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捨て子の私は大国の皇子に愛される

作者: 緑玉

「リリー!リリーはどこだ!」

「はい、ヒノエ様。私はこちらにおります。」


ヒノエ様は私を見つけるとヒョイと持ち上げてスタスタと廊下を歩き始めた。

ここは丙国の城で私を抱えているヒノエ様はこの国の皇子で私より3つ上の19歳。太陽を思わせる赤い髪をもち、肩より長いそれをひとつに纏めて後ろに流している。精悍な顔立ちで瞳は黒い。仕事では厳しい人だが、私にはすごく甘い。

というのも、私リリー・ホワイトベルはまだ赤ん坊の時に丙国の港に着いた外来船に捨て子として積まれていた。船長さんも航海の途中で気づいたらしく、どうしようかと困っていた時に、たまたま港に視察に来ていた陛下と幼いヒノエ様に保護され、それ以来ずっとお城で大切に育てて貰っている。

名前は赤ちゃんを入れる籠の中に、紙が挟まっていて、そこに書かれていたそうだ。だからこの国の人たちと私の見た目はだいぶ異なる。私の髪はほとんど白に近い金髪で瞳は青い。

「あの、ヒノエ様、どちらへ?」

「あぁ、前に言ったと思うが、この大陸では1000年に一度、白鈴樹の力が弱くなる。それを復活させるために異世界から聖女が降り立つと言われていてな。その日が近づいて来たので、十干城へ向かうんだ。」

「…私も一緒にですか?」

「当然だ。他の国の皇子達も集まる。奴らがリリーにちょっかい出さなきゃいいんだがな。」

「ふふ、久しぶりに会えるのですね。それは楽しみです。」

この大陸には丙の他に、壬・庚・甲・戊の四つ国があり、五国のちょうど真ん中に白鈴樹が聳え立ち、大陸全体にエネルギーを与えてくれている。そのおかげで五国はどこも豊かで平和だ。それぞれの皇子たちは定期的に会合を開いて集まるなど、交流も深い。

そして1000年に一度、五国の皇子たちが白鈴樹のある十干城へ集まり、聖女をお迎えするのだ。

ちなみに白鈴樹に触れるのは聖女と皇子達のみ。他の者が触ると樹は枯れてしまう。


❄︎❄︎❄︎

十干城に着いた私たちは、聖女が現れる時をゆったりと待つことにした。ここに入れるのは皇子達だけなので使用人はいない。なので私はここに居ていいんだろうかと心配になる。それにヒノエ様はどことなく緊張した面持ちでなんだか心配事があるように見える。

暫くすると他の皇子たちも到着したようで、廊下をドカドカと歩く音が聞こえた。

「リリー!久しぶりだな!元気だったか?」

ガハハと豪快なのはツチノエ様。その後ろを美しい所作で歩いて来たのはミズノエ様とカノエ様。

「お久しぶりですね。リリー嬢」

「相変わらずヒノエに離して貰えないのですね。」

「うるさい。」

そんなワチャワチャの中、キノエ様は基本無口で立っている。だが私と目線が合うと柔らかい表情になった。

そして夜になり、皆んなで食事をとりお酒を楽しんでいた時、私は胸をざわつかせる情報を聞いてしまった。

「そういえば聖女が白鈴樹を復活させた後って、俺らの中の誰かが伴侶になるんだよな?」

ーーえ?

ドクンと心臓が嫌な感じで鳴った後、ヒノエ様の方を見ると厳しい目つきで杯に口をつけていた。

「聖女様が選ぶことです。我々に選択権はありません。」

ーーツチノエ様とミズノエ様の会話…ほんとうなの?

もしヒノエ様が選ばれたら…。ううん、だとしても私には関係ないことよ。私はただの捨て子。可哀想で哀れに思ってヒノエ様のお側に置いてもらってるだけ。ヒノエ様が結婚される時は…私はお城を出なければならないわね…


❄︎❄︎❄︎

ついに聖女様が現れる日になった。皆んなで白鈴樹のそばまで行ってその時を待つ。

目の前の樹を見ると、痛々しいほどに弱っているのが分かった。本来なら白い鈴のような花が咲き、風に吹かれると可憐な音がするそうだ。

その様子を頭で想像していると、頭上の空が突然輝きだし、そこから1人の女の子がゆっくり舞い降りてくるのが見えた。

私も皇子たちもその美しい光景に目を奪われ、その子が地面におりるまで視線は釘付けだった。

そして同い年くらいだろうか、戸惑っている様子の女の子にミズノエ様がまず話しかけた。

「初めまして。貴女が聖女様ですね。我々はこの地の皇子です。突然このような場所に呼ばれてさぞ混乱しているでしょう。ひとまず城の中へ…」

その言葉を遮って聖女様が突然はしゃぎ気味で喋り出した。

「きゃーーー!えっ!うっそ!大好きなゲームの世界に来ちゃったの⁈しかも私主人公じゃん!」

なんだか想像していた聖女像とだいぶ違って、私も皆んなも呆然としてしまった。

「もートラックに轢かれそうになってもう終わりだーー!って思ってたら、こんな事ある⁈」

何を言っているのか内容が全く理解できないでいる我々を他所に聖女は皇子5人をジロジロ見始めた。

「やっぱ本物は違うな〜カッコよすぎ!あ!私マリエって言います!」

「マ…マリエ様と仰るのですね。我々は右から順にヒノエ、ツチノエ…」

「知ってるよ!私ヒノエ様どタイプなんだー!でも他の皇子たちもすごくイケメンで迷っちゃう〜」

ことごとく話を遮られたミズノエ様は笑顔がピクピクし始めて、他の皇子達も表情が引き攣っている。

ヒノエ様は…なんだコイツはという目で見ている。

リリーは自分も自己紹介しなくては、とおずおずと口を開いた。

「あ、あの…初めまして。私はリリー・ホワイトベルと申します。」

そう言うとマリエ様は驚いた表情でこちらを見て頭を傾げた。

「え?そんなキャラいたっけ?」

キャラ?と他のみんなと今度はこちらが頭を傾げる。その時マリエは思い出したように言った。

「あ、樹だよね!まって、すぐ治すから!」

そう言ってクルッと白鈴樹の方へ向き直ると手を当てたーーーーーーーが、何の反応もなく樹も弱ったままだった。

「ええーー何で⁇ゲームではこれで花が咲くのに!」

じっと様子を見ていたカノエ様が口を開く。

「異世界からこちらに来たばかりで、力が安定してないのでは?しばらく城に滞在して、力を出せるように鍛錬されてみては…」

「うーん?そんな設定あったっけ?まあいいや!皆んなと一緒に過ごすとか最高じゃん!」

そう言いながらマリエはヒノエの腕に絡みついた。

リリーは驚きとショックで固まってしまった。

それを見たヒノエはすぐにでも腕を振り払いたかったが、この大陸の生死が聖女マリエに掛かっているため、丁重に扱わねばならず、我慢した。



それから何日か過ぎたが、一向にマリエの力は発揮されない。それどころか毎晩皇子達の部屋に押し入って遊ぼうと誘い、真面目に鍛錬する気も見せない彼女に、皆ゲンナリしてきていた。

「もう限界だ!なんなんだあの女!」

「まあまあ落ち着いて…仮にも聖女様です。やる気が出るのを待つだけです。」

「別のやる気はあるみたいだがな。」

シーンとして気まずくなったところで、ヒノエ様が私を庭に誘った。


ヒノエ様と2人で白鈴樹の前に立ち、樹を見上げる。

「早く元気になってほしいですね」

「あぁ。あと数年したらこの樹はダメになる…そうなったら五国は終わりだ…大地の恵みがなければ人々は飢え、野垂れ死ぬだろう。」

ヒノエ様の悲痛な表情に私も苦しくなって下を向く。

「俺は、国を守りたい。そのためにマリエ殿には真剣になって貰いたい。だがそれが無理なら別の方法を探すつもりだ。」

「別の方法があるのですか?」

「分からない。だが必ず見つける。一緒にやってくれるか?」

「もちろんです!私はヒノエ様に救われました。ヒノエ様とこの地に恩返しできるなら、なんでも致します!」

そう言ってヒノエ様を見つめると、ヒノエ様もふっと笑って頭を撫でてくれた。

「リリーが聖女だったら良かったのにな…」

サァァと風がふき、2人の髪を揺らす。ヒノエがリリーの頭に置いていた手を滑らせ髪を撫でながら一房すくい、そこに口付ける。

リリーは驚いて顔を真っ赤にする。その時、ギャンギャンした声が2人の甘い空気をぶち壊した。

「なんでヒノエ様がその女と良い感じになってんの⁈有り得ない!離れなさいよ!」

マリエが2人の間に割って入って来た。普通ならこんな不敬なことをすればヒノエが怒って対処するが、相手は聖女だ。戸惑いながらも、2人でマリエを宥めようとする。

「聖女殿!落ち着いて下さい。」

「なんでなの!私が誘っても全然靡かないくせに!聖女が選んだ人と結ばれるんじゃないの!」

騒いでいる声に、他の皇子たちも庭に出てくる。

しかしマリエはますますヒートアップして、ついにリリーを力任せに思いっきり押した。

「リリー!!」

ヒノエが叫んだ。

ふらついたリリーは背後の樹に激突するのを免れるため、咄嗟に身体を捻って手を太い幹の方に出した。ハッとした時にはもう遅かった。思いっきり手が樹に触れている。

ーー枯れてしまう!

そう皆が思ったが、なぜか樹は枯れない。

それどころか所々白い光が輝き出している。そしてその光は白鈴樹全体に広がって、ついには花が咲き始めた。風が吹いて咲いたばかりの鈴のような形の花々が揺れて音が鳴る。

リーンリーン…

「綺麗…」

手をついたまま白鈴樹を見上げ、思わず呟いた。

するとヒノエが突然後ろから抱きしめて来た。

「リリー!お前が復活させたんだ!すごいぞ!」

「ヒノエ様っ」

枯れなくて良かった、白鈴樹が元気になって良かった、そう思ったら涙が溢れて頬を伝った。

その光景を見てワナワナと身体を強張らせている人がいた。

「なんで!なんでよ⁈アンタなんなのよ!私の出番ないじゃない!これじゃどの皇子ルートも開かない!なんて事してくれたのよ!!」

そう怒鳴ってリリーに掴み掛かろうとしたところをキノエが取り押さえた。無言のまま。そんな彼にツチノエが声をかけた。

「おお、お前がキレてんの初めて見たわ。手伝うぜ。」

「では壬国で彼女のことは預かりましょう。」

ぞろぞろと4人の皇子達が城の中へ入っていった後、残されたヒノエとリリーは向かい合って立った。

「リリー、これで君はこの国の救世主になったわけだ。」

「そんな大袈裟なものでは…たまたまです」

するとヒノエはリリーの前に跪いた。

「⁈ヒノエ様⁈おやめ下さいっ!」

「リリー、俺はお前がずっと好きだった。だがこの白鈴樹のこともあり、想いを告げることは一生叶わないと思っていたんだ。だがそれが今日変わった。」

「でっ…でも私は外国から捨てられた人間で…」

「そしてこの地を救った真の聖女だ。聖女は皇子と結婚できる。」

「!!」

「どうか俺を、あなたの伴侶にしては貰えないだろうか。好きな人の夫になる幸運な男にしてくれないか。」

リリーの答えはもちろん決まっていた。

「はい…勿論ですヒノエ様っ。私もずっと、お慕いしておりました。私のことも、好きな人の妻になれる幸運な女にして下さい。」

「当然だ!リリー、愛している。」

そうして2人は優しく抱きしめ合い、風が辺りに吹いて白鈴樹の花が揺れた。

リーンリーン…

それはまるで2人の幸せな未来を祝福してくれるかのような音色だった。



ーー終ーー

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