って、彼は去っていった。

その背中を見送りながら、僕は思った。やっぱり、彼とは違うんだ。彼は気にかけてくれる優しささえ持っている。僕にはそんな余裕も、優しさもない。

その日から、彼を避けるようになった。彼が近づいてくると足早にその場を離れ、視界に入らないようにした。それでも、彼の声や笑顔が、どこか遠くから聞こえてきて、胸が軋む。

僕は、彼に近づきたいのかもしれない。でも、それが許されるはずがない。彼の世界に足を踏み入れる勇気もないし、そもそも僕なんかがその世界にいていいはずがない。

だから僕は、ただ遠くから彼を見ているだけでいい。いや、それすらもしてはいけないのかもしれない。

僕には、彼みたいな輝きなんてないから。


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