79 やっぱりできる女(ミルフィーユ)は仕事が早いわ
ゲートをくぐると、とりあえずミルフィーユに帰宅の挨拶。
「ただいま。エルフたちの受け入れ準備は進んでる?」
「はい。既に館をトレードボックスから購入し、何棟か設置済みです」
そう言って門とは逆の方を指さしたのでそちらを見てみるとMサイズの、それも比較的大きな二階建ての家が色違いで10棟ほど設置されていた。
「あれ、一棟で何家族くらい住めるの?」
「今のところ14世帯が入居可能なように区切ってあります」
一部屋が大体50平方メートルくらいの2LDK。ただ、入る習慣があるか解らなかったからお風呂はついていないそうな。
それが一階に6部屋、二階に8部屋という構成らしい。因みに一階の方が少ないのは部屋とは別に共同スペースがあるからとのこと。
「お風呂が必要な場合は大きめのMサイズの平屋を用意し、そちらに男湯と女湯を分けて設置する予定です」
「それが無難かなぁ」
部屋に付けるとその分狭くなってしまうもの。もし入る文化がなければ、まさに無用の長物になってしまう。
「お風呂に関しては長老に聞いて……あれ?」
ミルフィーユとの会話を続けながらゲートの方を振り向いたんだけど、そこにはなぜか誰もいなかったのよ。
だから首をかしげながらもう一度ゲートをくぐったんだけど、するとそこには先ほどと同じように多くの子供と母親の姿が。
「あれ? どうして移動しないの?」
うちの城に移動するって言ったわよね? それなのになぜみんな動こうとしないんだろう?
そう思って長老に訊ねてみるとこんな答えが返ってきた。
「この門がどれくらいの間開いているのかが解らず、皆怖がっているのです」
この門はゲートの魔法で突然現れたでしょ。だから移動中に突然消えてしまうかもしれないと、みんな怖がってしまったらしい。
「もしくぐっている途中で突然消滅したらどうなるのか。また、親と子、そのどちらか片方がくぐる前に消滅して離れ離れになってしまったら。それが怖くてくぐれなかったのです」
「ああ、なるほど。それなら心配はないわよ。私が消そうと思わない限り半日は開いたままだから」
ゲーム内時間の一日が日本時間で1時間だったからなのか、この世界に来て魔法の効果時間が軒並み24倍に伸びてしまってるの。
このゲートは自分で消すを選択しない限り15分間開きっぱなしだったから、この世界では360分。6時間は開きっぱなしってことなのよね。
「それほど長く開いているのですか?」
「ええ、そうよ。だから安心してくぐってくれればいいわ。あと、長老も聞きたいことがあるから、一度城まで来てもらえないかな?」
「はい。お供させて頂きます」
長老がエルフの女性たちに説明をし、私と一緒にゲートをくぐったことでみんな少し安心したみたい。
おっかなびっくりだけど、ゲートをくぐり始めてくれたんだ。
ただ、一つ問題が。
「なっ!?」
しばらくの間ゲートをくぐるエルフたちを見ていた長老が、ふと視線を別の方に向けた瞬間固まってしまったのよ。
だから何事だろうと思ってそちらを見てみたんだけど、私的には特に変わったところは見つけられなかったのよね。
「何をそんなに驚いているの? エルフにしか見えない化け物でもいた?」
少し笑いながらそう言ったんだけど、長老は驚愕の表情を浮かべたまま。
「どうしたの? そっちには山と森しかないでしょ」
いや、エルフは弓での狩りが得意だというから、もしかすると遠くにいる危険な魔物を見つけたのかもしれない。
そう思って長老が見ている方角を地図を開いて確かめようとしたんだけど、
「りゅっ」
長老が声を発し方からそっちを見たんだ。
「りゅ?」
「龍峰山脈があんなに近くに!」
ん? ああ、なるほど。エルフの里はあの山脈からかなり離れてたからなぁ。一瞬でこんなに遠くに移動したと知ってびっくりしてたのね。
私がそう安易に考えていると長老の声を聞いたのか、エルフの母親たちが龍峰山脈を見て悲鳴を上げだしたの。
「ひぃっ!」
「こっ、ここってまさか、魔の森の中!?」
何やら不穏な単語が出てきた気がするんだけど?
そう思って長老に聞いてみようと思ったんだけど、その前に向こうから切羽詰まった声で語りかけて来たの。
「このような壁も結界も無いところで、もし魔物や魔獣が現れたらどうするのですか!」
「ああ、大丈夫大丈夫。魔物は相手の力量を理解するから、間違ってもここに近寄ったりしないもの」
なるほど。長老やお母さんたちは、あの山脈の近くには強い魔物が住んでいるのを知ってたのね。
それに気が付いた私は安心させるためにここには近づかないから大丈夫と言ったんだけど、どうやらその言葉だけでは納得していない模様。
「アイリス様やその眷属様方がお強いのは解っております。ですが、あなた方がいない時にもし強大な魔物や魔獣が襲ってきたりしたら」
「う~ん、そうか。ただ口で近寄らないから大丈夫って言っても、安心できないわよねぇ」
そう考えた私は、安心できる理由を目で見える形で示すことにしたんだ。
「オランシェットは……まだゲートの向こうか」
ゲートをくぐると、オランシェットのところへ。
「ねぇ、整地に使ってるベヒモスは今どうしてるの?」
「城の近くで休ませていますが、それがどうかしましたか?」
現実世界に来ることで、召喚した精霊はそのままでもMP消費は無し。その上、送還しない限り消えることはなくなったのよね。
だからきっと呼び出したままだろうと思っていたけど、予想通りでちょっとほっとした。
だって目の前で召還すると、ベヒモスがいずれ消えてしまうんじゃないかと心配するかもしれないでしょ。
でも遠くから来るのを見れば、ずっと住み着いているんだとみんな納得してくれると思ったから。
「実は、エルフたちが魔物が来るんじゃないかとおびえているのよ。だからベヒモスを見せて、上位精霊が常に守っているから大丈夫だと証明してあげようかと思って」
「なるほど、よいお考えです」
オランシェットも賛成してくれたということで、彼女を連れ立ってゲートをくぐり長老の元へ。
「長老。ここが安全だという証拠を見せてあげるから、怖がってるお母さんたちを集めてもらえるかな」
「証拠ですか? 解りました。少々お待ちください」
そう言って長老が離れて行ったので、今度はオランシェットにお願いする。
「それじゃあ、ベヒモスを呼んでもらえる?」
「解りました」
私が頼むと、オランシェットは静かに目を閉じた。多分召喚精霊と心を通わせて、ここに来るように命じているんだろうね。
だからそれを横でぼけ~っと見てたんだけど、その間に長老がお母さんたちとその子供たちを連れて私たちのところへ集まってきたんだ。
「ご支持の通り、皆を呼び集めました」
「ありがとう。あっ、ちょうどいいタイミングだったみたいね」
遠くから聞こえてくる、ドスドスという大きな足音。それを聞いて音のする方に目を向けると、思った通り黒い巨体をゆすりながらベヒモスがゆっくりとこちらに歩いてきたのよ。
「ほら、あれが安全の根拠にな……」
だからエルフのみんなに紹介しようとしたんだけど、
「うわぁ、見たことも無いほどの巨大な魔物が!」
「もうダメ、あんなのに勝てるはずがない。みんな死ぬんだわ」
突如現れたベヒモスの巨体を見て、エルフたちは恐慌状態。
しまった。最初にベヒモスが来ることを説明しておくべきだったわ。
あれ? でも……。
「エルフって、精霊魔法を使うのよね? あれが魔物や魔獣ではなく、上位精霊だと解らないのかしら?」
そんな疑問から私は自分の失敗を棚に上げて、こてんと小首をかしげたんだ。




