85 見たことが無いものがあったら色々聞きたくなるよね
自転車の試運転をしていると、お隣のフローラちゃんたちに見つかってしまった。
そうなると、当然質問攻めにあう訳で……。
「アイちゃん、これ、わっかが2こしかないよ」
「ないよぉー」
「うん。そう言う乗り物だからね」
多分この世界には存在しないであろう自転車。その自立しない姿を見れば、普通はなんでこんなものを作ったのかと思うよね。
でも、フローラちゃんたちはさっき私がその自転車に乗っているのを見てしまったわけで。
「2こだけじゃ、あぶないよ。ころんじゃうよ」
「いたいいたいだよぉ」
ただ、実際に走っている所を見ても危ないとは思っているみたい。二人とも、私を何とか自転車から下ろそうとするのよね。
だから、これは乗っても大丈夫なんだよと説明することにしたの。
ってことで、まずはスタンドを立てて後輪が浮いた状態にする。
「ここに足をのせるところがあるでしょ。これを回すと……ほら、後ろの輪が回るの」
「ほんとだぁ」
「なんでなんで?」
チェーンどころか皮ベルトの動力さえ見たことがないのだから、ペダルを回したら後輪が回る理由が解らずに頭をこてんって倒す二人。
それがかわいくってずっと見ていたかったけど、そうすると更なるなんでなんで? 攻撃が来るのが解っているからここは自重。
「井戸は見たことあるよね? 上のところに桶についたひもを通してある輪っかがあるでしょ。あれと同じようなものがこのカバーの中にあって、この足を置くところを回すと後ろの輪っかが回るのよ」
「いどがこの中にあるの?」
「ちょっと違うんだけど……う~ん、いざ口で説明しようとするとちょっと難しいなぁ」
どうにかして教えようと思ったんだけど、それほど優秀ではない私の頭では考え付かなかった。
まぁ、無理なものは無理な訳で。余計に解らなくなる前に早期撤退を計る。
「とにかく、この足を置くところを回すと、後ろの輪っかも回るのは解ったよね?」
「うん」
「これを足で回すことをこぐって言うんだけど、そうすると手で回すよりも早く後ろの輪が回るの。そのおかげで倒れずに走れるのよ。解った?」
「う~ん、わかんない」
「わあんない」
まぁ、口で言っても解らないよね。ってことで、実際にやって見せることに。
私は自転車にまたがると、まずはペダルを使わずに足をついてトントーンと地面を蹴って前に進んでみせる。
「ほら、こうすると輪っかが二個でも転ばないでしょ」
「ほんとだぁ」
「とだぁ!」
二輪しかないのに転ばないことが解ってもらえたところで、ここからが本番。
「じゃあ、今度は足でこいで見せるわね」
そう言ってペダルを力強くこいでやると、スーッと進む自転車。
それを見たるローラちゃんとリーファちゃんは大喜び。でもね、私はあることを失念していたんだ。
「私ものってみたい!」
「わたちもぉ!」
こんな面白そうなものを見つけたら、自分もやってみたいと思うのは当然よね。
でも、まだ小さな子が自転車に乗れるわけが無いんだよなぁ。
「これ、かなり練習しないと乗れないのよ」
「なら、れんしゅうする!」
「わたちもすう!」
簡単に引き下がってくれるとは思ってなかったけど、打てば響くとはこのことかと思うほど即答で練習すると言われてしまった。
でもなぁ。流石にハイそうですかという訳にもいかないよね。ってことで妥協案を提示することに。
「それなら輪っかが二個だと危ないから、三個にしましょう」
「3こだとあぶなくないの?」
「倒れなくなるからね」
私は地面に上から見た、簡単な三輪自転車の図を描いて説明する。
「ほら。輪っかがこんな風についてたら、転ばないでしょ」
「う~ん、よくわかんない」
「わたちもぉ」
「そっか、解んないかぁ」
絵だけじゃ、どうにも伝わらない模様。
いや、私の絵が下手って訳じゃないのよ。実物が無いからうまく想像できないのよ。きっとそう!
「簡単な模型があれば解りやすいかなぁ」
そう思った私は、フローラちゃんとリーファちゃんを連れて自分の家へ。
「ちっちゃな三輪自転車の模型を持って来るから、ここで待っててね」
そう言って二人を玄関で待たせて、私は急いで地下の作業場へ。そこで簡易鍛冶ユニットを使って大きめのミニカーくらいの簡易三輪自転車を作成。
サドルもタイヤも金属製だし、時間がないからチェーンどころかペダルさえついてないけど雰囲気くらいはこれで伝わるだろう。
ってことで、それをもって急いで玄関で待っている二人の元へ。
「ほら、これ。こんなやつなら乗っても転ばないと思うわよ」
「なんかへんな形」
「へんなかあちぃ」
簡単に作りすぎたからか、二人ともそれが乗り物のミニチュアだと今一歩理解できていない模様。
それならばと、私は平らな石でできた玄関アプローチのところへ行って、その上で実際に走らせてみることに。
とは言っても、ただアプローチの上に置いて手で押すだけなんだけどね。
「ほら、見ててね」
ペダルはついていなくてもタイヤはちゃんと回るように作ったから、軽く押すだけでミニチュアの三輪車はアプローチの上をスーッと進んで行く。
するとそれを見たフローラちゃんとリーファちゃんは大興奮。
「すごいよ! これ、ちっちゃいのに馬車みたいにうごいた!」
「わたちもやう!」
フローラちゃんがびっくりしている間に、リーファちゃんが三輪車の元へ。
そこで力いっぱい押したものだから、まだ小さいとはいえミニカー程度の三輪車は進むというより吹き飛ばされると言った感じになってしまった。
だからなのか、不思議そうなお顔で私を見るリーファちゃん。
「あれ? アイちゃ、わっか、こおこおってなんないお」
「もっとそぉーっとやらないと、輪っかはコロコロしないんじゃないかな」
そう言いながら飛んで行った三輪車を拾うと、リーファちゃんの前に置いてそっと押してみる。
すると今度はちゃんと進んだものだから、リーファちゃんもちゃんと理解してくれたみたい。
「わぁ、こおこおちた! アイちゃ、こおこおちたよ!」
「うん。ちゃんとコロコロしたね」
ちゃんと進んだ三輪車を見て、リーファちゃんは大興奮。
それにフローラちゃんもそれを見てやってみたくなったみたい。
「リーファ、私もやりたいから貸して」
「やっ! リーがやうの!」
リーファちゃんに私にも貸してと言ったけど、取られまいと三輪車を抱え込んでしまった。
そうなると、当然ケンカになっちゃうよね。でも、そんなの見逃せるわけがない。
「フローラちゃん。それもう一個あるから取ってくるよ。だから少し待っててもらえるかな?」
「もう1こあるの? なら待ってる!」
別に目の前にあるものに固執しているわけじゃないから、もう一つあるのならケンカをしてまで取り上げる必要もない。
そう思ったのか、フローラちゃんが待っていてくれる言ってくれたので私は急いで家の地下へ。
一度作って登録されてるから今度は自動作成を使ってサクッと作ると、それを持って急いで玄関へ。
「わぁ、ちがう色のだ!
「これなら、どっちが自分のかすぐに解るでしょ」
形は同じだけど、こっちは真鍮で作ったから金を薄くしたような黄色。
因みにリーファちゃんが遊んでる方は自転車を作る時に使った鉄にニッケルを加えた合金の残りだから、どちらもさびて使えなくなるなんてことは無いんじゃないかな?
「気に入ったみたいだから二つともあげるけど、お外で遊ぶと壊れちゃうかもしれないからなるべくお家の中で遊んでね」
「「はーい!」」
いいお返事をしながら三輪車のミニチュアで遊ぶフローラちゃんとリーファちゃん。
あの様子からすると、自転車に乗りたいって言ったことなんて忘れちゃってるかな?
そう自分に都合のいいことを考えていたんだけど、後日しっかりと乗れる三輪車を作ってと言われるのはまた別のお話。




