7 単位がGなら普通はゴールドと思うよね
ステータス画面やフライングソード、それに生産スキルも使えるとなるとこの体はゲーム時代にできた、そのほとんどを使えるってことよね。
「それなら、もしかして」
わたしは期待に胸を膨らませながら、ゲーム時代は毎日使っていたあるものの存在を確認する。
それはストレージ、ラノベでいう所のアイテムボックスってやつね。
「これが使えればかなり楽になるんだけど……やった! 使える」
そこで頭の中で開くようにと念じてみると、目の前には見慣れたストレージ画面が。
ちょっと調べてみたところ、ゲーム時代と同様60×12の720個まで入る模様。
ただ召喚中にどこかでバグったのか、本来なら束にまとめられないものやダースのように一束の数が違っているはずのものも含めてそのすべてが99で1束になってるみたい。
おかげでストレージにいくつか飽きが増えてたんだ。
その上驚くことに、その中にはゲーム時代に持っていたアイテムがそのまま入っていたのよね。
「うわ、宝石やお金まで入ってる。ああ、これなら懐から生活費をもらってこなくてもよかったなぁ」
私がやっていたゲーム、ウィンザリアはかなりお金を稼ぐのが簡単なゲームだったの。
でもある理由があってそのお金のほとんどはストレージの中には入って無いんだけど、それでも100万ぐらいはあったんだ。
「ゲーム時代の単位はG。ってことはきっとゴールドよね。なら取り出したら金貨が」
そう考えたわたしは大いに期待してストレージからお金を取り出してみたんだけど……。
「なによ、これ」
出て来たのは100円玉をちょっと厚めにしたような感じのコインで、その材質はどう見ても金には見えないのよね。
「触った感じからすると、これって多分100円玉と同じような材質なんじゃないかな」
金貨どころか、銅貨ですらないのだからこの世界で使えるはずもなし。
期待が大きかっただけに、私は凄くがっかりしたんだ。
お金に関しては少し残念だったけど、しばらく休んだことで気分もスッキリ。
木々の間を高速ですり抜けることですり減ったスタミナもすっかり回復した私は、逃亡を再開する。
「う~ん、とりあえずあの山の麓辺りまで逃げようかな」
逃げ出した神殿とは逆の方向に目を向けると、木々の間から頂に雪が積もった山脈が。
その中でも一番高い山がちょうど真正面に見えたので、私はその山の麓を目指してフロートボートを走らせたのよ。
そして走ること40分ほど。
「はぁ~、きれいな湖ねぇ」
もうすぐ山の麓というところで、私はとてもきれいな湖を発見したんだ。
「当初の予定とは違うけど、景色もいいし、この辺りにするかなぁ」
実はさっきストレージを漁った時に、本来は入っているはずのないすごい物を見つけてしまったのよね。
それは何かというと、なんと家! それも私がウィンザリアで使っていたのと同じものだったのよ。
「これさえ出せば、とりあえずお風呂にも入れるしベッドで寝ることもできるようになるわね」
私はストレージ内一覧にある城タイプ(L)の文字を見ながら、思わずニヤニヤしてしまった。
ウィンザリアではそれぞれのキャラクターが家を建てることができたんだけど、そのサイズにはS、M、Lの3種類あったんだ。
ただ、誰もが土地を購入できる住宅エリアではSとMの2種類しか建てられなかったの。
じゃあLはどこでなら建てられるのかというと、それはクラン、ゲーム内でのプレイヤー集団のことね。
そのクランが専用のエリアを買うと、そこに1軒だけ建てることができたんだ。
それじゃあなぜ1軒しか建てられないLサイズの家を私が建てられたのかというと……特に大きな理由があった訳じゃなく、うちのクランの中では私しか建てようと思わなかったからだったりする。
実はこのLサイズの家、ゲーム内では販売されておらず、リアル課金をしないと手に入れることができなかったのよ。
うちのクラン<フェアリーガーデン>では、どうやら課金してまで大きな家を建てたいと考えたのが私だけだったみたいなの。
だからメンバーに建ててもいい? と聞いたところ、どうせ建てるのならばエリアの真ん中にドドンとデカいのを建ててくれとまで言われて無事Lサイズの家を持てたというわけ。
因みにこれはあくまで余談だけど前のクランマスターがゲームを引退する時に、この家を持っているという理由だけで私がクランマスターにされちゃったのよねぇ。
まぁ、だからと言って何の権限も無かったんだけど。
「でも、これがここにあるってことは、うちのクランエリアのシンボルが無くなっちゃったってことかなぁ」
うちのクラン、結構人がいるのにみんなSサイズの家ばかり建ててたから、今頃は真ん中にでかでかとあったこの家が無くなって寒村のようになっているんじゃなかろうか。
そんな寂しくなっているであろうクラン<フェアリーガーデン>専用エリアを思い、私はさめざめと泣いた。
まぁ冗談はさておき、そんなことを考えながら私はよさげな土地を探して湖の周りをフライングソードでフラフラ。
そしてここならここなら景色もいいし、少し高台になっているから長雨で湖が増水しても大丈夫という土地を見つけたんだ。
という訳で早速設置作業開始。
日あたりも考えて太陽を見ながら地球でいう所の南向きの土地を選び、ストレージ内のLサイズの家を指定すると何もない空間に家を建てますか? Yes/Noの文字が。
この家ユニット、ゲームの時と同じならばたとえ木が生えていたとしても普通に建てられると思うんだよね。
なぜかというとゲーム内の住宅地って道や川、それに橋以外の場所ならたとえそこに大岩があろうが大木が生えていようが設置すると普通に建ったからなんだ。
そこで周りに生えている木なんかは無視してYesを押すと目の前にオレンジ色の設置場所を示す表示が現れたので、それを動かして場所を微調整。
そして、ここで本当にいいですか? Yes/Noと出たのでYesをもう一度押したんだけど……。
「っ!? なんじゃ、こりゃぁ!」
いけない、見目麗しい可憐な美少女(過剰表現)に生まれ変わったというのについ地が出てしまった。
でも仕方がないのよ、だって目の前にとんでもなく大きな建築物が現れたのだから。
「ゲーム内でも大きいとは思っていたけど、現実になるとここまで大きかったのね」
どう考えても気楽に出していいはずがないというほど大きなこの家、元々はクランエリアの真ん中に建つランドマークにしようと考えていたから買う時に城の形を選んだの。
そう、浦安にある夢の国みたいなイメージで。
でも目の前にそびえたっている物はそんな小さなものではなく、まさしく城!
周りは堅牢な城壁に守られていて、開かれた鉄製の城門の先には青々とした芝生の大きな庭と城へと続く30メートルほどの石畳でできたアプローチ、そしてその先にそびえる城はとにかくデカかった。
「現実になると、L(拠点サイズ)の家ってこんなに大きいのか。これって、城だけでも栄の松〇屋本館より大きいんじゃないかな?」
私が住んでいた名古屋の中心地にある栄というエリアには、地元民なら知らない人はいないというほど有名な老舗百貨店がある。
目の前の家はなんと、その百貨店よりも広い敷地面積があるんじゃないかって言うくらい大きかったのよ。
見た感じ、横幅は優に120メートルを超えているんじゃないかなぁ。
それに確か奥行きは横幅よりも狭いけど、それほど変わらなかったはずだからそっちも100メートル以上はあると思う。
そんなものがいきなり目の前に出てきんだから、私が女性らしくない声をあげたとしても仕方がないことだろう。
「それにこの家、この敷地面積と同じ広さの地下まであるのよねぇ」
この家は課金して買ったものだから、ゲーム内で買える家よりもフロア数が多いの。
だから地下だけじゃなく地上も3階まであって、その上高い塔が一本伸びているから地上4階建てといえないこともないのよ。
そしてこのフロア数というのが実は結構重要なんだけど、それはまぁのちほど。