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82 どうやら自販機もゲーム時代と少し変わっていたみたい


 悪い予想というものはよく当たるもので、案の定長老が自分も移住すると言いだした。


「この頃は歳のせいか体が思うように動きませんし、実を言うと前々から長老の重責に耐えられないと思っておりました」


 そう言って、一気に老け込んだような演技をする長老。


 イヤイヤ、あんたさっきまですごく元気だったじゃないか。


「急にそんなことを言いだしたら、里の人たちも困るんじゃないの?」


「大丈夫です。長老の座を狙うものはたくさんおりますから、わしがこの座を降りると言えば喜んで変わるものが出てくるでしょう」


 長老と名がつくだけあってエルフの里での地位はとても高く、それ故になりたいと思う人は多いらしい。


 というか、下手にやめると言いだすと長老の座を争って騒ぎが起こるかもしれないそうな。だめぢゃん。


「それじゃあ、そう簡単にやめることなんてできないんじゃない」


「いえ。きっと里の者がうまくやってくれると、わしは信じております」


 信じているというより丸投げする気満々だな、この人。


 そう思いながらも、こんなことを言いだしたのは私のいたずら心が原因だ。それ故にこちらも強く出られないのがもどかしい。


 と、ここで私の後ろに控えていたミルフィーユからこんな提案があったの。


「まぁ、これに関してはここでいくら話し合っても仕方がないことでしょう。ですから一度戻って、無事辞めることができたのならここに避難するお年寄りや子供たちの父親たちと共に再度訪れたらよいのではないですか?」


「そうよ。それがいいわ!」


 一も二もなくその提案にのっかる私。でも、長老はあまり意味がないと言うのよね。


「先ほども申し上げた通り、長老になりたがる者は多いのです。ですから私が辞めると言えば反対する者はほとんどいないと思いますよ」


「でも、引継ぎは必要じゃない。やめます。はい、さようならじゃ、さっき話に出て来た通り里で騒ぎが起こるんじゃないの?」


「それはそうなのですが……」


 そう言いながら、長老はあるものの方に目を向ける。そう、マッサージチェアだ。


 なんとも名残惜しそうなその視線に、私は大きなため息をつきながらこう言ったのよ。


「無事辞められたらまたすぐに戻ってくるのだから、少しの間我慢するだけでしょ」


「しかし、年寄りたちがここに移住したら取り合いになるのが目に見えているではないですか」


 今すぐやめてここに移住すれば、年寄りたちが来るまでの間マッサージチェアは使い放題。その誘惑には勝てませんと、なんとも情けないことを自信満々に言う長老。


 でも、確かにその通りなのよねぇ。


「ねぇ、ミルフィーユ。あのマッサージチェアって増やせる?」


「どうでしょう? トレードボックスが取り扱っているのなら、それほど難しいことではありませんが」


 ああ、なるほど。そう言えば家具関係も自販機には売ってるからなぁ。そこにあるのなら、買うのは簡単だ。


「ですが、これも使用するのに魔素が必要ですから、エルフの里では作動するか解りませんよ?」


「ああ、大丈夫。別にエルフの里に持って行くわけじゃないから」


 でもまぁ提案をする前に、売っているかどうかだけでも調べてみますか。


 そう思った私は、ミルフィーユと長老を伴って城の中へ。そのまま自販機の元へと一直線に向かったんだ。


「それじゃあ、調べてみますか」


 自販機を起動し、画面を家具の一覧へ。


「あれ? なんか異様にラインナップが増えてない?」


 開いてみて解ったんだけど、どう考えてもウィンザリア時代よりも売られている家具の種類が多いような。


 というか……。


「もしかして、ここにも私の記憶が影響してるんじゃない?」


 バーカウンターに置いてあった設備やお酒は、私が使ったり飲んだりしたことのあるものばかりだった。


 それと同じで、どうやら電化製品や各種家具なんかも私が触ったり試したことがあるものが増えてるみたいなのよ。


「調理場に水蒸気で調理する電子レンジやIHクッキングヒーターが置いてある異世界のお城。まさしくファンタジーの世界観ぶち壊しって感じよね」


 放送局というものが存在しないからか流石にラジオは無かったけど、ビデオカメラとテレビがラインナップに並んでいたるのを見つけた時は一瞬めまいが。


 でも、なぜかゲーム機は無かったのよねぇ。


「……ああ、そうか! ゲームソフトは家具じゃないからか」


 ここに並んでいるのはあくまで家具だもの。ゲームソフトはそのジャンルに入らないから当然ここには並んでいない。


 ソフトがなければゲーム機はただの箱でしょ。ラジオと同じで使い道がないから売って無いのだろうなぁ。


 そう思いながら一人でうんうん頷いていると、後ろからミルフィーユの呆れたような声が。


「アイリス様。本来の目的を忘れてはいませんか?」


「ん? ああ、そうだったわ。マッサージチェアはっと……うわぁ」


 マの項目を開いてちょっと引いてしまう私。というのも、そこには大型家電量販店のマッサージコーナーかというほど多種多様なものが並んでいたから。


「そう言えば私、家電量販店に行くと毎回いろんなのを試してたからなぁ」


 傘の柄を大きくしたような肩コリをほぐすマッサージ器を見ながら、これ欲しかったのよねぇなんて独り言ちる私。


 でも今はそれよりもマッサージチェアだと思い直し、項目をスクロールさせていくと……。


「やっぱり、これもかぁ」


 そこには6種類ほどの多機能マッサージチェアが。そりゃそうよね、試せるときは毎回全種類試してたし。


 幸い同じメーカーの物は1種類しかないらしく、私が最後に試したものが並んでいる模様。おかげで、どれを選んでも満足が行く性能の物を買うことができそうだ。


 それを確認したところで、私は長老に声をかける。


「長老、取引しましょう。一度里に戻り、次の長老を選んでちゃんと引継ぎをしてきてください。そこで大きな騒ぎを起こさなければ、その報酬として30日間だけあなたの部屋に専用のマッサージチェアを置いてあげましょう」


「30日間だけですか?」


 それを聞いてちょっと不満そうな長老。でも、それ以上だと流石に問題が出てくると思うのよね。


「長老の部屋だけにマッサージチェアがあったら、他のお年寄りが騒ぐのが目に見えているもの。だからご褒美は30日間だけ。そのあと、そのマッサージチェアは共用のお風呂場に並んでいるものの横に移動させます」


 それでもお年寄りが来るまでの期間よりかなり長い間独り占めできるからだろう。渋々ながら、長老はこの提案を飲んでくれるそうな。


 という訳で、長老の気が解らないうちにお見送り。


「10日後、オランシェットをエルフの里に派遣するからそれまでにお年寄りたちの説得と長老の引継ぎを済ませておいてね」


「お任せください。その代わり、あの魅惑の椅子をお願いしますぞ」


 最後に念を押す長老に苦笑しながら、私はともにエルフの里へ。そこで待っていた若いエルフに長老を任せると、


「それじゃあ10日後にまた会いましょう」


 そう言いながらゲートをくぐり、急に気が変わっても戻ってこられないようにとそのまま魔法を解除するのだった。


 読んで頂いてありがとうございます。


 今年一年、私の作品を読んで頂きありがとうございました。


 次回更新は一週間後、新年の1月7日になります。


 それでは来年もよろしくお願いします。よいお年を。


挿絵(By みてみん)


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