84 ぺスパのはずれに住んだことで困ることもある
パルミエからエルフたちがそれぞれどの部屋に住むか、その配置が決まったと連絡が来たので私とミルフィーユは早速城の外へ。
そこで今まで我慢した分、思いっきりエルフの子供たちと戯れることができたのよ。
「お姉ちゃん、バイバイ」
「また来てねぇ」
おかげでみんなとすごく仲良くなることができ、帰るころにはこうやってお見送りまでしてもらえる程になったの。
だから少し帰りたくないなぁなんて考えもしたんだけど、流石にそんな訳にもいかないわよね。だって、ビタービートの話をデリアさんにしないといけないし。
「それじゃあ、みんな。またね」
そんな訳で思いっきり後ろ髪をひかれながらも、私はエルフの子供たちに手を振りながら転移ポートを使ってぺスパの自宅へと帰ったのよ。
すると、
「お帰りなさいませ、アイリス様」
「わぁっ!」
目の前にシャルロットがいてびっくり。
「ああ、びっくりした。こんな所で待ってたの?」
「はい。ミルフィーユから、アイリス様がお帰りになるとクランチャットが飛んできたので」
ああ、なるほど。ミルフィーユも私がエルフの里から帰る時にゲートが開く城の門で待ってたからなぁ。
私がぺスパに帰るのだから、留守番のシャルロットが出迎えるのは当然と考えたのかな。
「それで、私が留守の間に何もなかった?」
当然ハイという答えが返ってくるものと思ってそう言ったんだけど……。
「いえ、ございました」
「ええっ、なんかあったの!?」
びっくりして聞き返したんだけど、その内容は大したことじゃなかったのよね。
「はい。先ほどのことですが、ウォルトン商会ガイゼル支部より使者が参りました」
「ウォルトン商会って言ったら、クラリッサさんのとこよね。なんて言ってきたの?」
わざわざ使者を送ってくるなんて何の用だったのかと聞いてみると、その内容は当然と言えば当然の物だった。
「そろそろ落ち着いたころでしょうから、一度商会に顔を出してほしいとのことです」
「ああ、そう言えばすっと放置したままだったわ」
クラリッサさん、できたら10日に一度くらいは顔を出してほしいと言っていたものね。
なのにずっと放置していたのだから、流石にしびれを切らしたってところかな。
「それで、なんて返事をしておいたの?」
「お帰りになられたら伝えておくと」
「えっ? それで、そのまま帰ってくれたの?」
「はい」
そっか。私が家に居たのならともかく、留守なものはどうしようもないよね。
いや。クラリッサさんは私が森に入って薬草を摘みながらポーションを作ることを知っているし、案外この状況も想定していたのかも?
「う~ん。催促が来た以上は、流石に行かないとダメよね」
森には何度も入っているし、ポーションも作ってストレージに入れてある。だから行くこと自体は問題ないのだけれど……。
「どうやって行こうかなぁ」
ここはぺスパでもかなり端の方だから、ガイゼルの中央部にあるウォルトン商会まではかなりの距離があるのよね。
そりゃあフライングソードを使えば10分ほどで行くことができるわよ。でも街中を時速50キロほどの物に乗って移動しようものなら、間違いなく大騒ぎになるだろう。
「とは言っても、乗り合い馬車で行くのはねぇ」
前に乗せてもらった上等なクラリッサさんの馬車ならともかく、板張りの椅子に座って舗装もされてない道を馬車に揺られて行く気にはとてもなれないんだよなぁ。
どう考えても、お尻が痛くなりそうだし。
「かと言って10キロくらいある道を歩くのもおっくうだし……。自転車でも作るかな」
流石にディスクブレーキは作れないけど、ワイヤーで引くことでタイヤを左右から押さえるブレーキなら構造は知っている。
それにチェーンだってプラスチックの物なら組み立てたことがあるから、あれを金属で作ればいいだろう。
「流石に変速機は作れないけど、タイヤのゴムもストレージに入ってるから、多分大丈夫」
そう考えた私は、転移ポートがある部屋を出て、同じく地下にある作業部屋へ。
そこで鍛冶スキルを使ってフレームやペダル、それにスポークの代わりに5本の太い棒で支えるタイヤ部分(ボールベアリング付)やチェーンカバーなどの部品を作成。
そのあと皮革スキルと裁縫スキルの複合でサドルを、なぜか木工スキル(材料が樹液だから?)でゴムチューブと太いタイヤを作った後、いよいよチェーンとギア用歯車の作成だ。
「とは言っても、構造さえ知ってるとスキルを使えば簡単に作れるのよねぇ」
例えばチェーンだけど、組み合わせるパーツを一度作ってそれを一組くみ上げると、それだけで鍛冶スキルのライブラリーに登録されるの。
あとは自動作成を選べば好きな長さが一瞬で作れるから、最後に単品パーツでそれを円につなげば面倒なはずのチェーンもあっという間に完成だ。
「歯車の間隔はチェーンに合わせてっと。うん、こんなもんかな」
適当に仮組して前の大きな歯車を回してみると、ちゃんと後ろの小さな歯車も連動して回ってくれた。
ってことで、一応は自転車の形になったんだけど……。
「どうせなら、ペダルも空転するようにしたいよね」
今のままだと競技用自転車のように走っている時は常にペダルを回さないといけないでしょ。それも大変だから、止めたら空転する機構も作ることに。
「こういう時、自分がオタクでよかったと本当に思うわぁ」
なんて言うの? 一度気になったら調べないと気持ち悪くなるオタク気質ってやつ。その厄介な気質のおかげで、これも前に調べたことがあるのよね。
調べてみると案外簡単な仕組みで、なんて説明すればいいのかなぁ?
軸受けの内側が回転のこぎりを内側に付けたような形になっていて、そこに車軸側につけたばねで広がる何本かの羽根が引っ掛かるようになってるのよ。
これのおかげでペダルをこぐとバネ仕掛けの羽根が引っ掛かってギア歯車が回るけど、止めると外れてからからと音を立てながら空回りするってわけ。
「こんな感じでっと……よし、ちゃんと空回りするわね」
これも仮組してみたところ、ちゃんと動くようなので他のパーツも合わせて本組。最後にブレーキ部分を仕上げたら完成だ。
「そう言えば、あのチリンチリンってなるベルはどんな構造なのかしら?」
残念ながらもう調べることはできないので、ものすごくもやもやしながら組んだばかりの自転車をストレージの中へ。
そのまま外に出て、試運転を開始したんだけど……。
「あー、アイちゃんがなんか変なのに乗ってるぅ!」
「へんなのぉ!」
軽く家の周りを走っていたところでお隣のフローラちゃんとリーファちゃん姉妹に見つかってしまい、試運転を中断して質問攻めにあうのだった。




